【ものづくりの現場から】製造エンジニア達が設立した”複業”企業を取材(サブマリン)

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写真:創業前の山谷文彦氏らが実施したSTEAM教育事業のPoCの様子(山谷氏FBより引用)

 

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ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消に向けた現場の取り組みについて取材し、ものづくり発展に役立つ情報をお届けしています。今回は社員全員が複業※者で、事業の一つとしてものづくり企業伴走支援を行っている合同会社サブマリンについて紹介します。

※本業とは別の生業を表す言葉に副業がありますが、ここでは複業と表現しています。

◆副業…side work(job)、本業とは別の仕事を表す。
◆複業…parallel work(job)、本業と関係を有し並行して行う仕事を表す。

 

◉この記事で分かる事
・エンジニアのキャリア作り、パラレルキャリアの事例

 

1,企業の概要

今回取材した合同会社サブマリン(以下サブマリン社)は2023年4月に設立された法人で、その特徴は大手製造業に勤務する複数人のエンジニアほかマーケティング、デザイン、セールス、バックオフィスなどの多様な専門家が在職しながら立ち上げ、会社員と並行して勤務する形態の「複業企業」である事です。

サブマリン社のホームページのトップページには「グローバル大企業実務者としての経験を持つ私たちが、社会の身近な人々に役立つ関係性を築くために、合同会社サブマリンを立ち上げました。豊かな関係性を持続できる社会の実現を目指し、これまで培ってきたスキルを活かして事業立ち上げサポートや技術サポートを提供しています。」との記載があります。

この内容からも、多様な専門性を有する人材で構成されるサブマリン社が、ダイバーシティ(多様性)を大切にして、社会に貢献しようとする姿勢を伺うことができます。

 

 

2,なぜ企業に勤務しながら並行して複業企業を創業したのか?

代表の山谷文彦氏にサブマリン社立ち上げの理由をお聞きすると「理由はいろいろありますが、会社員としての成長機会を逃したくないという思いと、社内外でつながった仲間のチカラで社会をより良くできるのではないか?と考えた」との事。

インタビューに対応いただいた山谷CEOは設計エンジニアとして、オンラインでお話を伺ったCCOの江口薫氏は精密光学部品のエンジニアで、山谷氏と同じ会社に勤務されています。

 

サブマリン社のサービス

 

サブマリン社のサービスで異彩を放つのが技術サポートというメニュー。「ハードウェア試作、プログラミング、ホームページ制作などをサポートいたします。専門業者に依頼するほど仕様が固まっていなくお悩みの案件もお気軽にお問合せ下さい。」と紹介されていますが、これらを大手製造業の現役エンジニアがサービス提供する例は非常にレアでユニークです。

 


関連記事:在宅勤務と副業機会の拡大とは


 

2023年に法人化した若い組織ですが、法人化したことにより在北海道のラジオ局をはじめとするメディアへの出演や各種イベントへの招聘などの機会も増えたとの事で、社会からの関心の高さがうかがえます。

 

3,パラレルキャリアでスキル向上

お二人が勤務する会社はグローバルに展開する大手製造業。拠点も全世界にあり、国内にも複数事業所があります。通常の勤務だけでは出会うことがなかった2人ですが、出会いのきっかけは勤務先でのインフォーマルな会合。共通の知人を仲介して出会った2人は同じ会社に勤務する社員として、違う分野のエンジニアとして様々な意見を交換したとの事。このような自然発生的で自主的な社内活動が複数回開催されるうちに参加する社員も増えていき、自分の仕事、職域では触れることができなかった異分野に触れる事やフラットな意見交換を通じて様々な自主プロジェクトが計画されました。

それらプロジェクトは勤務先に提案され勤務先で実施しますが、前例がない、データがないなどの理由で着手されないプロジェクトがあるのも事実。それならば、エンジニアである自分たちだけど、仲間を募り小さくても実際に自分たちで実行しようと、有志が集まってプロジェクトの実施主体として社外に設立したのがサブマリンという器。この器を活用して、メンバーそれぞれが、パラレル(並行する)キャリアとして人的ネットワークを広げ、各メンバーが刺激を受け、新たなスキルの獲得、自己スキル発揮を行う循環が生まれ、会社員としてのスキルの向上につながっていると感じました。

会社員としての自分をよりアップグレードする手段としてのパラレルキャリアの活用の具体的な例であると言えます。

 


