品質を設計から作り込む方法タグチメソッド (その1)

 

1. 品質管理だけでは良い品質にならない?

 
 品質管理の定義は色々ですが、端的に言えば生産工程で不良を出さないようにする活動です。検査で品質データを観察することで良否を判別し、不良品が出荷されないようにします。
 
 昔々少品種を大量生産していた時代は、とりあえず設計したものを生産しながら改善していく、すなわち「品質は現場で作り込む」やり方が効率的だったのですが、近年は消費者ニーズの多様化や需給バランスの変化によって品種当たりの生産数が減ったため、「少しずつ良くする」構図が成立しなくなりました。さらに、製品が複雑化してきたために、製品原価に占める設計コストの比率が高くなってきました。
 
 このため、「設計直後から良品が製造できる」仕組みが重要になってきたのです。しかも設計コストの大半は人件費ですから、短期間で設計を完了したいものです。そんな都合の良い仕組みがタグチメソッドです。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

 

2. 効率的な設計には評価方法が重要

 
 1903年にライト兄弟が世界で初めて有人飛行を成功させました。当時政府や米軍の支援を受けた大規模プロジェクトが熾烈に開発競争していた中で、大学も出ていない自転車屋の兄弟が先んじることができたのは、風洞実験を多用したことが一因と言われています。簡便でローコストな評価方法を使うことによって、莫大な費用を消費する飛行機の試作品を作らなくても競争に勝てる設計が可能だったのです。
 
 現在であればコンピュータによるシミュレーションがさらに有効でしょうが、タグチメソッドの中の「機能性評価」も極めて効率的な技術評価方法です。
 
 タグチメソッドの全体像を私なりにまとめたものが下図です。これらを作り上げた故田口玄一氏は、多くの製造企業を指導しながら状況に応じてその都度工夫を重ね、50年以上かけてこの体系になったもので、全貌を一度に理解するのは容易でありません。この中で一番有名で使われることが多いのはパラメータ設計と呼ばれる部分ですので、今回はこの部分を説明しましょう。
 
 
 図. タグチメソッドの全体像
 

3. ばらつきを実験に組み込んで評価する

 
 設計者が実験する場合に、結果の再現性を高めようとして、実験要素(因子=パラメータ)以外は極力一定に揃え、純粋に因子の効果だけを抽出しようとします。研究機関が論文を書く目的ならそれで構わないのですが、工業製品の場合はあまり具合が良くありません。生産状況が変動したり、製品使用環境が多様なために、必ずしも実験室と同じ結果が再現できず、むしろ実験通りにならない場合の方が多いくらいです。
 
 部品、材料の納入スペックを厳しくしたり、作業手順書で製造工程を標準化したり、取説で使用条件を限定したりすれば、使用環境をある程度安定させることが可能ですが、往々にしてコストを上昇させ、利用者に不便を強いることで、いずれも製品競争力を下げることになります。
 
 そこでタグチメソッドでは、特性変化=ばらつきの原因となりそうな因子をいくつか選定し、その因子の水準をわざと変えた状態で、設計因子の水準組み合わせに対する特性を評価することで、ばらつき因子の影響を受けにくく、かつ要求仕様を満足する特性の設計因子水準を決定するのです。
 
 ちょっと複雑な方法です。ものづくりドットコムで紹介する方法のなかでも、自在に使えるようになるまでにやや根気を要するものの一つですが...
、慣れてしまえば当たり前のように使えるようになります。
 
 タグチメソッドをかなり以前から使ってきた富士ゼロックス、エプソン、リコーなどの事務機器メーカーに加え、技術の高度化に対応して2000年前後からは日立、パナソニック、東芝といった電機メーカーが全社的に採用し、そして日本産業をになうトヨタ、日産、マツダ、本田などの自動車メーカーも導入していることを公開しています。中堅以下の企業にはやや手強いものの、だからこそ習得すれば強力な差別化ツールになります。
 
 この続きは次回、その2で詳しく説明します。
 

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者