物流改革に責任を持つ

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1. 竹槍戦法的な仕事から脱却せよ

 物流業務について本当によく耳にする話があります。それは会社の上位層の方々が物流に関心が無い、責任を持って物流を何とかしようと考えていないという話です。それでなくても物流への関心度が低い国が日本です。物流学科も数えるほどしかなく、物流を専門的に学びたいと考える学生も稀です。しかし、取り組めば取り組むほど効果が上がる物流ですが、それに着手できないのが多くの会社の実態ではないかと思います。
 
 物流先端企業では物流コストを常に意識し、さまざまな改善を繰り返してきています。物流コストを下げれば原則として会社経費が下がり、利益を押し上げます。このことに気づいていれば物流を何とか学ぼうとするのが経営者ではないでしょうか。というか、物流に詳しい社員を置こうと考えるのが普通だと思います。よく聞く話として物流改善を提案しても、上位者からつぶされるということがあるようです。悪気はないのかもしれませんが、関心の低さの表れだと思います。
 
 海外ではCLO(チーフ・ロジスティクス・オフィサー)が社内にいて、ロジスティクス全体を俯瞰する立場にあります。常に戦略的に物流を考え、会社の利益に貢献するしかけを構築しています。この大切な部門にはそれなりに人財を配置し、CLOが責任を持って指揮をしています。
 
 一方で日本の場合、悪く言えば昔からの竹槍戦法的な仕事の仕方をしています。補給戦略をじっくりと考えることなく、とりあえず戦う現場、たとえば真のものづくりの現場だけに注目しがちです。たとえば物流のやり方で大変参考になる情報を得たとします。それを自社に導入すれば明らかに物流環境がよくなることもわかっていたとします。にもかかわらず多くの会社でそれを実現できないのは、それを導入しようというリーダーが不在であるとともに、社内の反対勢力がいるからだと思います。
 
 大変残念な話ですが、これが実態なのだと思います。でもこれを諦めたら終わりです。その環境を変えていかなければならないのです。それは誰でしょうか。いうまでもありません。気がついたあなたなのです。
 
  SCM
 

2. 物流のプロの活用

 何事も同様だと思いますが、第一歩を踏み出さなければ何も変わりません。特に物流改革を行なおうと思うのであれば戦略的かつ行動的に進む必要があります。たしかに日本企業の中で物流への関心度は低いし、物流ノウハウを持った人も少ないのかもしれません。会社の中での地位も低く、積極的に物流部門に行こうという人は稀でしょう。でもここで物流に真剣に取り組み、大きな成果を上げたとしたらどうなるでしょうか。多分会社の中で評価されることになると思います。
 
 大多数の会社では物流改善余地が大きいと思われます。ここで少し物流改善をやってみたとしたら、それなりの効果は出ます。ですから物流改善にまずは取り組んでみることが重要です。そして効果が出たところで人を増やしていけばよい気がします。もう一つの方法は少しお金がかかりますが物流のプロを招いて大きな改善に取り組んでみるのもよいでしょう。
 
 この時のプロとは長年物流現場で改善に取り組んだことのあるコンサルタントのような人のことです。ポイントは実践経験があり、会社の中で管理職のポストにも就いたことのある方がよいと思います。なぜなら実践経験が無いと表面的な理屈で終わってしまうことが一つ。さらに組織の中で管理職だった人は組織の動かし方を知っているからです。また、コンサルタントは外部の企業をたくさん見ていますので、その視点からのアドバイスは非常に具体性があり喜ばれます。
 
 普段上司に言っても聴いてもらえないようなことを外部のコンサルタントに言わせるという方法もあります。部下が上司に意見を言うことは日本ではなかなか難しいものがあります。でもしがらみのないコンサルタントから言わせることは客観的な意見として受けとめられ、だからこそ一つの戦略でもあると考えられるのです。物流の担当者はできるだけ外の会社を見て、外の会社と意見交換を行い、自社で劣っている部分を明確にすべきでしょう。
 
