『価値づくり』の研究開発マネジメント (その16)

 
 
今回も、前回から引き続きオープンイノベーションの経済学の7つ目、「取引コスト」です。「取引コスト」は、これまでオープンイノベーションの促進要因として紹介したキーワードとは異なり、オープンイノベーションを進める上で阻害要因となる概念です。
◆関連解説『技術マネジメントとは』
 

1.「取引コスト」とは

 
 「取引コスト」とは、第3者と経済的な取引を行う時に発生するコストの事を言います。オープンイノベーションでは、それまで社内で行っていた活動に代えて、外部よりその活動やその成果を調達するということを行います。その場合、従来であれば社内で行っていたために発生していなかった費用が、外部から調達することで新たに「取引コスト」として発生します。例えば、事前にどの企業や大学を対象とするのかを探索・検討する費用が掛かります。更に、対象者を決定した後に契約を行いますが、契約交渉のためには自社の社員の人件費や旅費、そして外部の弁護士等を利用する費用も掛かります。
 
 また契約後にも、契約通りにオープンイノベーション活動が履行されるかのモニタリングや、契約通りに履行されない場合、また新たな問題が発生した場合への対処にも費用が発生し、また実際の損害も発生することが考えられます。
 

2.「取引コスト」はオープンイノベーションの阻害要因の一つ

 
 これまで見てきたように、オープンイノベーションから得られる経済的なメリットは極めて大きいものがありますが、一方でこのような「取引コスト」が掛るという問題があり、この「取引コスト」がオープンイノベーションの大きな阻害要因の一つとなっています。(ちなみにもう一つの大きな阻害要因が、社員の心理的な抵抗です。この議論は別稿で行います。)
 

3.「取引コスト」への対処

 
 それではこのような「取引コスト」に対しては、どのように対処すれば良いのでしょうか。
 

(1)トライアル&エラーの姿勢が欠かせない

 
 オープンイノベーションの先駆け企業であるP&Gで、オープンイノベーションを担当している、J.ラーダキリシャナン ナーヤ氏は、「オープンイノベーションの組織は、この10年間で成功も、失敗もいろいろ学びました。」(「日本型オープンイノベーションの研究」、21世紀政策研究所シンポジウム)と言っています。つまり、オープンイノベーションとは、いまだ何が正しい方法かが明確になっている活動ではないため、とにかくやりながらそこから学び考え、その活動を進化させるという姿勢が欠かせません。

 日本企業は石橋を叩いて渡る傾向が強いように思えます。このような日本企業の姿勢が、オープンイノベーションの取り組みにおける欧米企業よりの遅れの大きな理由ではないかと思います。
 

(2)支援部門の強化および新設

 
 「取引コスト」の低減活動は、購買において長年にわたり企業の中で行われてきた活動です。従来の購買では、モノを調達することが主眼に行われてきましたが、それが技術やノウハウ、能力に変わっただけです。しかし、技術やノウハウ、能力といった無形の資産を調達することは、従来のモノの調達にはなかった難しい要素があります。

 例えば、無形であるが故に、その探索・評価、また契約対象の範囲の特定やモニタリングが難しいということや、無形ですので、それがどんどん拡散してしまう可能性があるなどの点については、きちんと対処をしなければなりません。従って、オープンイノベーション実現において、知的財産部門や法務部門の役割は極めて大きくなります。

 そして、オープンイノベーションの全体のプロセスを推進・マネジメントする専任部門も必要となります。また、調達する技術やノウハウについての知識を...
持っている技術担当者も、オープンイノベーション実現のプロセスに積極的に関わり、またそのためオープンイノベーションの知識を持たたなければなりません。
 

(3)トップのコミットメントが必須

 
 上述の、P&Gのオープンイノベーションの担当者の言葉にあるように、オープンイノベーションの推進施策においては、ある確率で失敗が必然として発生するわけですので、それを許容する価値観が組織全体で求められます。したがって、トップの失敗を乗り越えオープンイノベーションを力強く進めるというコミットメントとが、絶対に欠かせません。この部分が担保されなければ、社員はオープンイノベーションには積極的には取組みません。
 
 

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