GHGプロトコルの壁を越え、企業価値を高める5ステップ

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GHGプロトコルの壁を越え、企業価値を高める5ステップ

【目次】

    「取引先から排出量データの提出を求められたが、何から手をつければよいか分からない」「スコープ3の膨大なデータ収集に現場が疲弊している」、このような悩みを抱えるサステナビリティ担当者の方は多いのではないでしょうか。2024年以降、排出量の可視化は単なる環境活動ではなく、国際的なサプライチェーンに留まるための必須条件となっています。本記事では、国際基準である「GHGプロトコル」の基本構造を整理し、実務で直面するデータ収集の壁を乗り越え、企業価値向上に繋げるための5つのステップを解説します

     

    <記事を最後までお読みいただくことで、実務における以下の課題や悩みが解決します>

    • スコープ1・2・3の定義を整理し、自社が着手すべき算定範囲の優先順位が明確になります。
    • 既存の経理データ等を活用し、担当者の負担を最小限に抑えるデータ集計プロセスがわかります。
    • 把握が困難なスコープ3に対し、推計値を活用した段階的で現実的な算定手法が身につきます。
    • 算定結果を「SBT」などの削減目標設定や、経営改善に繋げる具体的な活用手順が理解できます。
    • 「グリーンウォッシュ」と批判されないための、透明性の高い情報開示のポイントを把握できます。

     

    序章:はじめに:なぜ今、GHG排出量の算定が急務なのか

    現在、世界中の企業が「温室効果ガスの排出量をどれだけ削減できるか」という問いに直面しています。かつては環境活動の一環として捉えられていた排出量の算定は、今や企業の生存戦略そのものと言っても過言ではありません。投資家や取引先、さらには消費者が、企業の環境への姿勢を厳しくチェックするようになったからです。

     

    その中で、世界共通の「物差し」として採用されているのが「GHGプロトコル」です。このルールに従って自社の排出量を可視化することは、国際的なビジネスの土俵に乗るための最低限の条件となりつつあります。しかし、いざ着手しようとすると、その範囲の広さやデータの集計方法に戸惑う担当者も少なくありません。本稿では、実務者が直面する5つの壁をどのように乗り越え、算定を企業価値の向上に繋げていくべきかを解説します。

     

    【ここから先は会員限定コンテンツです】

    第1章では、GHGプロトコルに基づく算定範囲の特定をします。その次からは「現場を疲弊させない具体的なデータ収集術」や「スコープ3の段階的攻略法」など、より実務に踏み込んだ手順を公開しています。

     

    第1章:GHGプロトコルに基づく算定範囲の特定~スコープ1・2・3の定義と優先順位~

    算定を始める際に、最初に立ちはだかるのが「どこまでが自社の責任範囲なのか」という壁です。GHGプロトコルでは、排出の責任を3つの「スコープ」という概念で整理しています。

     

    まず「スコープ1」は、自社が直接的に排出するものです。例えば、自社の工場でガスを燃焼させたり、社用車でガソリン...

    GHGプロトコルの壁を越え、企業価値を高める5ステップ

    【目次】

      「取引先から排出量データの提出を求められたが、何から手をつければよいか分からない」「スコープ3の膨大なデータ収集に現場が疲弊している」、このような悩みを抱えるサステナビリティ担当者の方は多いのではないでしょうか。2024年以降、排出量の可視化は単なる環境活動ではなく、国際的なサプライチェーンに留まるための必須条件となっています。本記事では、国際基準である「GHGプロトコル」の基本構造を整理し、実務で直面するデータ収集の壁を乗り越え、企業価値向上に繋げるための5つのステップを解説します

       

      <記事を最後までお読みいただくことで、実務における以下の課題や悩みが解決します>

      • スコープ1・2・3の定義を整理し、自社が着手すべき算定範囲の優先順位が明確になります。
      • 既存の経理データ等を活用し、担当者の負担を最小限に抑えるデータ集計プロセスがわかります。
      • 把握が困難なスコープ3に対し、推計値を活用した段階的で現実的な算定手法が身につきます。
      • 算定結果を「SBT」などの削減目標設定や、経営改善に繋げる具体的な活用手順が理解できます。
      • 「グリーンウォッシュ」と批判されないための、透明性の高い情報開示のポイントを把握できます。

