普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その7)

 

 
今回は、非連続のイノベーションについての4つの展開パターンを、解説します。
◆関連解説『事業戦略とは』
 

1. 起こすべき非連続のイノベーションの創出対象

 
 民間企業における非連続のイノベーションで、創出すべき対象は何か、それは、「未だ実現されていない大きな顧客価値」と理解すべきと思います。なぜならば、まず後半の部分の「大きな顧客価値」に関しては、「大きな顧客価値」を実現すれば、顧客は大きな対価を払ってくれるという事実があります。収益創出を目的としている企業においては、これは本質的に重要な部分です。
 
 前半の「未だ実現されていない」については、仮に「大きな価値」を創出できたとしても、「大きな価値」が既に実現されていては、もしくは他社が既にその実現に向けて活動をしているのであれば、「大きな価値」を実現しても、市場での競争が生まれ、各社自社の受注を目指しての価格競争になることから、もはや顧客は顧客が認識する価値(「大きな顧客価値」)相当の対価を払ってくれはしません。
 

2. イノベーションの2つの原料:市場知識と技術知識

 
 それでは、「未だ実現されていない大きな価値」は何から生まれるか、それは市場知識と技術知識のスパーク(化学変化)から生まれます。まず、「未だ実現されていない大きな価値」なのですから、市場にはどのような実現されていない価値、すなわち潜在ニーズが存在するかを想像する知識が必要です。それが「市場知識」です。
 
 一方で、そのような潜在ニーズがあることが認識できても、製品として実現するための技術がなければ絵に描いた餅です。そこで技術的解決策を考えるための「技術知識」が必要とされるのです。私は、「市場知識」と「技術知識」がスパーク(化学変化)を起こすことで、「未だ実現されていない大きな価値」が創出されるものと考えており、この2つをイノベーションの2つの原料と呼んでいます。
 

3. イノベーションを生むスパークの4つのパターン

 
 この2つのスパークからイノベーションが生まれるとすると、スパークには次の4つのパターンが考えられます。
 

(1) 既存の市場ニーズと既存の技術的解決策

 
 既に世の中ではその市場ニーズは認識されていて、かつ、まだスパークは起きていないものの、その市場ニーズを満たす製品を実現するための技術的解決策は既に存在している場合があります。つまり、その市場ニーズと技術的解決策はマッチングはされていなかったが、なんらかのきっかけでマッチングし、スパークが起きるというものです。但し、既に市場ニーズも認識され、またそれを満たす技術的解決策もあるのですから、これは非連続のイノベーションではなく、連続的イノベーションと考えるべきでしょう。
 

(2) 既知の市場ニーズと未知の技術的解決策

 
 これは既に市場ニーズとして世の中で認識されているものの、その技術的な解決方法が存在しないというパターンです。多くの研究者が関心を持ち、実際に活動を行っているのがこのパターンで、企業が行っている研究開発の大半がこのカテゴリーに属します。このパターンでの展開の問題点は、その市場ニーズの解決価値が大きければ、既に多くの企業が取り組んでおり、競争はより熾烈になる傾向にあります。
 

(3) 未知の市場ニーズと既存の技術的解決策

 
 既に世の中にはその未知の市場ニーズを満たす技術的解決策は存在しているが、市場ニーズ自体が認識されていない場合です。未知の市場ニーズさえ見つけることができれば、すでにどこかにその解決策は存在しているので、実現は比較的容易です。また、競合企業はこの市場ニーズの存在をほとんどの場合知りませんので、競争はありません。したがって、大変魅力的なパターンです。しかし、多くの企業がこのパターンの価値を認識していません...
 

(4)未知の市場ニーズと未知の技術的解決策

 
 このパターンは、未知の市場ニーズを未知の技術的解決策で解決しようとするものです。科学の追求はこのパターンに属します。両方とも未知ですので、民間企業がこのパターンを追求することは、あまりに不確実性が大きいので適当ではありません。
 

4. イノベーションの創出、狙うべきパターン

 
 以上より、必然的に企業が非連続のイノベーションの創出を狙うには、(2)の「既知の市場ニーズと未知の技術的解決策」と(3)「未知の市場ニーズと既存の技術的解決策」となります。
 
 次回から、この2つの方向性について解説をしていきます。
 
 

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