【泥で発電?】微生物燃料電池(MFC)の仕組みとは?原理から「未来の下水処理」まで徹底解説

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【泥で発電?】微生物燃料電池(MFC)の仕組みとは?原理から「未来の下水処理」まで徹底解説

【目次】

     

    序章~見過ごされてきた微生物の可能性~

    ・微生物燃料電池(MFC)とは?

    微生物燃料電池(Microbial Fuel Cells, MFC)とは、水中の有機物や汚泥、さらには土壌の底泥(ヘドロ)に含まれる有機物を「燃料」として、そこに存在する特定の微生物の代謝活動を利用して直接的に電気エネルギーを取り出す革新的な発電システムです。従来の化学燃料電池が水素やメタノールなどの純粋な化学物質を燃料とするのに対し、MFCは地球上に豊富に存在する微生物の生命活動を「エンジン」として活用する点が最大の特徴です。この技術は、環境中に存在する廃棄物や汚染物質を分解しながら発電するという、一石二鳥の機能を実現する可能性を秘めています。

     

    【泥で発電?】微生物燃料電池(MFC)の仕組みとは?原理から「未来の下水処理」まで徹底解説

    図. 微生物燃料電池の概念図

    (国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 環境部 、微生物触媒による創電型廃水処理基盤技術開発資料から引用)

     

    ・火力・原子力発電との決定的な違い

    従来の火力発電や原子力発電は、高温・高圧の過酷な条件下でエネルギーを取り出しますが、MFCは常温・常圧の穏やかな環境で発電が可能です。また、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーと比較しても、有機物の供給さえあれば昼夜を問わず連続的に発電できるという運用上の利点があります。さらに、化石燃料を使用しないため、燃焼による二酸化炭素や窒素酸化物、硫黄酸化物などの汚染物質の排出が極めて少なく、クリーンな発電技術として期待されています。

     

    ・MFCが注目される背景、地球規模のエネルギー・環境問題

    地球規模でのエネルギー需要の増加と、それに伴う化石燃料の枯渇、そして地球温暖化などの環境問題は、人類が直面する喫緊の課題です。MFCは、これらの課題に対する画期的なソリューションを提供しうる技術として近年大きな注目を集めています。特に、下水処理場や工場排水処理において、有機物の分解のために大量の電力を消費する現状に対し、MFCを導入することで、処理プロセスで有機物を分解しつつ発電を行い、消費エネルギーを削減、さらには売電も可能にするという「エネルギー創出型」の排水処理システムへの転換を可能にするからです。これは、持続可能な社会(サステナブルな社会)の実現に向けた、重要な一歩となり得ます。

     

    1. 微生物燃料電池(MFC)の基本原理と構造

    1-1. 発電の基本メカニズム~微生物による電子の取り出し~

    MFCの発電メカニズムは、微生物が有機物を分解する際に放出する電子を電気エネルギーとして利用することに基づいています。この概念は、以下で解説の通りですが、次の3ステップです。

    1. アノード(負極): 微生物が汚れ(有機物)を食べて電子を出す。
    2. 外部回路: 電子が導線を通って移動する(=電気が流れる)。
    3. カソード(正極): やってきた電子と酸素が結合して水になる。

     

    【微生物(Exoelectrogens)の役割と代謝】

    MFCの鍵となるのは、「Exoelectrogens(エレクトロジェン、発電菌)」と呼ばれる特定の微生物群です。これらの微生物は、嫌気的な(酸素のない)環境下で、有機物(グルコース、酢酸など)を分解・酸化する代謝を行います。この代謝の過程で、微生物はエネルギーを獲得し、最終的に電子を細胞外へ放出します。通常、微生物は酸素を最終電子受容体として使用しますが、MFCの主要部であるアノード(負極)室では酸素がないため、微生物はこの電子をアノード電極に「渡す」ことで代謝を継続します。

     

