設計者によるデザインレビュー

  
 製品開発のテーマは大別すると、全く新しいアイデアを組み込んだ製品と既存製品をベースに開発する製品に分けることができます。そして新製品は、新しいアイデアによる製品をもとに派生する製品を開発、シリーズ化するものです。これが既存製品(モデル)をベースとした製品であり、一般的に「流用設計」といわれます。流用設計には、以下のようなメリットがあります。

◆関連解説『DR(デザインレビュー:設計審査)とは』

 
  1. 製品開発費用の削減
  2. 開発期間の短縮
  3. 実績による信頼性の高さ
  4. 原価が想定しやすい
  5. 製品の標準化・共通化によるコストダウンが見込める
 
 しかし、多くの新製品が、流用設計」によって進められるようになり、設計に起因する品質トラブルが多発するようになってきました。その結果、製品開発では試作テスト段階から再度設計をやり直す、出戻りが起き、莫大な費用が発生することになっています。つまり、それは前述したメリットが消え、やり直しというデメリットが目立つようになることです。このため製品開発では、デザインレビューの強化FMEAによる品質チェックの整備を進め、品質トラブルを未然に防ごうと必死に検討されています。
 
 これらの方法は、どうしてもトラブルが発生したあとの対処療法的になることが多く、後追いになってしまいがちです。もっと基本に立ち返って、設計者が、製品やユニット、部品に要求される品質や性能について、機能の視点からしっかりと捉えることが必要です。次に実際に起きた事例をもとに考えてみましょう。
 
 ある企業で、事務機の開発を進めていて、最終段階で製品を梱包した状態でのテストを行っていました。事務機を梱包した状態で、一定の高さから落とす落下テストです。この結果、キャスターの車輪が割れるという問題が発生しました。製品開発の最終段階であり、生産開始の日程も決まっています。キャスター・メーカーからの解決案もなく、開発プロジェクト・メンバーは騒然としました。
 
 このキャスターについて、機能の視点から考えると、「ワーク(事務機)を容易に移動する」ということです。そして、キャスターには、その機能を達成するうえで、いくつかの条件が設定されます。つまり、機能に対する条件の設定です。条件には、機能条件、使用条件、制約条件の3つがあり、キャスターの高さや耐荷重、取り付け方法、使用温度範囲などが代表的な項目です。
 
 今回開発した事務機のモデルになった機種では、キャスター1個に対する耐荷重が、60㎏以上という条件が設定されていました。モデル機種の重量と今回開発した事務機の重量を比較すると、当然今回の機種が重くなっています。この結果が、耐荷重60㎏の条件では不十分ということであり、キャスターの車輪が割れた原因です。
 
 設計者は、この例のようにユニットや部品を機能の視点から捉え、機能に対する条件を把握しておくことで、品質トラブルのチェックポイントを自ら設けることができます。デザインレビュー時に複数の社員が、FMEAなどを使い品質チェックをすることも大切ですが、設計をするのは設計者です。設計者自身が確認すべき情報、過去の経験則や実機テストによる情報を意識して保有することです。これが、設計者の「設計力を高めること」であり、品質トラブルを未然に防ぐことができるのです。
 
 コストレビューについても、同様のことがいえます。品質とコストのトレードオフということを聞いたことはないでしょうか。品質とコストのトレードオフは、品質とコストのバランスを考えて、適切なコストで品質の維持を図ろうとするものです。これは、不良ゼロ(撲滅)を目指す活動は重要ですが、必要以上に費用をかけて不良ゼロにするのではなく、不良ゼロではないか安価な費用で管理できるようにする判断に使います。
 
 製品の開発では、目標原価が設定されています。設計者には、目標原価の実現が強く求められます。このため、目標原価をもとにコストを優先し品質を落とすことを認めるような勘違いをしている方がいます。目標原価についても、前述の機能と条件の視点から...
考えることができます。ユニットや部品などの機能および条件を満たす方式(やり方)はいくつかあって、その中から最適なコストの方式(やり方)を選択することです。そして、設計者は、この方式を具体化する段階でアイデア力を発揮します。手順は次のようです。
 
【 機能 ⇒ 条件 ⇒ 方式 ⇒ 方式の具体化 ⇒ 部品の仕様 】
 
 これが、その会社の技術力に繋がっていくことになるのではないでしょうか。ちなみに前出のキャスターの事例では、問題を解決するとともに現行のコストを下げることにも成功しました。この理由は、打合せをしたキャスターメーカーの技術力によるものです。デザインレビューは重要ですが、設計者の技術力向上をしっかりと検討していくべきことが先ではないでしょうか。
 
  

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