関連記事:キャリアパスの複線化とは (その1)


 

その証拠に、サブマリン社を設立したからと言って、会社員を退職したメンバーはなく、またその意向を持つメンバーもいないとの事。サブマリン社は一つの企業であると同時に、メンバーそれぞれが所属する会社や顧客への貢献力を向上させる「自己研鑽する場」として機能しているのかもしれません。

 

多様なメンバーを一つにする企業理念(パーパス/mission・vision・value)

インタビューの中で、興味深かったのが企業理念についてです。先にも紹介したようにサブマリンは副業者の集まりであり、それぞれ会社に勤務するサラリーマンです。多くの場合、勤務先にはそれぞれ企業理念がありますが、副業企業としてのサブマリンも、もちろん企業理念があります。

例えばサブマリンのパーパスは「手を繋いでいける人たちを 現役企業人スキル&マインドで 幸せにする」というものです。

 

このパーパスの話題になった時に、聞き手の私は、このパーパスを決めるためにメンバーで熱い議論を行い、検討を重ねた事であろうと想像しました。そして、そのプロセスの中で必ず勤務先の企業理念についても読み込み、改めてその理念の真意を捉えようとしたことでしょう。そう考えるとサブマリン社のパーパス作りが、メンバー各位の会社員としての所属企業の理念の理解、企業側からすると理念の浸透につながっていると感じます。副業が本業をアップデートする、いわば会社員としてのスキルアップ、リーダーシップの生きた学びです。

 


関連セミナー:「個」を磨き、時代を切り拓くリーダーになる


 

会社員として勤務先の経営理念を理解して行動する事は基本中の基本と言えますが、自分たちで理念を生み出す経験をすることでこの基本により忠実に、まさにプロ社会人と言える姿勢になるのではないかと考えます。

勤務先と相反なく、仲間と共に新たな組織をボトムアップで作り上げる経験と、会社員と...

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※本業とは別の生業を表す言葉に副業がありますが、ここでは複業と表現しています。

◆副業…side work(job)、本業とは別の仕事を表す。
◆複業…parallel work(job)、本業と関係を有し並行して行う仕事を表す。

 

◉この記事で分かる事
・エンジニアのキャリア作り、パラレルキャリアの事例

 

1,企業の概要

今回取材した合同会社サブマリン(以下サブマリン社)は2023年4月に設立された法人で、その特徴は大手製造業に勤務する複数人のエンジニアほかマーケティング、デザイン、セールス、バックオフィスなどの多様な専門家が在職しながら立ち上げ、会社員と並行して勤務する形態の「複業企業」である事です。

サブマリン社のホームページのトップページには「グローバル大企業実務者としての経験を持つ私たちが、社会の身近な人々に役立つ関係性を築くために、合同会社サブマリンを立ち上げました。豊かな関係性を持続できる社会の実現を目指し、これまで培ってきたスキルを活かして事業立ち上げサポートや技術サポートを提供しています。」との記載があります。

この内容からも、多様な専門性を有する人材で構成されるサブマリン社が、ダイバーシティ(多様性)を大切にして、社会に貢献しようとする姿勢を伺うことができます。

 

 

2,なぜ企業に勤務しながら並行して複業企業を創業したのか?

代表の山谷文彦氏にサブマリン社立ち上げの理由をお聞きすると「理由はいろいろありますが、会社員としての成長機会を逃したくないという思いと、社内外でつながった仲間のチカラで社会をより良くできるのではないか?と考えた」との事。

インタビューに対応いただいた山谷CEOは設計エンジニアとして、オンラインでお話を伺ったCCOの江口薫氏は精密光学部品のエンジニアで、山谷氏と同じ会社に勤務されています。

 

サブマリン社のサービス

 

サブマリン社のサービスで異彩を放つのが技術サポートというメニュー。「ハードウェア試作、プログラミング、ホームページ制作などをサポートいたします。専門業者に依頼するほど仕様が固まっていなくお悩みの案件もお気軽にお問合せ下さい。」と紹介されていますが、これらを大手製造業の現役エンジニアがサービス提供する例は非常にレアでユニークです。

 


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2023年に法人化した若い組織ですが、法人化したことにより在北海道のラジオ局をはじめとするメディアへの出演や各種イベントへの招聘などの機会も増えたとの事で、社会からの関心の高さがうかがえます。

 