    【アノードでの酸化反応と電子の生成】

    発電菌が有機物を酸化分解する反応は、MFCのアノード(負極)室で起こります。例えば酢酸が燃料の場合、微生物はこの酢酸を分解し、CO2、プロトン、そして電子を生成します。この電子は微生物の細胞外電子伝達(EET)メカニズムによってアノード電極に渡され、その結果、アノードは電子を受け取って負極となります。

     

    【カソードでの還元反応と回路の成立】

    アノード電極に集まった電子は、外部回路を通ってカソード(正極)へと移動します。カソード室は通常、酸素が存在する好気的な環境に保たれており、カソード電極に到達した電子は、アノード室からプロトン交換膜(PEM)を通って移動してきたプロトンと、カソード室の酸素と結合し、最終的に水を生成する還元反応を起こします。この一連の流れ(アノードでの酸化、外部回路を介した電子の移動、カソードでの還元)によって電気回路が成立し、電子が移動する際に電流が発生、外部負荷に接続することで電力を取り出すことができます。

     

    【プロトンの移動とイオン交換膜の役割】

    アノード室で有機物が分解される際に生じるプロトンは、溶液中の電荷バランスを保つために非常に重要な役割を果たします。このプロトンは、アノード室とカソード室を隔てるプロトン交換膜(Proton Exchange Membrane, PEM)を通過してカソード室へと移動します。PEMはプロトンのみを選択的に通過させ、アノードとカソードの電解質を分離することで、電子が外部回路を通ることを確実にし、MFCが電池として機能するために不可欠な構成要素です。

     

    1-2. MFCの基本的な構造と構成要素

    MFCにはいくつかの構造形式がありますが、最も基本となるのは「二室型MFC」と「単室型MFC」です。

     

    【二室型MFC(H型セル)の構造】

    二室型MFCは、アノード室とカソード室がプロトン交換膜(PEM)を介して完全に分離されている構造です。その形状からH型セルとも呼ばれ、基礎研究によく用いられます。

    アノード室・カソード室・プロトン交換膜(PEM)

    • アノード室:有機物と発電菌を含む液が充填され、酸素が排除された嫌気環境を保ちます。
    • カソード室:酸素またはその他の電子受容体を含む液が充填されます。
    • PEM:両室の中央に配置され、プロトンの移動を可能にしつつ、酸素がアノード室に侵入するのを防ぎ、電子が外部回路を通るように機能します。

     

    【単室型MFCの構造と利点】

    単室型MFCは、アノードとカソードが単一の容器内に配置され、カソード電極が直接空気(酸素)に接触する空気カソード型が一般的です。PEMを使用しない、あるいは小型化されたPEMを使用する場合もあります。PEMは高価であるため、PEMを不要とすることでコストを大幅に削減できます。また、構造がシンプルになるため、小型化や大量生産に適しており、実用化研究の主流となっています。

     

    【電極材料(アノード・カソード)の重要性】

    MFCの性能は、使用される電極材料に大きく左右されます。

    • アノード:発電菌が効率よく付着し、電子を受け取れるように、大きな表面積と高い導電性が必要です。炭素繊維、グラファイトフェルト、カーボンクロスなどが一般的に用いられます。
    • カソード:カソード反応、特に酸素還元反応(ORR)を促進するための高い触媒活性が求められます。多くの場合、白金(Pt)などの貴金属触媒が使用されますが、コスト削減のため、活性炭やマンガン酸化物などの非貴金属触媒の研究も進められています。

     

    【MFCの発電効率を決定づける要因】

    MFCの発電効率は、以下の複数の要因によって決定されます。

    • 微生物の性能:発電菌の種類、量、代謝活性。
    • 電子伝達効率:微生物からアノード電極への電子の受け渡し効率。
    • 内部抵抗:PEM抵抗、電極抵抗、電解質抵抗、活性化抵抗など、システム全体での電流の流れを妨げる抵抗。特にPEMの抵抗やカソード反応の遅延が大きな要因です。

     

    2. MFCの特徴、種類、応用...

    【泥で発電?】微生物燃料電池(MFC)の仕組みとは?原理から「未来の下水処理」まで徹底解説

    【目次】

       

      序章~見過ごされてきた微生物の可能性~

      ・微生物燃料電池(MFC)とは?

