デザインによる知的資産経営:イノベーション・ブランドと知的資産(その1)

 知的資産経営を語るとき、2つのキーワードがあります。イノベーションとブランド(づくり)です。そこで今回は、これら2つの言葉の意義を明らかにしつつ、イノベーションやブランドと「知的資産」とのつながりを解説します。
 

1.イノベーション

 

(1)イノベーションとは

 
 INNOVATIONはINNOVATEの名詞形であり、かつては「技術革新」と訳されていましたが、今いわれているイノベーションは、技術という狭い枠の中でのことではありません。グライグ・M・ボーゲルら著『ヒット企業のデザイン戦略』(2006年、英治出版)では次のように述べられています。
 
 「テクノロジーは進化し、今でも発明は続いているが、イノベーションはグローバル経済を動かす原動力として、発明を代替するようになった。我々がイノベーションという言葉で意味するものは新しい技術の発明だけに留まらず、インサイト(注:顧客の潜在願望程度の意味合い)に基づく活用、商品化、機能拡張、既存技術との組み合わせなどを含む。重要なのは、企業から見て何かが増えたということではなく、顧客から見て価値のある飛躍であることだ」本稿では、イノベーションをこのような意味の語として
用いることとします。
 

(2)なぜ、イノベーションなのか

 
 日本の企業は、「技術開発(技術革新)」を基礎として、新しい製品を提供することを中心に活動してきました。その結果、過去には年間40万件を超える特許出願(国内)を行い、「特許大国」といわれてきました。今でも件数こそ減っていますが、世界第3位の出願件数であり、図1のように、特許大国であることに変わりはありません。
 
      
             図1.五大特許庁における特許出願件数の推移
 
 また、研究費についても若干の減少はあるものの、図2のように高い水準を維持しています。
 
      
                図2. 日本企業における研究費の推移
 
 しかし、新しい技術に基づいた製品を世に出してきた日本企業は、図3のように製品を市場に投入した初期は世界で大きなシェアを獲得していたとしても、その製品が普及するにつれてシェアを大きく落とすという事態が恒常化しています。その理由として、国内における製造コストの問題や日本企業は製造過程で調整が必要な「すり合わせ型」の製品には強いが、デジタル化して調整が不要な「モジュール型」の製品への対応に失敗した、などの指摘がされています。また、表1のように日本の企業の利益率の低さにも問題があるといえるでしょう。
 
       
            図3.イノベーションの成果 知財が競争力に寄与できていない
 
       
 
  海外平均の5割程度しかないのです。投資して開発した製品が、そのシェアを維持できない。それに加えて、利益率が低いのです。そこで、イノベーションが求められているのです。イノベーションが語られるとき、主となるテーマは垂直統合(自前主義)からの脱却、部品ごとに最適なパートナーと協業する、アップルのような「水平統合型」への移行であるようです(『国際標準化と事業戦略』小川紘一著、2009年、白桃書房、『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』妹尾堅一郎著、2009年、ダイヤモンド社など)
 
 しかし、製造のスタイルを変えればそれでイノベーションをなし得るのでしょうか。その前に足下を見つめる必要があるのではないかと思います。なぜならば、従来の技術開発をベースとした製品は、新しく開発された技術を既存の製品に埋め込むこ...
とで成り立っていました。また、技術開発の多くは、既存の製品に搭載するための新しい機能に対応する技術の開発でした。すなわち、今までの製品に新たな機能が付加されたものが「新製品」として市場に出ていたのです。
 
 既存の製品+新機能=新製品でした。つまり、「プロダクトアウト」です。ここで抜け落ちているのが「インサイト(顧客の潜在願望)」(マーケットイン)です。ここでは「インサイト」という視点を重視したいと思います。
 
 次回、その2では、(3)発明とイノベーション、(4)について解説します。
 
 
◆関連解説『技術マネジメントとは』

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者