       

      序章:はじめに:なぜ今、GHG排出量の算定が急務なのか

      現在、世界中の企業が「温室効果ガスの排出量をどれだけ削減できるか」という問いに直面しています。かつては環境活動の一環として捉えられていた排出量の算定は、今や企業の生存戦略そのものと言っても過言ではありません。投資家や取引先、さらには消費者が、企業の環境への姿勢を厳しくチェックするようになったからです。

       

      その中で、世界共通の「物差し」として採用されているのが「GHGプロトコル」です。このルールに従って自社の排出量を可視化することは、国際的なビジネスの土俵に乗るための最低限の条件となりつつあります。しかし、いざ着手しようとすると、その範囲の広さやデータの集計方法に戸惑う担当者も少なくありません。本稿では、実務者が直面する5つの壁をどのように乗り越え、算定を企業価値の向上に繋げていくべきかを解説します。

       

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      第1章では、GHGプロトコルに基づく算定範囲の特定をします。その次からは「現場を疲弊させない具体的なデータ収集術」や「スコープ3の段階的攻略法」など、より実務に踏み込んだ手順を公開しています。

       

      第1章:GHGプロトコルに基づく算定範囲の特定~スコープ1・2・3の定義と優先順位~

      算定を始める際に、最初に立ちはだかるのが「どこまでが自社の責任範囲なのか」という壁です。GHGプロトコルでは、排出の責任を3つの「スコープ」という概念で整理しています。

       

      まず「スコープ1」は、自社が直接的に排出するものです。例えば、自社の工場でガスを燃焼させたり、社用車でガソリンを使ったりした際に発生するものがこれに当たります。「スコープ2」は、他社から購入したエネルギーの使用に伴う間接的な排出です。オフィスや工場で使う電気や熱が代表的です。そして「スコープ3」は、自社の活動に関連する「サプライチェーン全体」の排出を指します。原材料の調達から、製品の輸送、さらには販売した製品を顧客が使用・廃棄するまでの全工程が含まれます。

       

      なぜこのルールがグローバルスタンダードになったのか。それは、一社だけの排出を見るのではなく、網の目のように繋がった経済活動全体の排出を漏れなく捉える仕組みだからです。まずは、自社にとって把握が比較的容易なスコープ1と2から着手し、その全体像を把握した上で、影響力の大きいスコープ3へと範囲を広げていくのが、失敗しないための優先順位です。

      表. スコープ比較整理表

      GHGプロトコルの壁を越え、企業価値を高める5ステップ

       

      第2章:【データ収集の効率化】社内データを疲弊させない算定プロセス構築(スコープ1・2)

      算定の範囲が決まれば、次はデータの収集です。多くの担当者が「燃料の領収書や電気代の明細を、全拠点から集めるだけで力尽きてしまう」と嘆きます。この負担を軽減するには、算定の仕組みを理解した上で、既存の社内システムをいかに活用するかが鍵となります。

       

      排出量の計算は、非常にシンプルな考え方に基づいています。それは「どれだけ使ったか(活動量)」に「その活動によってどのくらい排出されるか(排出係数)」という数値を掛け合わせるというものです。例えば、電気であれば「使用したワット時」に「電力会社ごとの係数」を掛ければ算出できます。

       

      この「活動量」を把握するために、わざわざ新しい報告ルートを作る必要はありません。多くの企業では、経理システムに電気代や燃料代の支払い記録が残っています。これらの支払いデータと使用量を紐づけて管理する仕組みを構築すれば、日常の業務の延長線上でデータを集約できます。大切なのは、最初から完璧な精度を求めすぎず、まずは既存の社内データで「継続的に」集計できる体制を作ることです。

       

      第3章:【スコープ3の攻略】自社外データの壁を乗り越える、段階的・現実的アプローチ

      スコープ1・2の算定に目処がつくと、最大の難所であるスコープ3が待ち構えています。自社以外の取引先や顧客の排出量を把握しなければならないため、「正確なデータが手に入らない」という課題が必ず生じます。

