CCS事業法の法的枠組み~地下貯留ルールの実務と事業環境の整備~

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CCS事業法の法的枠組み~地下貯留ルールの実務と事業環境の整備~

【目次】

    脱炭素社会の実現に向け、CCS(二酸化炭素回収・貯留)が実用化の段階に入りつつあります。しかし「もし自社がCCS事業に参画、あるいは関連サービスを利用する場合、具体的にどのような許認可が必要で、将来にわたる責任を誰が負うのか」を正確に把握しているでしょうか。これまで国内において明確な法整備がなされていなかった地下へのCO2貯留ですが、新たに制定された「CCS事業法(二酸化炭素の貯留事業に関する法律)」により、事業化に向けたルールが定まりました。「自社がCCS(二酸化炭素回収・貯留)事業に参画する際、どのような許認可や法的根拠が必要になるのか」「CO2圧入終了後、長期にわたる管理責任のリスクをどのように管理すべきか」、事業化に向けた法整備が待たれていた国内の地下貯留ですが「CCS事業法」の制定により具体的なルールが定められました。本稿では、排他的な貯留権の設定から、国への管理移管、無過失責任と財務担保、導管輸送の公平性、そして地域との合意形成まで、実務者が押さえるべきテーマを解説します。

     

    <記事を最後までお読みいただくことで、実務における以下の課題や悩みが解決します>

    • 地下空間を利用する際の権利関係の不明確さが解消され、事業参入に向けた法的根拠が理解できます。
    • 二酸化炭素の圧入終了後に残る、終わりのない管理責任(無限責任)への事業者の不安を払拭する仕組みがわかります。
    • 万が一の事故や漏洩時における賠償責任の範囲と、必要となる財務的な備えについての対策が明確になります。
    • 排出源から貯留地に至る輸送インフラの運用に関するルールと、公平な事業展開の条件を把握できます。
    • 地域住民や自治体との信頼関係を構築し、社会的受容性を得るための実務的なアプローチが習得できます。

     

    はじめに

    なぜ今、二酸化炭素の貯留事業法が必要なのか 地球温暖化対策は、現代社会において避けては通れない最重要の課題となっています。温室効果ガスの排出を実質的にゼロにする「カーボンニュートラル」の実現に向け、再生可能エネルギーの導入や徹底した省エネルギー化が急速に進められています。しかしながら、鉄鋼や化学といった産業活動を維持する上で、現在の技術ではどうしても大気中への排出を避けられない二酸化炭素が存在することも事実です。そこで大きく期待されているのが、工場などから排出された二酸化炭素を回収し、地下深くに長期間にわたって封じ込める技術です。 これまで、この技術を本格的に事業化しようとする際、極めて高い障壁が存在していました。それは、地下の深い空間を大規模に利用するための明確な法律の枠組みが日本に存在していなかったことです。この度制定された「二酸化炭素の貯留事業法」は、まさにこの空白を埋め、事業者が安心して大規模な投資と計画を進めるための大前提となるものです。本稿では、この法律がどのように実務上の課題を整理し、事業環境を整備していくのかを、5つの視点から解説します。

     

    表. CCS事業法の実務ルール比較整理表

    CCS事業法の法的枠組み~地下貯留ルールの実務と事業環境の整備~

     

    【会員様限定】この先に、CCSを「持続可能な事業」として成立させる要諦があります

    ここから先は、事業者に一切の過失がなくても賠償の義務が生じる「無過失責任」への備えや、複数の排出企業が公平にパイプラインを共同利用するための「導管事業ルール」、そして地域住民との信頼を構築する「知事の意見聴取」への実務対応について詳しく解説します。

    この記事で得られる具体的ベネフィット

    • 巨額の賠償リスクに備えるための「損害賠償措置(保険・供託金)」の法的要件がわかります
    • パイプライン投資の独占を防ぎ、適正な料金設定と不当な差別的取扱いの禁止を定めた輸送ルールが掴めます
    • 計画の初期段階から透明性の高い情報公開を行い、社会的受容性を獲得するための対話アプローチが理解できます

     