      微生物燃料電池(Microbial Fuel Cells, MFC)とは、水中の有機物や汚泥、さらには土壌の底泥(ヘドロ)に含まれる有機物を「燃料」として、そこに存在する特定の微生物の代謝活動を利用して直接的に電気エネルギーを取り出す革新的な発電システムです。従来の化学燃料電池が水素やメタノールなどの純粋な化学物質を燃料とするのに対し、MFCは地球上に豊富に存在する微生物の生命活動を「エンジン」として活用する点が最大の特徴です。この技術は、環境中に存在する廃棄物や汚染物質を分解しながら発電するという、一石二鳥の機能を実現する可能性を秘めています。

       

      【泥で発電?】微生物燃料電池(MFC)の仕組みとは?原理から「未来の下水処理」まで徹底解説

      図. 微生物燃料電池の概念図

      (国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 環境部 、微生物触媒による創電型廃水処理基盤技術開発資料から引用)

       

      ・火力・原子力発電との決定的な違い

      従来の火力発電や原子力発電は、高温・高圧の過酷な条件下でエネルギーを取り出しますが、MFCは常温・常圧の穏やかな環境で発電が可能です。また、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーと比較しても、有機物の供給さえあれば昼夜を問わず連続的に発電できるという運用上の利点があります。さらに、化石燃料を使用しないため、燃焼による二酸化炭素や窒素酸化物、硫黄酸化物などの汚染物質の排出が極めて少なく、クリーンな発電技術として期待されています。

       

      ・MFCが注目される背景、地球規模のエネルギー・環境問題

      地球規模でのエネルギー需要の増加と、それに伴う化石燃料の枯渇、そして地球温暖化などの環境問題は、人類が直面する喫緊の課題です。MFCは、これらの課題に対する画期的なソリューションを提供しうる技術として近年大きな注目を集めています。特に、下水処理場や工場排水処理において、有機物の分解のために大量の電力を消費する現状に対し、MFCを導入することで、処理プロセスで有機物を分解しつつ発電を行い、消費エネルギーを削減、さらには売電も可能にするという「エネルギー創出型」の排水処理システムへの転換を可能にするからです。これは、持続可能な社会(サステナブルな社会)の実現に向けた、重要な一歩となり得ます。

       

      1. 微生物燃料電池(MFC)の基本原理と構造

      1-1. 発電の基本メカニズム~微生物による電子の取り出し~

      MFCの発電メカニズムは、微生物が有機物を分解する際に放出する電子を電気エネルギーとして利用することに基づいています。この概念は、以下で解説の通りですが、次の3ステップです。

      1. アノード(負極): 微生物が汚れ(有機物)を食べて電子を出す。
      2. 外部回路: 電子が導線を通って移動する(=電気が流れる)。
      3. カソード(正極): やってきた電子と酸素が結合して水になる。

       

      【微生物(Exoelectrogens)の役割と代謝】

      MFCの鍵となるのは、「Exoelectrogens(エレクトロジェン、発電菌)」と呼ばれる特定の微生物群です。これらの微生物は、嫌気的な(酸素のない)環境下で、有機物(グルコース、酢酸など)を分解・酸化する代謝を行います。この代謝の過程で、微生物はエネルギーを獲得し、最終的に電子を細胞外へ放出します。通常、微生物は酸素を最終電子受容体として使用しますが、MFCの主要部であるアノード(負極)室では酸素がないため、微生物はこの電子をアノード電極に「渡す」ことで代謝を継続します。

       

      【アノードでの酸化反応と電子の生成】

      発電菌が有機物を酸化分解する反応は、MFCのアノード(負極)室で起こります。例えば酢酸が燃料の場合、微生物はこの酢酸を分解し、CO2、プロトン、そして電子を生成します。この電子は微生物の細胞外電子伝達(EET)メカニズムによってアノード電極に渡され、その結果、アノードは電子を受け取って負極となります。

       

