『価値づくり』の研究開発マネジメント (その18)

 
  前回のオープンイノベーションの心理学では、組織の構成員の持つオープンイノベーションに対する漠然とした不安について解説しました。しかし、組織には、そもそもオープンイノベーション導入のような大きな変化には抵抗するようにできているということがあります。今回はそのことを中心に解説します。
◆関連解説『技術マネジメントとは』
 

1.組織の「ホメオスタシス」(恒常性)の存在

 
 人間を含む生物などが一定の状態(体温、血圧、体液のpHやその総体としての健康状態)を保つために、その状態が変化した場合に、基に戻そうとする機能にホメオスタシスがあります。人間にとって、その状態が変化すれば死に至りますので、ホメオスタシスは生命維持にとって欠くべからざる極めて重要な機能です。

 組織にもこのホメオスタシスが存在し、組織の変化への抵抗も、このホメオスタシスから理解することができます。それまで慣れ親しんだ組織がそれが「より良い」と認識する現状を変化させようとする動きがあると、組織には本来的にそれに抵抗し、基の状態を維持しようとする自然な機能が備えられるというものです。

 言うまでもなく、本来は組織は目先のことだけでなく、その先の事を考えて、それに備えて変化をしていかなければなりません。大きな外的な環境変化などが起きつつある状況下においては、目先の狭い視野での「良い」ことと、広く長期の視野での「良い」こととは大きく異なります。
 

2.狭い目先の視野と広く長期の視野の乖離の大きさが組織の抵抗の大きさを決める

 
 健全で優秀な経営者は、当然この広い長期の視野で「良い」状態の実現を追求する訳ですが、それが現状にとっての「良い」状態との乖離が大きければ大きい程、すなわち、現状の経営を大きく変えれば変える程、必然的に組織の抵抗も大きくなります。
 

3.オープンイノベーションは現状の経営を根底から変えるもの

 
 GEのウェブサイトの中には、自社のオープンイノベーション活動の紹介ページがあり、そこには、次の記述があります。

We’re initiating a fundamental shift in the way we do business -
this is what we’ll stand for in our open collaboration efforts
and how we will operate.

 すなわち、GEはオープンイノベーションを経営における「fundamental shift」と捉えているのです。GEだけではありません。オープンイノベーションの先駆者であるP&Gは、その導入に当たり、外部パートナーとの研究開発を全体の50%にするという極めて野心的な目標を掲げました。つまり、オープンイノベーションは、これまでの経営を根底から変えるもの(fundamental shift)であるということです。また、オープンイノベーションの果実を最大化するためには、...
そもそもそのように捉えるべきであるということだと
思います。
 

4.オープンイノベーションは必然的に組織の抵抗を生み出す

 
 オープンイノベーションの果実を最大化すべく、それを導入しようとすれば、「必然的に」組織の生命維持機能のホメオスタシスが機能し、組織存続のために強く抵抗するものであると言えます。そのため、オープンイノベーションの導入に当たっては、経営者はこの組織の強い抵抗を所与のものとして、それに強い意志を持って対峙、対処するという覚悟を持たなければなりません。
 
 

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