    第1章 地下空間は誰のもの?「貯留権」が創出する事業基盤 

    二酸化炭素を地下深くに圧入して貯留する事業において、最も根源的であり、かつ長年の課題とされてきたのが「地下空間の権利関係」です。通常、土地の所有権は地下にも及ぶとされていますが、数百メートルから数千メートルという極めて深い地中において、誰がどのような権利を有するのか、従来の民法や関連法規の解釈だけでは非常に曖昧でした。このため、莫大な初期投資を行って貯留に適した場所を見つけたとしても、後から他者が介入してきたり、権利関係の複雑なトラブルに巻き込まれたりするリスクがつきまとい、事業の予見性を著しく低下させていました。 


    今回の新法では、この権利関係の不明確さを抜本的に解決するための仕組みが整備されました。それが「試掘許可制度」と「貯留事業許可制度」の創設、そして国からの「貯留権」という新たな権利の付与です。 まず、地下の地層が二酸化炭素を安定して封じ込めるのに適しているかを探査・調査する段階において、国は事業者に試掘の許可を与えます。そして、十分な適性が確認され、事業計画が妥当であると...

    CCS事業法の法的枠組み~地下貯留ルールの実務と事業環境の整備~

    【目次】

      脱炭素社会の実現に向け、CCS(二酸化炭素回収・貯留)が実用化の段階に入りつつあります。しかし「もし自社がCCS事業に参画、あるいは関連サービスを利用する場合、具体的にどのような許認可が必要で、将来にわたる責任を誰が負うのか」を正確に把握しているでしょうか。これまで国内において明確な法整備がなされていなかった地下へのCO2貯留ですが、新たに制定された「CCS事業法(二酸化炭素の貯留事業に関する法律)」により、事業化に向けたルールが定まりました。「自社がCCS(二酸化炭素回収・貯留)事業に参画する際、どのような許認可や法的根拠が必要になるのか」「CO2圧入終了後、長期にわたる管理責任のリスクをどのように管理すべきか」、事業化に向けた法整備が待たれていた国内の地下貯留ですが「CCS事業法」の制定により具体的なルールが定められました。本稿では、排他的な貯留権の設定から、国への管理移管、無過失責任と財務担保、導管輸送の公平性、そして地域との合意形成まで、実務者が押さえるべきテーマを解説します。

       

      <記事を最後までお読みいただくことで、実務における以下の課題や悩みが解決します>

      • 地下空間を利用する際の権利関係の不明確さが解消され、事業参入に向けた法的根拠が理解できます。
      • 二酸化炭素の圧入終了後に残る、終わりのない管理責任(無限責任)への事業者の不安を払拭する仕組みがわかります。
      • 万が一の事故や漏洩時における賠償責任の範囲と、必要となる財務的な備えについての対策が明確になります。
      • 排出源から貯留地に至る輸送インフラの運用に関するルールと、公平な事業展開の条件を把握できます。
      • 地域住民や自治体との信頼関係を構築し、社会的受容性を得るための実務的なアプローチが習得できます。

       

      はじめに

      なぜ今、二酸化炭素の貯留事業法が必要なのか 地球温暖化対策は、現代社会において避けては通れない最重要の課題となっています。温室効果ガスの排出を実質的にゼロにする「カーボンニュートラル」の実現に向け、再生可能エネルギーの導入や徹底した省エネルギー化が急速に進められています。しかしながら、鉄鋼や化学といった産業活動を維持する上で、現在の技術ではどうしても大気中への排出を避けられない二酸化炭素が存在することも事実です。そこで大きく期待されているのが、工場などから排出された二酸化炭素を回収し、地下深くに長期間にわたって封じ込める技術です。 これまで、この技術を本格的に事業化しようとする際、極めて高い障壁が存在していました。それは、地下の深い空間を大規模に利用するための明確な法律の枠組みが日本に存在していなかったことです。この度制定された「二酸化炭素の貯留事業法」は、まさにこの空白を埋め、事業者が安心して大規模な投資と計画を進めるための大前提となるものです。本稿では、この法律がどのように実務上の課題を整理し、事業環境を整備していくのかを、5つの視点から解説します。

       

      表. CCS事業法の実務ルール比較整理表

      CCS事業法の法的枠組み~地下貯留ルールの実務と事業環境の整備~

       

      【会員様限定】この先に、CCSを「持続可能な事業」として成立させる要諦があります

      ここから先は、事業者に一切の過失がなくても賠償の義務が生じる「無過失責任」への備えや、複数の排出企業が公平にパイプラインを共同利用するための「導管事業ルール」、そして地域住民との信頼を構築する「知事の意見聴取」への実務対応について詳しく解説します。

