デザインの意匠権による保護と不正競争防止法による保護 意匠法講座 (その7)

1.意匠の保護に使える不正競争防止法

 
 前回の第7回に続いて解説します。意匠は、不正競争防止法でも保護される場合があります。意匠登録をしていなかったが類似品が出た場合や、発売後間もない商品の模倣品が出た場合などに不正競争防止法が利用されます。使う規定は、主に商品等表示混同惹起行為(2条1項1号)と形態模倣行為(同3号)です。以下、不正競争防止法の規定について解説します。
 

2.不正競争防止法2条1項1号

 
(1)趣旨
 
 不正競争防止法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示を使用することにより、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為(混同惹起行為)を不正競争行為として位置づけ、営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれのある者に販売などの差止め請求権を認めています(3条)。本号の規定により他人の販売行為などの差し止めが認められるためには、以下の要件が要求され、保護のハードルは高いものとなっています。
 
①商品等表示であること
②需要者の間に周知であること
③他人の商品等表示と同一又は類似であること
④他人の商品又は営業と混同を生じさせること
 
(2)商品等表示
 
 1号は括弧書きにおいて、商品等表示を「氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」と規定しています。商品の形態が、「商品等表示」として認識されれば保護される可能性があるということです。
 
 しかし、本来的に商品等表示(商品の出所を示す目印)としての性質を備えている商標などと異なり、商品の形態は本来的に商品等表示としての性質を備えているものではありません。商品の形態を見た需要者は、そこから出所を認識することは一般的でなく、ただ「そういう形の商品」と認識されるにとどまります。したがって、商品の形態すべてが「商品等表示」として保護されるものではありません。
 
 商品の形態は、長期間にわたる販売、宣伝広告などによりその商品の形態が需要者の間に広く知られるに至った場合に、出所を表示する機能を備える場合があり、その場合に限り、商品の形態が商品等表示として位置づけられ、本号における保護の対象となります。立体商標も同様です。
 
(3)周知
 
 需要者の間で広く知られていることが必要です。ここでいう需要者とは、当該商品の需要者です。事業者間でのみ取引される商品であれば、事業者が「需要者」であり、若年女性を対象とした商品であれば、若年女性が「需要者」です。「ミルクティー」の容器の周知性が争われた事案で、当該商品の需要者を「ミルクティー」を購入する人に絞り込んで周知を認定した事例があります(「ロイヤルミルクティー事件」大坂地判H9.1.30)。当該商品を「紅茶」であるとか「コーヒーを含めた茶」と特定したならば果たして周知性が認められただろうか、と考えるとおもしろい事案です。
 
(4)同一又は類似
 
 本号は市場における混同を防止するために規定であり、商標法と同じ趣旨です。したがって、本号における類似は商標法における類似と同様、取引の実情の下において、取引者又は需要者が両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準に判断すべきものと解されます。創作保護を趣旨とする意匠法における類似とは異なる点に留意してください。
 
(5)混同
 
 類似を上記のように解する場合、類似であれば原則として混同が生ずることとなります。異なる商標が付されていても、原則として「類似する」と判断されます。
 

3.不正競争防止法2条1項3号

 
(1)趣旨
 
 不競法2条1項3号は、他人の商品の形態を模倣した商品の販売等(形態模倣行為)を不正競争行為として位置づけ、営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれのある者に販売などの差止め請求権を認めています(不競法3条)。
 
 本号は、他人が資金・労力を投下した成果を他に選択枝があるにもかかわらずことさら完全に模倣して、何らかの改変を加えることなく自らの商品として市場に提供し、その他人と競争する行為(デッドコピー)は、競争上不正な行為として位置付け、開発者にインセンティブを付与しようとするものです。
 
  本号の規定により他人の販売行為などの差し止めが認められるためには、以下の要件が要求されます。
 
①他人の商品の形態の模倣であること
②当該商品の機能を確保するために不可欠な形態やありふれた形態でないこと
③日本国内での最初の販売から3年以内であること 
 
(2)他人の商品の形態の模倣
 
 ①他人の商品の形態
 
 「他人」とは、原則として、自ら資金・労力を投下した者すなわち商品の開発者ということになります。「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいいます(2条4項)。通常の用法において認識できることが必要であるから、カバンなどの内部形態は含まれますが(「ショルダーバッグ事件」東京地判H13.12.27 )、切断しなければ認識できないホースの内部形態は含まれません(「ドレンホース事件」大阪地判 H8.11.28)。また、「物品」を単位とする意匠法と異なり「商品」が対象ですから、意匠法では多物品・多意匠として保護対象から外れるセットものも、セット全体としての詰め合わせた状態が保護の対象となります(「タオルセット事件」大阪地判H10.9.10)。
 
 ②模倣
 
 「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいいま...
す(2条5項)。依拠が要件とされるので、他人の商品を知らずに独自に開発した結果、他人の商品と実質的に同一の形態となった場合は含まれません。
 
(3)機能を確保するために不可欠な形態
 
 機能を確保するためにどうしても採用しなければならない形態、すなわち機能を確保するために一義的に決まってくる形態を本号により保護することとすれば、同種の商品の販売を独占させる結果となり、本号の趣旨に反します。そこで保護対象から除外しています。ありふれた形態はそもそも保護されるべき「他人の商品の形態」ではないと解されています。
 
(4)日本国内での最初の販売から3年以内であること
 
 日本での最初の販売から3年を経過したものは保護の対象とならなりません。開発コストの回収期間を勘案したものです。 なお、この規定は保護の終期を規定するものであり、販売開始前であっても見本市への出品など、模倣が可能となった場合は保護が開始されます。
 
 
◆関連解説『技術マネジメントとは』

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