      【カソードでの還元反応と回路の成立】

      アノード電極に集まった電子は、外部回路を通ってカソード(正極)へと移動します。カソード室は通常、酸素が存在する好気的な環境に保たれており、カソード電極に到達した電子は、アノード室からプロトン交換膜(PEM)を通って移動してきたプロトンと、カソード室の酸素と結合し、最終的に水を生成する還元反応を起こします。この一連の流れ(アノードでの酸化、外部回路を介した電子の移動、カソードでの還元)によって電気回路が成立し、電子が移動する際に電流が発生、外部負荷に接続することで電力を取り出すことができます。

       

      【プロトンの移動とイオン交換膜の役割】

      アノード室で有機物が分解される際に生じるプロトンは、溶液中の電荷バランスを保つために非常に重要な役割を果たします。このプロトンは、アノード室とカソード室を隔てるプロトン交換膜(Proton Exchange Membrane, PEM)を通過してカソード室へと移動します。PEMはプロトンのみを選択的に通過させ、アノードとカソードの電解質を分離することで、電子が外部回路を通ることを確実にし、MFCが電池として機能するために不可欠な構成要素です。

       

      1-2. MFCの基本的な構造と構成要素

      MFCにはいくつかの構造形式がありますが、最も基本となるのは「二室型MFC」と「単室型MFC」です。

       

      【二室型MFC(H型セル)の構造】

      二室型MFCは、アノード室とカソード室がプロトン交換膜(PEM)を介して完全に分離されている構造です。その形状からH型セルとも呼ばれ、基礎研究によく用いられます。

      アノード室・カソード室・プロトン交換膜(PEM)

      • アノード室:有機物と発電菌を含む液が充填され、酸素が排除された嫌気環境を保ちます。
      • カソード室:酸素またはその他の電子受容体を含む液が充填されます。
      • PEM:両室の中央に配置され、プロトンの移動を可能にしつつ、酸素がアノード室に侵入するのを防ぎ、電子が外部回路を通るように機能します。

       

      【単室型MFCの構造と利点】

      単室型MFCは、アノードとカソードが単一の容器内に配置され、カソード電極が直接空気(酸素)に接触する空気カソード型が一般的です。PEMを使用しない、あるいは小型化されたPEMを使用する場合もあります。PEMは高価であるため、PEMを不要とすることでコストを大幅に削減できます。また、構造がシンプルになるため、小型化や大量生産に適しており、実用化研究の主流となっています。

       

      【電極材料(アノード・カソード)の重要性】

      MFCの性能は、使用される電極材料に大きく左右されます。

      • アノード:発電菌が効率よく付着し、電子を受け取れるように、大きな表面積と高い導電性が必要です。炭素繊維、グラファイトフェルト、カーボンクロスなどが一般的に用いられます。
      • カソード:カソード反応、特に酸素還元反応(ORR)を促進するための高い触媒活性が求められます。多くの場合、白金(Pt)などの貴金属触媒が使用されますが、コスト削減のため、活性炭やマンガン酸化物などの非貴金属触媒の研究も進められています。

       

      【MFCの発電効率を決定づける要因】

      MFCの発電効率は、以下の複数の要因によって決定されます。

      • 微生物の性能:発電菌の種類、量、代謝活性。
      • 電子伝達効率:微生物からアノード電極への電子の受け渡し効率。
      • 内部抵抗:PEM抵抗、電極抵抗、電解質抵抗、活性化抵抗など、システム全体での電流の流れを妨げる抵抗。特にPEMの抵抗やカソード反応の遅延が大きな要因です。

       

      2. MFCの特徴、種類、応用分野

      2-1. MFCが持つ独自の特徴

       

      【低汚染物質・クリーンな発電】

      MFCの最大の魅力の一つは、発電プロセスにおいて環境負荷物質の排出が極めて少ないことです。燃料は有機性廃棄物や汚泥であり、燃焼工程を伴わないため、地球温暖化の原因となるCO2の排出を大幅に削減できます。排出されるのは水などの無害な物質が主であり、化石燃料依存型の発電技術からの脱却を可能にするクリーンな再生可能エネルギー源として期待されています。

       