      この記事で得られる具体的ベネフィット

      • 巨額の賠償リスクに備えるための「損害賠償措置(保険・供託金)」の法的要件がわかります
      • パイプライン投資の独占を防ぎ、適正な料金設定と不当な差別的取扱いの禁止を定めた輸送ルールが掴めます
      • 計画の初期段階から透明性の高い情報公開を行い、社会的受容性を獲得するための対話アプローチが理解できます

       

      第1章 地下空間は誰のもの?「貯留権」が創出する事業基盤 

      二酸化炭素を地下深くに圧入して貯留する事業において、最も根源的であり、かつ長年の課題とされてきたのが「地下空間の権利関係」です。通常、土地の所有権は地下にも及ぶとされていますが、数百メートルから数千メートルという極めて深い地中において、誰がどのような権利を有するのか、従来の民法や関連法規の解釈だけでは非常に曖昧でした。このため、莫大な初期投資を行って貯留に適した場所を見つけたとしても、後から他者が介入してきたり、権利関係の複雑なトラブルに巻き込まれたりするリスクがつきまとい、事業の予見性を著しく低下させていました。 


      今回の新法では、この権利関係の不明確さを抜本的に解決するための仕組みが整備されました。それが「試掘許可制度」と「貯留事業許可制度」の創設、そして国からの「貯留権」という新たな権利の付与です。 まず、地下の地層が二酸化炭素を安定して封じ込めるのに適しているかを探査・調査する段階において、国は事業者に試掘の許可を与えます。そして、十分な適性が確認され、事業計画が妥当であると判断された場合には、正式な貯留事業の許可が下りることになります。 ここで実務上最も重要なのは、事業の許可を受けた者に対して、国が「貯留権」という排他的かつ独占的な権利を付与する点です。この権利が設定されることにより、事業者は指定された地下空間において、他者の妨害を受けることなく、独占的に二酸化炭素を圧入し続けることが法的に担保されます。


      この貯留権は、不動産に関する権利と同様に登記することが可能であり、第三者に対しても明確にその権利の存在を主張することができます。 このように、権利の所在と独占的な利用権限が法律によって明確化されたことは、事業参入を検討する企業にとって極めて大きな意義を持ちます。数百億円規模の資金を投じる金融機関や投資家に対しても、事業の安定性と継続性を証明する強力な根拠となるのです。地下という見えない空間を舞台とする巨大事業に、確固たる法的な土台が築かれたと言えるでしょう。

       

      第2章 未来へ続く安全確保~徹底した監視と国への管理移管~

       地下深くに二酸化炭素を圧入したとして、それが本当に予定された場所に留まり続けるのか、何かの拍子に漏れ出すことはないのかという疑問は、地域社会から当然に生じるものです。事業を開始してから終了するまで、さらには終了した後も含めて、長期的な安全確保と徹底した監視体制の構築は、この事業の生命線と言えます。しかし、これまでは「いつまで、誰が監視し続けなければならないのか」という出口のルールが存在していませんでした。事業を立ち上げた企業が、事業終了後も未来永劫にわたって管理の責任を負い続けなければならないとすれば、そのような終わりのない無限責任を背負って事業に参入できる民間企業は存在しません。 新法は、こうした事業者の強い不安を払拭し、現実的に機能する出口戦略を明確に規定しています。


      まず、事業者は国に対して「貯留実施計画」を提出し、極めて厳しい審査を経て認可を受ける必要があります。この計画には、圧入の具体的な方法だけでなく、周辺の自然環境に対する詳細な監視(モニタリング)の方法が組み込まれていなければなりません。事業者は、圧入期間中はもちろんのこと、圧入が完了した後も、定められた計画に従って、地下の温度や圧力、地殻変動の有無などを継続的に監視し、その結果を定期的に国に報告する強い義務を負います。 そして、この法律における最大の画期的なポイントは、管理責任の「国への移管制度」が設けられたことです。


