【ものづくりの現場から】力触覚デバイスを武器に世界を目指すベンチャー企業(Hapbeat)

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ものづくりドットコムの連載「ものづくりの現場から」では、現場の課題や解決策に注目し、ものづくりの発展に寄与する情報を提供しています。今回は、力触覚デバイスの開発、設計に取り組んでいるHapbeat合同会社にスポットを当てます。

 

企業概要

2017年の創業以来、小型・高出力・高品質全てを兼ね備えた新しい力触覚デバイス「Hapbeat」の開発・製造・販売を行っている東京工業大学発のものづくりベンチャー企業です。同社が描く将来は「今日の動画や音楽のように、力触覚コンテンツを「誰でも」創り出せ「いつでも」楽しめる世界を創り出す」ことを目指して事業を行っています。

 

CEO&CTO

Hapbeatを発明した、VR・触覚技術に精通する東工大の博士&准教授

同社の特徴の一つが大学発ベンチャーであることです。大学で学び、研究し、実践した成果を大学卒業、大学院修了後も継続して活用する形で事業化するスタートアップの取り組みは参考になる点が多くあります。

同社CEOの山崎氏は東京工業大学工学部機械科卒、同大学院情報通信系修了。Hapbeatの前身となる装着型体感音響装置を修士研究で発明し、多数の触力覚系、VR系。特に2016年夏に開催された力触覚系の主要な国際会議EuroHaptics2016の国際会議で発表を行うではベストデモ賞を受賞。学術的に高い評価を受けています。新しい機構や活用法を生み出すことを得意とし、今日まで様々なプロトタイプやデモの開発改良を行っています。

また、同社CTOの長谷川氏は東京工業大学の准教授。学生時代は東工大の技術系サークル、ロボット技術研究会に所属時VRに出会い、作品製作を通してソフト・回路・メカを学ぶ。修士修了後、一度VRの活用を志しソニー(株)に入社するも、研究の面白さが忘れられず大学院に戻り、数々の主要国際会議でBest Paper Awardなどを受賞するなど実績を積み重ね、2007年に准教授に就任されています。

 


関連記事:ベンチャーのように考える 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その69)


 

全く新しい力触覚デバイス「Hapbeat」とは

Hapbeatの特徴的な装着方法(ネックレス型で装着が簡単)

 

Hapbeatは音の振動を体に直接伝えるデバイスです。想定される活用シーンは臨場感を体感できるエンターテイメント利用から、VR機器などと併用したバーチャル安全教育、音声によるコミュニケーションが困難な環境での連絡、発報利用など多岐にわたります。

 

音楽ライブシーンにて

実証実験ライブ in Live Music Food & Bar『REALDIVA’S』の様子
演奏者全員がHapbeatを装着しているのがわかる(同社資料より)
https://www.youtube.com/live/RFvXFXpcypw?si=9X5POn2Z8drtMmlh

 

このライブのハードウェア構成は会場内には観客から送られてきた Emoji や YouTube Live のコメント欄を表示するためのプロジェクター、エモート「拍手」が送られた時に拍手音サウンドエフェクト(SE)を鳴らすためのモニタースピーカーを設置。さらにおそらく世界初の新しい試みとして、出演者・演奏者側に触覚デバイス「Hapbeat Duo」を装着してもらっています。視聴者からのエモート「拍手」が送られたときに、Hapbeatが固有の振動刺激を発生させます。



タイムライン分析機能

実証実験中1日分の観客送信エモートの時系列データ

(拡大版は公式サイトにて)

 

配信時間全体160分でのタップされた回数は全体で71,323回、1分あたり445回、観客一人あたり20回/min というタップ頻度となりました。対する YouTube コメントは番組累計で216件で、観客にとって文字コメントよりもはるかに参加しやすかったことが伺えます。

 

VRによる安全教育にて

既存の安全教育VRシステムの課題をHapbeatで解消(同社資料より)

 

安全教育VRコンテンツ「動いて学べる!安全教育VR」で事故を体験する際、迫力が足りず実感が湧かない、という課題を、ネックレス型および腕輪型Hapbeatを転落時や腕が工作機械に巻き込まれた映像に合わせて振動させることで解消。

 

理論を形にしたものづくりを実践

独自の理論を形にしたHapbeat。そのポイントとなるのは振動を生み出すモーターと、その振動を身体に伝える方法です。

振動を生み出すモーターはカプセル型のデバイスとして、振動を伝えるのはネックストラップ部分の糸を精緻に動かす仕組みになっています。

 

音声や衝撃の波形の再現比較

 

音声や衝撃の波形を忠実に再現(拍手の場合)

 

Hapbeatは従来あった構造とは大きく違い、モーターの回転を糸に伝えることによって振動を発生させています。回転式にすることで動きに制限がなくなり、小型のモーターでも既存の大型装置に勝るほどの振動を表現することが可能です。また、コアレスモーターを採用することでより微細に振動させられるように設計されている。

また、表現できる周波数も通常のイヤフォンが低くても10Hzからであるのに対し、Hapbeatは0~10Hzと通常の再生機器で耳に聴こえない部分をも身体感覚として表現できる。

 

編集後記

同社は市場が確立されていない新分野へ挑戦するベンチャー企業。自由な発想とそれを具現化し、事業化しているところに多く学べる点があると感じます。また、それらと合わせてCEOの「触覚技術を表現技法のひとつとして確立させたい」という強い思いが仲間を引き寄せ、新しい未来を切り開いてゆくのだと感じました。

新規創業、スタートアップに限らず、企業内で新商品開発や新サービス立ち上げなどに関する方々にとっても気づきの多いベンチャーの活動です。

 


【法人概要】

・名称 Hapbeat合同会社

・所在:神奈川県横浜市

  HP https://hapbeat.com/

 

 


この記事の著者

大岡 明

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。


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