      【燃料(有機物)の多様性】

      MFCは、単一の純粋な燃料を必要とする従来の燃料電池と異なり、多様な有機物を燃料として利用できます。具体的には、下水、食品廃棄物、醸造廃水、農業廃水、家畜糞尿、さらには土壌中の有機物(底泥)など、幅広い「バイオマス」から電力を取り出すことが可能です。この燃料の多様性は、世界中の様々な場所や条件下での応用を可能にする大きな強みです。

       

      【常温・常圧での運転可能性】

      MFCは、微生物の活動を基盤としているため、微生物が最も活発に活動できる常温(数℃〜40℃程度)かつ常圧の穏やかな条件下で運転可能です。これは、高温・高圧の条件を必要とする従来の発電設備と比較して、設備の建設・維持コストの低減、安全性の向上、そしてエネルギー消費の削減に大きく寄与します。

       

      【低出力・高コストという課題】

      一方で、MFCは現時点では克服すべき課題も抱えています。最も大きな課題の一つが、発電出力の低さです。微生物の代謝速度に依存するため、大規模な商業用電力供給源として利用するには、まだまだ出力密度が不足しています。また、プロトン交換膜(PEM)や触媒に使用される材料のコスト、そして大規模化(スケールアップ)が難しいという点も、実用化に向けた大きな壁となっています。

       

      2-2. 主要なMFCの種類と進化

      MFCは、微生物がどのように電子をアノード電極に渡すか(電子伝達メカニズム)によって、大きく二種類に分類されます。

       

      【メディエーターを利用するMFC(Mediator-type MFC)】

      初期のMFC研究で用いられていた方式です。発電菌が細胞外に放出する電子を、メディエーターと呼ばれる化学物質(例:メチレンブルー、中性レッドなど)が仲介し、電極へと運びます。

      • 特徴:電子伝達効率を高めやすい。
      • 課題:メディエーター自体が高価であること、また毒性を持つメディエーターが環境に放出される懸念があるため、実用化には不向きとされています。

       

      【メディエーターを利用しないMFC(Mediator-less MFC)】

      現在のMFC研究の主流であり、発電菌が自らのメカニズムで直接、または天然に存在する物質を介して電子を電極に渡す方式です。

      • 特徴:化学物質の追加が不要で、環境への負荷が少なく、長期安定運転に適しています。
      • 優位性:実用化に向けた研究は、このメディエーターレスMFCを中心に行われています。

       

      【「泥の電池」(Sediment MFC, SMFC)の特異性】

      微生物燃料電池の一種として、河川や湖沼の底泥(ヘドロ)中の有機物を燃料とするものが底泥型微生物燃料電池(Sediment MFC, SMFC)です。

      • 構造:アノード電極を底泥中の嫌気層に埋め込み、カソード電極を水中の好気層に配置することで、PEMなしで発電が可能です。
      • 特異性:電力の取り出しと底泥の浄化(汚染物質の分解)を同時に実現できる点が特異的です。リモートセンサーの電源など、低電力ながら自己完結型のシステムとして期待されています。

       

      2-3. MFCの有望な応用分野

      MFCの独自の特徴は、多様な分野での応用を可能にしています。

       

      【排水処理と発電(BOD/COD除去)】

      最も実用化が期待されている分野です。下水や工場排水に含まれる有機物(BOD/CODとして指標化される)を、MFCの発電菌が分解する過程で電力を取り出します。これにより、従来の曝気(ばっき)に必要な電力(大量に消費される)を削減し、処理の省エネルギー化と電力の創出を両立できます。

       

      【「泥の浄化」と発電、底泥(ヘドロ)の浄化】

      前述のSMFCを利用して、汚染された河川や湖沼の底泥(ヘドロ)に蓄積された有機汚染物質を分解し、水域の環境浄化に貢献します。分解と同時に発生する電力を、水質監視センサーの電源などに利用することで、環境モニタリングシステムの自律的な電源としての応用が可能です。

       