      事業者が圧入を終了し、その後も規定の期間にわたって厳格な監視を継続した結果、地下に封じ込められた二酸化炭素の挙動が科学的に完全に安定したと認められた場合を想定しています。一定の安全条件を満たしていることを国が確認すれば、事業者から独立行政法人であるエネルギー・金属鉱物資源機構へと、その後の長期的な管理業務を完全に引き継ぐことが可能になるのです。 もちろん、この移管にあたっては、将来の管理に必要となる費用に相当する額の拠出金を、事業者が前もって国に納付することが求められます。これにより、事業者は一定の手続きを経て長期の責任を分担し、事業としての区切りを迎えることが可能となります。公的機関による永続的な安全管理の枠組みは、地域社会の信頼を維持するための重要な前提となります。

       

      第3章 万が一への備え~『無過失責任』が支える社会の信頼~

       どんなに優れた最先端の技術を用い、厳重な管理を行っていたとしても、巨大な自然を相手にする事業である以上、想定外の事態が起こる可能性を完全にゼロにすることはできません。例えば、記録的な大地震による地殻の急激な変動などによって、地下深くの地層に封じ込めていたはずの二酸化炭素が予期せず地上や海中に漏洩してしまうリスクです。


      このような事態が発生し、周辺の自然環境や第三者の財産、あるいは人々の健康に対して重大な損害を与えてしまった場合、誰がどのように責任を負うのか。この点が曖昧なままでは、社会全体からの信頼を得ることは不可能です。 これに対し、法律は極めて厳格かつ明確な方針を打ち出しました。それが「無過失責任」の原則の採用です。一般的な損害賠償のルールでは、加害者側に過失(落ち度)があったことを被害者側が証明しなければ、賠償を請求することは困難です。


      しかし、地下深部の複雑なメカニズムにおいて事業者の過失を一般の個人が証明することは事実上不可能です。そこで新法では、事業者に一切の過失がなかったとしても、漏洩によって何らかの損害が生じた場合には、事業者がその賠償責任を全面的に負うという極めて厳しいルールを定めたのです。 これだけを聞くと、事業者にとって過酷な負担に思えるかもしれません。


      しかし、この制度は被害者を迅速かつ確実に保護するためのものであると同時に、事業そのものの信頼性を根本から担保するための重要な仕組みなのです。無過失責任を受け入れるという姿勢そのものが、事業者の安全性への強い自信の表れとなります。 さらに、法律は事業者に責任をただ押し付けるだけでなく、その責任を確実に果たすための仕組みも求めています。事業者は、貯留事業の許可を受けるための絶対的な条件として、巨額の賠償に対応できるだけの財務的な裏付け、すなわち「損害賠償措置」を講じることが義務付けられています。


      具体的には、専用の保険契約の締結や、十分な供託金の用意などが想定されます。 このように、無過失責任という重い責任を課しつつ、それを支える強固な財務基盤の確保を制度化することで、万が一の被害者救済に万全を期しています。この仕組みがあるからこそ、地域社会や国民は未知の事業を受け入れることができ、事業者も社会的な承認を得た上で、誇りを持って事業を推進することができるのです。

       

      第4章 二酸化炭素の道を繋ぐ~バリューチェーンを支える導管輸送ルール ~

      二酸化炭素の貯留事業は、単に地下に空間を確保して圧入するだけでは完結しません。工場や発電所などの大規模な排出源から回収された二酸化炭素を、遠く離れた貯留地まで安全かつ効率的に運ぶための広範なネットワークが必要です。現在、船舶による海上輸送なども検討されていますが、大量かつ継続的に輸送する上で最も現実的で安定した手段となるのが、地中や海底を這うパイプライン、すなわち「導管」による輸送です。 


      これまで、二酸化炭素を専用の導管で長距離輸送するための包括的な事業ルールや保安の基準は、日本には存在していませんでした。新法では、この排出源から貯留地に至る全体の流れ(バリューチェーン)を繋ぐ極めて重要なインフラである導管輸送について、「導管事業」という新たな事業区分を設け、厳格な許可制度と保安規制を導入しました。 高圧に圧縮された二酸化炭素を運ぶ導管は、都市ガス管や石油パイプラインと同様に、極めて高い安全性が求められます。そのため、設備の設計、敷設工事、そして日々の維持管理に至るまで、国が定める厳しい技術基準に適合させることが法律で義務付けられています。 


