
エネルギーハーベスティングは、私たちの身の回りに存在する太陽光、熱、振動、電波といった微小なエネルギーを「収穫(ハーベスト)」し、電力に変換して利用する革新的な技術です。これにより、私たちは化石燃料に依存せず、環境に優しいエネルギー源を確保することが可能になります。今回は、エネルギーハーベスティングの基本概念や技術の現状、さらには今後の展望について解説します。特に、これらの技術がどのように私たちの生活や産業に影響を与えるのか、また、持続可能な社会の実現に向けた可能性について考察していきます。エネルギーハーベスティングがもたらす未来の姿を一緒に探っていきましょう。
1. エネルギーハーベスティングの全貌、基本概念から動作原理まで
(1)「環境発電」とも呼ばれるエネルギーハーベスティングの定義
この「収穫」対象となる主な未利用エネルギー源には、以下のようなものがあります。
光エネルギー
太陽光(屋外)だけでなく、照明光(屋内)も含む。
熱エネルギー
工場や電子機器からの廃熱、エンジン排熱、地熱、温泉熱、さらには人間の体温といった温度差から生じるエネルギー。
運動・振動エネルギー
機械の振動、人や乗り物の動き(歩行、走行)、音波、風の揺らぎなど、物理的な動きや変位から生じるエネルギー。
電磁波エネルギー(RFエネルギー)
テレビ・ラジオ放送波、携帯電話基地局の電波、Wi-Fiルーターや無線機器から発せられる電磁波。
力学エネルギー(広義の圧力エネルギー)
床を踏む圧力(床発電)、水流・気流による圧力変動、潮汐力など。
その他(化学エネルギー、生物エネルギーなど)
微生物燃料電池(土壌中の微生物代謝を利用)、体液中のグルコースを利用するバイオ燃料電池など、研究開発段階のものも含む。
これらのエネルギー源は、これまでほとんど利用されてきませんでしたが、エネルギーハーベスティング技術を用いることで、センサーや小型通信デバイス、ウェアラブル機器などの低消費電力デバイスを自律的に駆動させることが可能になります。これにより、電池交換の手間をなくし、メンテナンスフリー化や長寿命化を実現し、IoT社会のさらなる進展を加速させることが期待されています。
(2)エネルギーハーベスティングを実現する3つのコアステップ
エネルギーハーベスティングの基本的な仕組みは、大きく以下の3つのステップで構成されます。
【エネルギーの捕捉(収集)】
周囲に存在する目的のエネルギーを効率的に捉えるための受動的なデバイスが必要です。例えば、光エネルギーであれば太陽電池(PVセル)、熱エネルギーであれば熱電変換素子(Peltier素子やSeebeck素子)、振動エネルギーであれば圧電素子や電磁誘導コイル、電波エネルギーであればアンテナなどがこれに該当します。この段階で、いかに多くの、あるいは効率的にエネルギーを捉えられるかが、システム全体の性能を左右します。
【エネルギーの変換】
捕捉されたエネルギーは、そのままでは電子機器の駆動には利用できません。そのため、電子回路で利用可能な電力(電圧と電流)に変換する必要があります。この変換プロセスは、捕捉するエネルギーの種類によって異なります。この変換された電力は非常に微弱であることが多いため、後段の回路で適切に処理される必要があります。
【電力の蓄積と供給】
変換された微弱な電力は、そのままでは不安定であり、デバイスの動作に必要な安定した電圧や電流を供給できません。また、エネルギー源が常に利用できるとは限らないため、一時的に電力を貯蔵する仕組みも必要です。このため、変換された電力は、まず昇圧コンバータなどの電源管理ICによってデバイスの動作に必要な電圧レベルまで昇圧・安定化されます。その後、コンデンサ(キャパシタ)や二次電池(リチウムイオン電池など)に蓄積されます。
このように、エネルギーハーベスティングは、周囲の多様なエネルギー源を効率的に捕捉し、電子機器が利用できる電力へと変換・蓄積・供給することで、電池交換不要の自律的なシステムを実現する画期的な技術であり、今後の社会においてその重要性はますます高まっていくでしょう
2. 多彩な「未利用エネルギー」を電力に変える技術群
私たちの身の回りには、日常生活では見過ごされがちな、しかし活用すれば貴重な電力源となりうる微小な自然エネルギーが満ち溢れています。こうしたエネルギーを収集し、電力に変換する技術を「エネルギーハーベスティング(環境発電)」と呼びます。IoTデバイスの普及やウェアラブルデバイスの進化に伴い、電池交換の手間を省き、持続可能な電力供給を実現する技術として、その重要性はますます高まっています。太陽光、風力、振動、熱、電波など、様々な種類の自然エネルギーを利用するエネルギーハーベスティング技術について解説します。
(1)太陽光エネルギーの利用
近年では、従来のシリコン系太陽電池に加え、軽量・フレキシブルな有機薄膜太陽電池(OPV)、色素増感太陽電池(DSSC)、ペロブスカイト太陽電池といった次世代太陽電池の開発が活発です。これらは、塗布プロセスによる製造や半透明化・意匠性の向上が可能で、窓ガラスやカーテンウォールへの組み込み(BIPV: 建材一体型太陽電池)、屋内光環境でのIoTデバイス電源、フレキシブルセンサーへの応用など、設置場所の制約を大幅に低減し、デザイン性と両立するエネルギーハーベスティングを実現します。
(2)風力エネルギーの利用
風力エネルギーは、風の運動エネルギーを回転運動に変換し、発電機を回すことで電力に変換する技術です。大規模な風力発電所が有名ですが、エネルギーハーベスティングの分野では、微風でも発電可能な小型の風力発電機や、風の揺らぎを利用して発電するデバイスが研究されています。例えば、建物の通気口や人の動きによって生じる空気の流れ、あるいは自動車の走行によって発生する風圧などを利用して、センサーや小型電子機器を駆動させる応用が期待されています。
(3)振動エネルギーの利用
私たちの日常生活には、絶えず微細な振動が存在します。歩行、機械の稼働、交通振動、音波など、これらの振動エネルギーを電力に変換する技術が振動エネルギーハ...