      【センサーとしての利用(バイオセンサー)】

      MFCは、燃料(有機物)の濃度変化に応じて発電量が敏感に変化する特性を持っています。この特性を利用し、水中のBOD(生物化学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)などの有機汚染度をリアルタイムで測定するバイオセンサーとしての利用が研究されています。

       

      【発電と同時に行う水素生産(Microbial Electrolysis Cell, MEC)】

      MFCの技術を発展させたものに微生物電気分解セル(Microbial Electrolysis Cell, MEC)があります。これは、MFCが本来持っている電位差に、外部からわずかな電力を印加することで、アノードで発生したプロトンと電子をカソードで結合させ、水素ガスを生成させる技術です。有機性廃棄物からクリーンエネルギーである水素を効率よく生産できるため、次世代の水素製造技術として注目されています。

       

      3. 微生物と電子の架け橋:「メディエイター」の役割と重要性

      MFCの性能を理解する上で、微生物がどのようにして細胞外のアノード電極に電子を渡すかという細胞外電子伝達(Extracellular Electron Transfer, EET)のメカニズムは極めて重要です。このEETを仲介するのが「メディエイター」あるいは、それに相当する機能を持つ細胞構造体や分泌物質です。

       

      3-1. 電子を渡す相手(メディエイター)とは

       

      【メディエーターが必要とされる理由】

      発電菌(Exoelectrogens)の多くは、細胞の表面が電極から離れていたり、電子が細胞膜を通過するのが困難であったりするため、直接電極に電子を渡すことができません。そこで、メディエーターと呼ばれる低分子量の酸化還元活性を持つ物質が、細胞から電子を受け取り、それを運んで電極へと「架け橋」のように渡す役割を担います。これにより、電子伝達の効率が向上し、結果としてMFCの発電性能が向上します。

       

      【化学メディエーターの具体例(メチレンブルーなど)】

      初期の研究では、人工的に合成された化学メディエーターが用いられました。メチレンブルーやニュートラルレッドなどがその代表例です。これらの物質は、細胞内で還元型(電子を受け取った状態)となり、細胞外で酸化型(電子を放出した状態)となって電極に電子を渡すというサイクルを繰り返します。しかし、前述の通り、コストや環境への影響の観点から、実用化には向かないとされています。

       

      【天然に存在するメディエーター】

      化学メディエーターに代わり、現在注目されているのが微生物自身が分泌する、あるいは環境中に天然に存在するメディエーターです。リボフラビン(ビタミン)やその誘導体、そしてキノン類などがその例です。これらの物質は、化学メディエーターと同様に電子運搬体として機能しますが、システムへの追加が不要であるため、メディエーターレスMFCの一部として機能していると考えられています。

       

      3-2. メディエーターレスMFCにおける電子伝達の仕組み

      現在の主流であるメディエーターレスMFCでは、人工的なメディエーターを使わず、微生物が持つ独自の細胞外電子伝達(EET)メカニズムを利用します。

       

      【微生物自身の細胞外電子伝達(EET)】

      発電菌の中には、細胞膜に組み込まれたシトクロムと呼ばれる酸化還元タンパク質を介して、細胞膜を越えて直接電極に電子を渡す能力を持つものがいます。直接伝達の代表的な発電菌であるシェワネラ(Shewanella)やゲオバクター(Geobacter)などが、この直接的なEETを行うことで知られています。

       

      【ナノワイヤー(Nanowire)を通じた直接伝達】

      特に「ゲオバクター菌」などは、自分の体から「ナノワイヤー」と呼ばれる電気を通す毛を伸ばし、直接コンセントにプラグを挿すように電極へ電子を流し込みます。まるで微生物が電線を持っているような驚きのメカニズムです。ナノワイヤーは、微生物と電極との間の距離のギャップを埋める役割を果たし、電子をより効率的かつ長距離で運ぶことを可能にします。

       

      【細胞外に分泌されるリボフラビンなどによる間接伝達】

      メディエーターレスMFCといっても、完全に電子仲介物質が存在しないわけではありません。先に触れたように、微生物自身がリボフラビンやフラビンモノヌクレオチド(FMN)などの天然のメディエーターを細胞外に分泌し、これを電子シャトルとして利用する間接的な電子伝達も重要なメカニズムです。

