ランチェスター式 ABC分析 生産財マーケティングにおける重点顧客戦略(その2)

【生産財マーケティングにおける重点顧客戦略 連載目次】

 前回の生産財マーケティングにおける重点顧客戦略(その1)に続いて、解説します。

1. ランチェスター式 ABC分析とは

 ランチェスター式ABC分析は、ランチェスター戦略に基づいてシェアアップを実現するための実務体系です。一般的な顧客ABC分析とは異なり、顧客の需要規模と顧客内シェアのマトリックスによって顧客を格付けします。具体的には、顧客の需要規模3分類×顧客内シェア4分類の合計12分類で顧客の格付けを行います。

 まず、顧客の需要規模3分類についてですが、対象となる顧客を全て並べて、それぞれの需要規模を記入します。需要規模とは購買力です。例えばIT機器を扱っている商社であれば、一件ごとの顧客に対して、自社がIT機器を販売している金額だけでなく、競合であるX社やY社からどの程度購買しているのか、つまり、顧客ごとのIT機器に関する総需要額を記入します。そのためには需要額を調査することが必要になりますが、それについては後述します。

2. ランチェスター式 ABC分析の具体例

 図Cを使ってランチェスター式ABC分析を説明します。ターゲット顧客10社の簡単な表ですが、ターゲット顧客が数百社あっても考え方は同様です。ランチェスター式ABC分析はラージABCとスモールabcdに分かれます。ラージABCは通常のABC分析と同様に、10社の需要合計に対する各社の構成比を求めて、構成比の累計を算出し、上位70%までを大口顧客のA、95%までを中口顧客のB、それ以下を小口顧客のCとします。図Cの例では、Aが3社、Bが4社、Cが3社になっています。

 次はスモールabcdです。各顧客向けの売上を、全て自社が独占しているということがない限り、競合他社から購買している商品があります。自社が販売している商品の売上はわかりますので、競合他社が販売している商品の売上を合算すると顧客内のシェア(インストアシェア)が算出できます。このシェアの状況によって、以下の通りabcdをつけていきます。aは「自社がNo.1供給者の顧客」、bは「No.1供給者がいない顧客」、cは「他社がNo.1供給者の顧客」、dは「自社と未取引の顧客(新規開拓の候補)」です。

 No.1の定義ですが、単品商品で比較する場合は2位を3倍以上引き離した1位、複数商品の合計で比較する場合は2位を√3倍以上引き離した1位です。(これについては記事「成熟市場における競争戦略:ランチェスター戦略」をご参照ください)

 これで各顧客に対して、需要規模のラージABCと顧客内シェアのスモールabcdの2つの軸による分類ができました。これをマトリックスの図で表したものがランチェスター式のABC分析シートです(図D)。


 図C  

図D

 
 

3. 顧客の戦略的格付け

 12分類した各顧客の特徴は以下の通りです。

 以上のAa、Ab、Baは重要顧客として優先的に営業リソースを割り当てます。

要が拡大している急成長企業の場合はしっかりマークします。

 以上のAc、Bb、Caは一般的に数が多いので、優先すべき顧客としない顧客のメリハリをつけて対応します。

 Bc(中口で他社がNO1供給者)、Cb(小口でNO1供給者なし)、Cc(小口で他社がNO1供給者)は、時間をかけるべき顧客ではありません。全ての顧客を攻略することは不可能ですので、引き合いが発生した場合に営業対応するなど優先度を抑えるべきです。また、Ad、Bd、Cdの未取引顧客については、Adを中心に新規開拓の候補客を選定します。どの程度の時間をかけるかは、深堀りが必要な既存顧客の数との兼ね合いで設定します。以上がランチェスター式ABC分析の概要ですが、顧客の総需要額の調査を含めた、個別の顧客の情報収集と攻略方法について、その3で解説します。

 

◆関連解説『事業戦略とは』

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