3,パラレルキャリアでスキル向上

お二人が勤務する会社はグローバルに展開する大手製造業。拠点も全世界にあり、国内にも複数事業所があります。通常の勤務だけでは出会うことがなかった2人ですが、出会いのきっかけは勤務先でのインフォーマルな会合。共通の知人を仲介して出会った2人は同じ会社に勤務する社員として、違う分野のエンジニアとして様々な意見を交換したとの事。このような自然発生的で自主的な社内活動が複数回開催されるうちに参加する社員も増えていき、自分の仕事、職域では触れることができなかった異分野に触れる事やフラットな意見交換を通じて様々な自主プロジェクトが計画されました。

それらプロジェクトは勤務先に提案され勤務先で実施しますが、前例がない、データがないなどの理由で着手されないプロジェクトがあるのも事実。それならば、エンジニアである自分たちだけど、仲間を募り小さくても実際に自分たちで実行しようと、有志が集まってプロジェクトの実施主体として社外に設立したのがサブマリンという器。この器を活用して、メンバーそれぞれが、パラレル(並行する)キャリアとして人的ネットワークを広げ、各メンバーが刺激を受け、新たなスキルの獲得、自己スキル発揮を行う循環が生まれ、会社員としてのスキルの向上につながっていると感じました。

会社員としての自分をよりアップグレードする手段としてのパラレルキャリアの活用の具体的な例であると言えます。

 


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その証拠に、サブマリン社を設立したからと言って、会社員を退職したメンバーはなく、またその意向を持つメンバーもいないとの事。サブマリン社は一つの企業であると同時に、メンバーそれぞれが所属する会社や顧客への貢献力を向上させる「自己研鑽する場」として機能しているのかもしれません。

 

多様なメンバーを一つにする企業理念(パーパス/mission・vision・value)

インタビューの中で、興味深かったのが企業理念についてです。先にも紹介したようにサブマリンは副業者の集まりであり、それぞれ会社に勤務するサラリーマンです。多くの場合、勤務先にはそれぞれ企業理念がありますが、副業企業としてのサブマリンも、もちろん企業理念があります。

例えばサブマリンのパーパスは「手を繋いでいける人たちを 現役企業人スキル&マインドで 幸せにする」というものです。

 

このパーパスの話題になった時に、聞き手の私は、このパーパスを決めるためにメンバーで熱い議論を行い、検討を重ねた事であろうと想像しました。そして、そのプロセスの中で必ず勤務先の企業理念についても読み込み、改めてその理念の真意を捉えようとしたことでしょう。そう考えるとサブマリン社のパーパス作りが、メンバー各位の会社員としての所属企業の理念の理解、企業側からすると理念の浸透につながっていると感じます。副業が本業をアップデートする、いわば会社員としてのスキルアップ、リーダーシップの生きた学びです。

 


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会社員として勤務先の経営理念を理解して行動する事は基本中の基本と言えますが、自分たちで理念を生み出す経験をすることでこの基本により忠実に、まさにプロ社会人と言える姿勢になるのではないかと考えます。

勤務先と相反なく、仲間と共に新たな組織をボトムアップで作り上げる経験と、会社員としての活動と並行したパラレルキャリアとして自分たちの組織で社会と関係する経験は、会社員の成長にとって大きな効果があるのではないでしょうか?

 

<取材後記>

VUCAの時代、風の時代などと表される現代は「未来を予測してする進む力」から、「予測できない未来へ対応する力」が求められています。

そのような変化の時代の中、会社員によるパラレルワークの取り組みは、個人のスキルを強化するとともに、勤務先企業や所属チームに対しても能動的で、自律して活動できるメンバーを活用することによって、組織力の強化、チームの目標達成能力の向上にも貢献することが考えられます。

ものづくりの現場においても、新たな発想や異分野の知見の重要性が増している中、外部人材の活用やオープンイノベーションの取り組みと合わせて、組織・個人の両面に有益なパラレルキャリアの取り組みは進んでゆくものと考えられます。

複業企業のサブマリン社、今後の活躍にも注目です。

 

 

【取材に協力いただいた方】

山谷文彦様 合同会社サブマリン CEO 

江口薫様  合同会社サブマリン CCO(取材にオンラインで参加)

 

【会社概要】

・名称 合同会社サブマリン

・所在:静岡県三島市

  HP https://submarine301t.com/

 

 

 

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この記事の著者

大岡 明

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。


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