       

      【メディエーターレス方式の利点と課題】

      • 利点:化学メディエーターの添加が不要で、コスト削減、毒性の排除、環境負荷の低減、長期安定運転が可能となります。
      • 課題:EETのメカニズムや効率は、微生物の種類や培地の条件に強く依存するため、安定した高出力を得るためには、発電菌群集の最適化と制御が必要となります。

       

      4. 発電メカニズムに残る謎と技術的課題

      微生物燃料電池(MFC)は革新的な技術である一方で、実用化に向けて克服すべき多くの技術的・科学的な課題が残されています。

       

      4-1. 発電効率の限界と理論的な課題

      MFCの発電効率を向上させるには、システム内で生じる電力損失(内部抵抗)を低減することが不可欠です。

       

      【内部抵抗の要因(PEM、電解質、電極)】

      発電によって生じる電圧(起電力)と実際に取り出せる電圧の間には大きな差があり、この損失の主因が内部抵抗です。

      • プロトン交換膜(PEM)抵抗:PEMをプロトンが通過する際の抵抗は非常に大きく、高価なPEMはコスト面でも課題です。安価で高性能なPEMの開発が求められています。
      • 電解質抵抗:アノード室およびカソード室の電解質溶液中のイオン濃度が低い場合、イオンの移動が妨げられ、抵抗が増加します。
      • 電極抵抗:電極材料自体の電気抵抗も損失の一因です。

       

      【カソード反応の遅延(酸素還元反応)】

      MFCの発電効率を制限する最も大きな要因の一つが、カソードでの酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction, ORR)の速度が非常に遅いことです。ORRは、カソード電極に到達した電子がプロトンと酸素と結合して水になる反応ですが、この反応の活性化エネルギーが大きいため、反応速度が律速段階となり、結果としてMFCの出力が低下します。この遅延を克服するため、高価な白金(Pt)触媒の代替となる、安価で高性能な非貴金属触媒の開発が急務となっています。

       

      【アノードに付着する微生物の層(バイオフィルム)の最適化】

      発電菌がアノード電極表面に形成するバイオフィルムは、電子伝達の「場」となりますが、この層が厚くなりすぎると、以下の問題が生じます。

      • 内部抵抗の増加:厚いバイオフィルムは、電子の移動経路を長くし、電気抵抗を増加させます。
      • 燃料輸送の制限:有機物燃料がバイオフィルム内部の微生物まで到達するのに時間がかかり、代謝速度が低下します。
      • 最適化の必要性:発電に最適な厚さ、組成、そして高効率なEETを可能にする微生物群集構造を持つバイオフィルムを形成・維持する技術の確立が、性能向上の鍵を握ります。

       

      4-2. 微生物間の複雑な相互作用

      MFCは、単一の微生物ではなく、多様な微生物の複合群集によって運転されています。

       

      【発電に関わる微生物の多様性と共生関係】

      MFCアノードには、実際に発電を行う発電菌だけでなく、有機物を発電菌が利用しやすい物質(例えば酢酸)に分解する発酵菌など、様々な機能を持つ微生物が存在し、複雑な共生関係を築いています。例えば、発酵菌が下水中の複雑な有機物を低分子化し、それを発電菌が利用して電子を取り出すといった食物連鎖が存在します。この微生物群集のダイナミクスを理解し、制御することは、MFCの安定した運転と性能向上に不可欠です。

       

      【MFCの性能を高める微生物群集の制御】

      高性能なMFCを実現するためには、より効率的に電子を取り出せる発電菌を優占させ、バイオフィルム全体としてのEET効率を最大化する必要があります。バイオエンジニアリングでは、電極材料の選定、運転条件、温度、流量など)の調整、特定の微生物を導入する接種(Inoculation)技術などを組み合わせて、目的とする微生物群集を「設計・制御」する研究が進められています。

       

      4-3. 実用化に向けた具体的な課題

       

