範囲の経済性とは 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その49)

 
  
 
 「強みを未来志向で設定する」の解説、今回は第3要件の「顧客価値創出領域が広い」です。
◆関連解説『技術マネジメントとは』
 

1. 「範囲の経済性」とは

 
 経済用語に「範囲の経済性」があります。「範囲の経済性」に似た概念に「規模の経済性」があります。「規模の経済性」は、日々の活動の中でも良く使う用語ですので、皆さんもご存じと思います。
 
 「規模の経済性」は、同じ製品を数多く作ったり、販売することで、その設計や生産設備によるコストを数多くの製品に分散させることができるため、製品当りのコストを低減できることを意味します。
 
 一方で「範囲の経済性」は、異種の製品、事業、活動に広く同じ無形・有形の資産を活用することで、同様に製品、事業、活動のコストを低減できることを意味します。

 

 
 例えば、ブランドという無形の資産について言うと、ブランドの構築や維持には経営資源が必要です。したがって、そのブランドを多種の製品に活用することで、製品一つ当たりのブランド構築・維持費用を低減することができます。
 
 技術も同様です。技術開発にも経営資源の投資が必要ですが、その技術開発で獲得した技術的な成果を、多種の製品に活用できれば、製品一つ当たりの技術開発コストを低減することができます。
 

2. 強みの設定において決定に重要なのが「範囲の経済性」

 
 強みの設定においては、まさに「範囲の経済性」を考えなければなりません。上記でブランドや技術の構築の話をしましたが、新たな強みを構築したり、現有の強みをより強化するためには、経営資源が必要です。
 
 それら投資をした経営資源に「規模の経済性」を働かせて、対象を広く活用することで効率良く展開しなければなりません。
 
 特定の顧客や市場の要求や動きに任せて、様々な技術を開発したり、特定顧客に向けて製品を開発したりすると、「範囲の経済性」を実現することはできません。せっかく貴重な経営資源を投入して得た成果の利用先が、限定されるからです。
 
 つまり、強みは「使い回す」ことができないとなりません。それを「強みを未来志向で設定する第2要件:創出顧客価値が大きい」との連続性の中で定義したのが、この「強みを未来志向で設定する第3要件:顧客価値創出領域が広い」です。つまり、その強みで創出した大きな顧客価値を、様々な分野で実現できることが、強みの3つ目の要件となります。
 

3. 経営において意識されていない「範囲の経済性」

 
 この経営において極めて重要...
な「範囲の経済性」の概念は、企業の間であまり意識されていないように思えます。製品コストそのものの低減、すなわち分子の低減に向けて、日々大きな努力とエネルギーを傾注している企業は多いものです。しかし一方で、「範囲の経済性」により分母を広げることで、コストを低減するという戦略的な発想ができている企業は、大変少ないように思えます。
 
 次回に続きます。
 

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