      また、導管事業に関するルールにおいて特筆すべきは、単なる安全規制にとどまらず、インフラとしての「公平な利用」を強く促している点です。パイプラインのような巨額の投資を伴う大規模インフラは、一度建設されると自然独占的な性格を持ちやすくなります。もし導管を所有する事業者が、グループ企業など特定の企業の二酸化炭素だけを優遇して運び、競合他社の利用を不当な理由で拒むようなことがあれば、産業全体の脱炭素化が大きく滞ってしまいます。 


      そこで法律は、導管事業者に対し、利用条件の開示や適正な料金設定を求めるとともに、利用希望者に対する不当な差別的取り扱いを厳格に禁止しています。複数の排出事業者が、整備されたパイプライン網を公平な条件で共同利用できるようになることで、インフラ投資の効率性が向上し、日本全体としての事業コスト低減につながります。回収、輸送、貯留という一連のプロセスが、この導管事業のルール整備によって一つのバリューチェーンとして機能し、本格的な商業化に向けた環境が整えられたといえます。

       

      第5章 地域と共に歩む~透明性ある対話と合意形成の鍵 ~

      法的・技術的な枠組みがいかに完璧に整えられようとも、実際に事業を行う場所における「社会的受容性」の確保がなければ、事業を一歩も進めることはできません。地下深くの出来事とはいえ、自分の住む地域の直下に大量の二酸化炭素が恒久的に貯留されることに対して、地域住民や地元自治体が安全面や環境面への懸念を抱くのは、ごく自然な感情です。地震を誘発する影響はないのか、豊かな地下水や海洋環境が汚染されることはないのか。こうした不安を放置したまま計画を強行することは、プロジェクトにとって最大の致命傷となります。 


      新法は、この極めて繊細な課題に対して、手続的な担保を明確に規定しています。具体的には、国が試掘や貯留事業の許可を与える際、あるいは実施計画を認可する際において、対象となる地域を管轄する都道府県知事の意見を聴取することを法律上の義務として課したのです。知事は、地域住民の声を代表する立場として、自然環境の保全や地域生活の安全といった観点から国や事業者に対して意見を述べる権限を与えられています。これにより、事業の推進において地元の意向が制度的に組み込まれることになります。 


      しかし、実務に携わる事業者にとって最も重要なのは、この「知事への意見聴取」という法律上の手続きを単なる通過儀礼として捉えないことです。法的な条件を形式的にクリアすることと、地域から真の信頼を得ることは全く別の次元の問題だからです。 事業リスクを最小化し、円滑に計画を進めるための実務上の鍵は、計画の最も初期の段階から、徹底して透明性の高い情報公開を行い、地域社会との誠実な対話を積み重ねることに尽きます。どのような技術を用いて、どのように安全性を確保するのか。万が一の時にはどのような対策が取られるのか。専門的な内容であっても、決して難解な言葉で誤魔化すことなく、誰にでも理解できる丁寧な説明を幾度となく繰り返す必要があります。


       地域の不安に真摯に耳を傾け、時には計画の一部を見直す柔軟性を持つこと。そのような双方向のコミュニケーションを通じて構築された信頼関係こそが、いかなる法的保護よりも強固な事業の基盤となります。地域社会との共存共栄を目指す姿勢こそが、これからの脱炭素時代を牽引する事業者に求められる最大の資質となるのです。

       

      おわりに~法整備を契機としたビジネスの本格稼働へ ~

      ここまで、新たに制定された二酸化炭素の貯留事業法がもたらす五つの重要な変化について解説してまいりました。地下の利用権限の確立、長期的な安全管理の仕組み、万が一の賠償責任の明確化、バリューチェーンを繋ぐ輸送インフラの整備、そして地域社会との合意形成の重要性。これらすべてが、日本において本格的な脱炭素プロジェクトを事業として成立させるために不可欠なピースです。 


      本法の制定は、プロジェクトのゴールではなく、むしろスタートラインです。ルールの不在による不確実性が緩和され、企業が具体的な投資判断を下すための明確な基準が提示されました。今後、この法律の枠組みのもとで、国、事業者、そして地域社会が一体となり、地球規模の環境課題を解決する巨大な産業が育っていくことが期待されます。 今こそ、次世代へ持続可能な社会を引き継ぐための挑戦が、具体的な行動へと移される時です。本稿で示した各章のポイントが、CCSプロジェクトの実務に取り組む皆様にとって、今後の事業推進の一助となれば幸いです。

       

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