 そして、自分が改善したいと思っていてもなかなか社内を説得しきれていないときには、「あの会社ではすでにやっている」という情報だけでも社内の説得に効果があります。
 

3. 経営者と上位者は範を示せ

 物流業務にはトレードオフの関係がよく見られます。たとえば輸送改善のために荷物を縮める方策として、容器の折り畳みが挙げられます。容器を折りたたむ際には数秒の工数がかかります。この時間を惜しんで容器の折り畳み化に消極的な姿勢が見られます。工場だと社内で誰かが折りたたむことによって輸送コストを下げることに貢献できます。ここで折りたたむ部署と輸送コストの予算を持っている部署とが異なる場合があります。
 
 そうなると全社的に儲かったとしても、折りたたむ部署にとってみるとコスト増になるわけです。この状況についてどうすべきかの「会社ポリシー」が決まっていない場合や、ポリシーが無くてもその適否をジャッジできる人がいなければ暗礁に乗り上げます。セクショナリズムの典型的事例ですが、当事者にとってみると深刻な問題でもあるわけです。この「決めない文化」や「スローな体質」が企業競争力低下につながります。
 
 工場運営にかかわるコストであればその責任は工場長が責任を持たなければなりません。その一部...

1. 竹槍戦法的な仕事から脱却せよ

 物流業務について本当によく耳にする話があります。それは会社の上位層の方々が物流に関心が無い、責任を持って物流を何とかしようと考えていないという話です。それでなくても物流への関心度が低い国が日本です。物流学科も数えるほどしかなく、物流を専門的に学びたいと考える学生も稀です。しかし、取り組めば取り組むほど効果が上がる物流ですが、それに着手できないのが多くの会社の実態ではないかと思います。
 
 物流先端企業では物流コストを常に意識し、さまざまな改善を繰り返してきています。物流コストを下げれば原則として会社経費が下がり、利益を押し上げます。このことに気づいていれば物流を何とか学ぼうとするのが経営者ではないでしょうか。というか、物流に詳しい社員を置こうと考えるのが普通だと思います。よく聞く話として物流改善を提案しても、上位者からつぶされるということがあるようです。悪気はないのかもしれませんが、関心の低さの表れだと思います。
 
 海外ではCLO(チーフ・ロジスティクス・オフィサー)が社内にいて、ロジスティクス全体を俯瞰する立場にあります。常に戦略的に物流を考え、会社の利益に貢献するしかけを構築しています。この大切な部門にはそれなりに人財を配置し、CLOが責任を持って指揮をしています。
 
 一方で日本の場合、悪く言えば昔からの竹槍戦法的な仕事の仕方をしています。補給戦略をじっくりと考えることなく、とりあえず戦う現場、たとえば真のものづくりの現場だけに注目しがちです。たとえば物流のやり方で大変参考になる情報を得たとします。それを自社に導入すれば明らかに物流環境がよくなることもわかっていたとします。にもかかわらず多くの会社でそれを実現できないのは、それを導入しようというリーダーが不在であるとともに、社内の反対勢力がいるからだと思います。
 
 大変残念な話ですが、これが実態なのだと思います。でもこれを諦めたら終わりです。その環境を変えていかなければならないのです。それは誰でしょうか。いうまでもありません。気がついたあなたなのです。
 
  SCM
 

2. 物流のプロの活用

 何事も同様だと思いますが、第一歩を踏み出さなければ何も変わりません。特に物流改革を行なおうと思うのであれば戦略的かつ行動的に進む必要があります。たしかに日本企業の中で物流への関心度は低いし、物流ノウハウを持った人も少ないのかもしれません。会社の中での地位も低く、積極的に物流部門に行こうという人は稀でしょう。でもここで物流に真剣に取り組み、大きな成果を上げたとしたらどうなるでしょうか。多分会社の中で評価されることになると思います。
 
