『坂の上の雲』に学ぶ先人の知恵(その16)

 
 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、『論理的思考を強化せよ』の章、解説を進めています。
 

8. ショートカット思考

 
 飛躍思考、ショートカット思考は、組み合わせでいくつかの分かれ道があったときに、選択肢はもうこれだなと自分で判断できるのです、考えるのは何百通りもなくて、3通りか5通りぐらいを考えれば済むということです。
 
 いきなり頭の中でいろいろな思考回路を働かせて、最終的に最適な案はこれだと、パッと出てくるのを飛躍思考と言います。フィーリングではなく、ちゃんと頭の中でデータ処理をしています。データプロセシングがあり、性能がものすごくよければ、これとこれはもう検討する必要がない、すぐこれだとヒラメキふうに出てきます。これが飛躍思考で、畑村氏は「直観力」があるというのです。直観力ができるようにならないといけないでしょう。もちろん一朝一夕にはできません。そのことについて徹底的に考え抜いた後に得られるもので、専門家は、このような直観力が働くのです。
 

9. 東郷の敵前回頭

 
 『坂の上の雲』の中では、対馬沖の日本海海戦で東郷平八郎はあの有名な敵前回頭をしました。回頭とは、敵の艦隊を迎え撃つとき、自分の艦隊を敵に近付け、直前でUターンすることです。本の中に詳しく書かれていますが、決してイチかバチかの冒険ではなく、いろいろな要素を考え合わせると、別にそれほど心配ではないというのが東郷の判断でした。東郷が偉いのは、ここでいう飛躍思考により不安なく決断をおこなったことです。
 
 
 簡単に解説します。この時代の軍艦は砲が艦の横(舷側)に並んでいました。敵艦に向かって攻撃するためには、敵に対して横方向になればより多数の砲が使用できます。縦隊でまっすぐ進んでくる敵艦隊に対して、相手の進路を横にふさぐ形、つまり丁の字の体勢になれば、敵の先頭艦が前を向いている状態で、多数の弾で攻撃を浴びて圧倒的に有利な体勢になります。
 
 この戦法は古くから知られていましたが、敵艦隊もそれを避けようとするし、お互いに動いているので回頭している数分間はこちらも砲を打てないから、相手にスキを与えることになります。実際にはきわめて危険な戦法と言われていました。
 
 「天気晴朗なれども浪高し」の状態で照準を合わせるのはなかなか難しいでしょう。さらに書いているのは、当時の技術では、距離を測って標的を計算するのは簡単でなかったのです。新しい的を決めるのに3分か5分ぐらいかかる。敵艦が砲撃するまでには十分な時間があり、心配する必要はないことを東郷は瞬時に判断して、敵前の回頭を決断したのです。
 
 それもイチかバチかではなく、不安なく決定したとしても、よそから見ていると、イチかバチかにも見えたのでしょう。東郷は畑村氏の言うまさに飛躍思考をやっていたことになるのです。もし、波が穏やか...
で、しかも照準がすぐ標的を変えられる能力があり、射撃が優れていたなら敵前回頭はあり得なかったはずです。東郷はそういうすべての要素を計算に入れたから、「今だ」と判断したのです。まさに偉大なるベテランの飛躍思考です。東郷が偉いのは、勝利のための大冒険をしたことではなく、不安なく瞬時に判断したことであると司馬遼太郎は書いています。
 
【出典】
 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載。
 
  
◆関連解説『人的資源マネジメントとは』

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