       

      スコープ3には15のカテゴリが定められていますが、全てを最初から精密に計算する必要はありません。まずは、環境省などが公開しているデータベースにある「平均的な数値(二次データ)」を活用することから始めましょう。例えば、「この部品を1トン購入したら、平均でこれくらいの排出がある」という推計値で計算します。

       

      この推計を行うことで、自社のサプライチェーンのどこで多くの排出が発生しているかという「傾向」が見えてきます。その上で、排出量が多い主要な取引先に対してのみ、実際の排出データ(一次データ)の提供を依頼していくという二段構えのアプローチが現実的です。最初から満点を目指すのではなく、まずは全体を概算し、徐々に精度を高めていく段階的な精度向上こそが、算定実務を形骸化させずに継続させる鍵となります。

       

      第4章:【算定データの活用】算定データの活用と、削減目標(SBT等)の設定

      算定はゴールではなく、あくまで削減のためのスタート地点です。苦労して算出した数値を「報告書に載せて終わり」にしてしまうのは、非常にもったいないことです。算定データの真の価値は、自社の「ホットスポット(排出が集中している箇所)」を特定できることにあります。

       

      例えば、算定の結果、実は製造工程よりも物流段階での排出が多いことが判明すれば、配送ルートの見直しや共同配送の検討といった具体的なアクションに繋げられます。また、算定データがあれば、科学的な根拠に基づいた削減目標である「SBT」などの国際的な枠組みに沿った目標設定も可能になります。

       

      SBTは、気温の上昇を抑えるという国際的な合意に整合した目標を立てることを求めています。これに取り組むことは、「自社が将来にわたって持続可能なビジネスモデルを構築しようとしている」という強力なメッセージになります。算定データを地図として使い、どこを重点的に削減し、いつまでに目標を達成するかというロードマップを描くことで、環境対策はコストから「戦略的な投資」へと変わるのです。

       

      第5章:【信頼される情報開示】信頼性のある情報開示と、ステークホルダーへの対応

      最後に、算定した結果をどのように外部へ伝えるべきかという課題があります。近年、実態以上に環境に配慮しているように見せる「グリーンウォッシュ」という言葉が、企業にとって大きなリスクとなっています。不適切な開示は、意図的でないミスであっても、不適切な開示は「グリーンウォッシュ」とみなされ、ステークホルダーからの信頼失墜や資金調達への悪影響を招くリスクがあります。

       

      信頼性の高い開示を行うためには、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のような国際的な枠組みを参考にすることが有効です。単に数値を公表するだけでなく、「どのような前提条件で計算したのか」「どの範囲までを対象としたのか」という算定の根拠(透明性)をセットで示すことが不可欠です。

       

      有価証券報告書や統合報告書での開示が求められる場面も増えています。ここで大切なのは、良い数字だけを見せるのではなく、課題や今後の改善点についても正直に触れる姿勢です。客観的なデータに基づき、自社の現在地と未来への決意を透明性高く伝えることが、投資家や取引先、そして社会全体からの確固たる信頼に繋がります。

       

      終章:おわりに:算定を「コスト」から「未来への投資」へ

      GHGプロトコルに沿った算定作業は、確かに一朝一夕には終わらない、根気のいる仕事です。しかし、このプロセスを通じて自社の事業構造を「炭素」という新しい視点で見つめ直すことは、変化の激しい現代において極めて重要な経営診断となります。

       

      排出量を把握できなければ、効率的な削減も、新たな価値創造もできません。今回ご紹介した5つのステップを、一つひとつ着実に進めてみてください。最初は小さな一歩かもしれませんが、その積み重ねが、気候変動という地球規模の課題に貢献するだけでなく、排出量の把握は、効率的な削減のみならず、新たなビジネスモデルの構築に向けた重要な経営判断材料となります。今回提示した5つのステップを着実に進めることが、中長期的な企業価値の向上と、持続可能な競争力の確保に直結します。

       

       

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