 大多数の会社では物流改善余地が大きいと思われます。ここで少し物流改善をやってみたとしたら、それなりの効果は出ます。ですから物流改善にまずは取り組んでみることが重要です。そして効果が出たところで人を増やしていけばよい気がします。もう一つの方法は少しお金がかかりますが物流のプロを招いて大きな改善に取り組んでみるのもよいでしょう。
 
 この時のプロとは長年物流現場で改善に取り組んだことのあるコンサルタントのような人のことです。ポイントは実践経験があり、会社の中で管理職のポストにも就いたことのある方がよいと思います。なぜなら実践経験が無いと表面的な理屈で終わってしまうことが一つ。さらに組織の中で管理職だった人は組織の動かし方を知っているからです。また、コンサルタントは外部の企業をたくさん見ていますので、その視点からのアドバイスは非常に具体性があり喜ばれます。
 
 普段上司に言っても聴いてもらえないようなことを外部のコンサルタントに言わせるという方法もあります。部下が上司に意見を言うことは日本ではなかなか難しいものがあります。でもしがらみのないコンサルタントから言わせることは客観的な意見として受けとめられ、だからこそ一つの戦略でもあると考えられるのです。物流の担当者はできるだけ外の会社を見て、外の会社と意見交換を行い、自社で劣っている部分を明確にすべきでしょう。
 
 そして、自分が改善したいと思っていてもなかなか社内を説得しきれていないときには、「あの会社ではすでにやっている」という情報だけでも社内の説得に効果があります。
 

3. 経営者と上位者は範を示せ

 物流業務にはトレードオフの関係がよく見られます。たとえば輸送改善のために荷物を縮める方策として、容器の折り畳みが挙げられます。容器を折りたたむ際には数秒の工数がかかります。この時間を惜しんで容器の折り畳み化に消極的な姿勢が見られます。工場だと社内で誰かが折りたたむことによって輸送コストを下げることに貢献できます。ここで折りたたむ部署と輸送コストの予算を持っている部署とが異なる場合があります。
 
 そうなると全社的に儲かったとしても、折りたたむ部署にとってみるとコスト増になるわけです。この状況についてどうすべきかの「会社ポリシー」が決まっていない場合や、ポリシーが無くてもその適否をジャッジできる人がいなければ暗礁に乗り上げます。セクショナリズムの典型的事例ですが、当事者にとってみると深刻な問題でもあるわけです。この「決めない文化」や「スローな体質」が企業競争力低下につながります。
 
 工場運営にかかわるコストであればその責任は工場長が責任を持たなければなりません。その一部でも他部門が持っていたとしたらこのようなセクショナリズムが生じ、問題が解決しづらくなるのです。たとえば工場では人件費や材料費、エネルギー費について責任を負っていたとしても、出荷に要する物流コストを営業が負っているようなケースです。こうなると仮に輸送コストが下がるようなアイテムがあったとしても、工場にとってコスト増になったとたんに工場長は反対します。仮に全社的に儲かるアイテムだとしても。ですから重要なことは工場長やその他の上位者に大きなくくりでの責任を持たせることが、全社的にメリットがあると考えられます。
 
 あまりにも責任範囲が大きすぎると考える向きもあるかもしれません。そのような場合にはその人に対する報酬を大きくすることを考えてみてはいかがでしょうか。大半の会社にとって物流改革のオポチュニティはふんだんに存在するはずです。しかしセクショナリズムによってそれにブレーキがかかるほど馬鹿らしいことはありません。まずは会社の経営層をはじめとした上位の方々が会社経営のことを本気で考えるとともに、物流改革に責任を持つことです。
 
 上位者の腰が引けていれば下はそれに倣いますし、やる気も失ってしまうことでしょう。上位者の方はぜひ物流改革の範を示してください。どれくらい会社が儲かるか、大きな確率でそれは計り知れないものがあることでしょう。
 

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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