      【スケールアップ(大型化)の問題】

      MFCを実用化するためには、下水処理場などでの大規模利用を可能にするスケールアップ(大型化)が必須です。しかし、ラボスケール(小型)で高い出力密度が得られても、セルを大型化・多段化すると、内部抵抗の増加、燃料・プロトンの輸送効率の低下、そして均一な微生物活動の維持が難しくなり、性能が大幅に低下する傾向があります。スタック構造では、複数のMFCセルを直列・並列に接続して電圧・電流を増強するスタック構造の最適設計が重要な研究テーマとなっています。

       

      【低コスト化と長寿命化】

      MFCの実用化を阻む最も大きな要因の一つはコストです。

      • 低コスト化:高価なPEMや白金触媒に代わる安価で高性能な代替材料の開発が求められています。また、建設費やメンテナンス費を含めたトータルコストの低減が必要です。
      • 長寿命化:微生物バイオフィルムの劣化、電極の汚損、触媒の失活などにより、MFCの性能は時間とともに低下します。長期間にわたり安定した性能を維持するための耐久性とメンテナンス技術の確立が不可欠です。

       

      5. 未来社会を支えるMFCの展望

       

      【MFC研究の最新動向とブレイクスルー】

      MFCの研究は現在も急速に進展しており、様々なブレイクスルーが生まれています。

      • 高性能電極・触媒:ナノマテリアル技術を活用した、バイオフィルム形成を促進する多孔質の三次元電極や、カソード反応を劇的に改善する非貴金属ナノ触媒の開発が進んでいます。
      • 発電と創薬:発電と同時に、特定の物質(有用物質やバイオプラスチック原料など)を生産するバイオプロダクションを統合したシステムの開発も進められており、MFCの付加価値を高めることが期待されています。

       

      【循環型社会への貢献、汚染物質を資源に変える技術】

      MFC技術の真の価値は、単なる発電技術に留まりません。それは、汚染物質や廃棄物を「燃料」という資源に変えるという、循環型社会の核となるコンセプトを実現する技術である点にあります。下水や畜産廃水といった、これまで処理にコストを要していた有機性廃棄物をエネルギー源に転換することで、廃棄物処理のエネルギー自立化、そしてゼロエミッションに貢献します。特に、電気エネルギーへの変換が困難な低濃度・低質の有機性資源(例:底泥)に対しても利用可能である点は、他の技術にはない独自性です。

       

      【持続可能な社会実現に向けたMFCへの期待】

      現在、MFCはセンサー電源などのニッチな応用から、大規模な排水処理プラントへの組み込みを目指す段階へと移行しています。発電量の低さという課題は残るものの、環境浄化とエネルギー創出を両立し、常温で運転可能という特徴は、開発途上国や災害時など、電源アクセスが限定的な地域での分散型電源としても大きな可能性を秘めています。MFCは、人類が目指す持続可能な社会、そして地球環境との調和を実現するための、未来を担うクリーンな基盤技術の一つとして、今後も更なる発展が期待されています。

       

      【MFCの成長規模とその機会】

       世界のMFCの市場規模は、straitsリサーチのレポート※1によると、2025年には約3,000億米ドルから2033年には約4,000億米ドルに達すると予測されています。その年平均成長率(CAGR)は3.7%となっています。また、ReliefWeb に掲載された研究論文によると、世界の都市廃水の年間発生量は 3,800 億立方メートルに達し、廃水発生量は 2030 年までに24%、2050 年までに 51% 増加すると予測されています。

       

      例えば、2023年の研究では車両の排気ススがMFCの電極材料の費用対効果の高い代替品であることを発見しました。MFC の機能向上だけでなく、車両の排気ススを持続可能なエネルギー生産と廃水処理のための資源とすることで環境問題の課題対応策の一つになります。また、EPFLの研究者らが大腸菌の遺伝子組み換えに成功し、電気を生成することに成功しています。その大腸菌はMFCにも使用できると考えられます。これらのチャレンジは市場成長の機会を生み出すブレークスルーにもなると考えます。

       

      ※1出所:「微生物燃料電池市場 サイズと展望 2025-2033」(straitsリサーチ)

       

       

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