エネルギーハーベスティングは、私たちの身の回りに存在する太陽光、熱、振動、電波といった微小なエネルギーを「収穫(ハーベスト)」し、電力に変換して利用する革新的な技術です。これにより、私たちは化石燃料に依存せず、環境に優しいエネルギー源を確保することが可能になります。今回は、エネルギーハーベスティングの基本概念や技術の現状、さらには今後の展望について解説します。特に、これらの技術がどのように私たちの生活や産業に影響を与えるのか、また、持続可能な社会の実現に向けた可能性について考察していきます。エネルギーハーベスティングがもたらす未来の姿を一緒に探っていきましょう。
1. エネルギーハーベスティングの全貌、基本概念から動作原理まで
(1)「環境発電」とも呼ばれるエネルギーハーベスティングの定義
この「収穫」対象となる主な未利用エネルギー源には、以下のようなものがあります。
光エネルギー
太陽光(屋外)だけでなく、照明光(屋内)も含む。
熱エネルギー
工場や電子機器からの廃熱、エンジン排熱、地熱、温泉熱、さらには人間の体温といった温度差から生じるエネルギー。
運動・振動エネルギー
機械の振動、人や乗り物の動き(歩行、走行)、音波、風の揺らぎなど、物理的な動きや変位から生じるエネルギー。
電磁波エネルギー(RFエネルギー)
テレビ・ラジオ放送波、携帯電話基地局の電波、Wi-Fiルーターや無線機器から発せられる電磁波。
力学エネルギー(広義の圧力エネルギー)
床を踏む圧力(床発電)、水流・気流による圧力変動、潮汐力など。
その他(化学エネルギー、生物エネルギーなど)
微生物燃料電池(土壌中の微生物代謝を利用)、体液中のグルコースを利用するバイオ燃料電池など、研究開発段階のものも含む。
これらのエネルギー源は、これまでほとんど利用されてきませんでしたが、エネルギーハーベスティング技術を用いることで、センサーや小型通信デバイス、ウェアラブル機器などの低消費電力デバイスを自律的に駆動させることが可能になります。これにより、電池交換の手間をなくし、メンテナンスフリー化や長寿命化を実現し、IoT社会のさらなる進展を加速させることが期待されています。
(2)エネルギーハーベスティングを実現する3つのコアステップ
エネルギーハーベスティングの基本的な仕組みは、大きく以下の3つのステップで構成されます。
【エネルギーの捕捉(収集)】
周囲に存在する目的のエネルギーを効率的に捉えるための受動的なデバイスが必要です。例えば、光エネルギーであれば太陽電池(PVセル)、熱エネルギーであれば熱電変換素子(Peltier素子やSeebeck素子)、振動エネルギーであれば圧電素子や電磁誘導コイル、電波エネルギーであればアンテナなどがこれに該当します。この段階で、いかに多くの、あるいは効率的にエネルギーを捉えられるかが、システム全体の性能を左右します。
【エネルギーの変換】
捕捉されたエネルギーは、そのままでは電子機器の駆動には利用できません。そのため、電子回路で利用可能な電力(電圧と電流)に変換する必要があります。この変換プロセスは、捕捉するエネルギーの種類によって異なります。この変換された電力は非常に微弱であることが多いため、後段の回路で適切に処理される必要があります。
【電力の蓄積と供給】
変換された微弱な電力は、そのままでは不安定であり、デバイスの動作に必要な安定した電圧や電流を供給できません。また、エネルギー源が常に利用できるとは限らないため、一時的に電力を貯蔵する仕組みも必要です。このため、変換された電力は、まず昇圧コンバータなどの電源管理ICによってデバイスの動作に必要な電圧レベルまで昇圧・安定化されます。その後、コンデンサ(キャパシタ)や二次電池(リチウムイオン電池など)に蓄積されます。
このように、エネルギーハーベスティングは、周囲の多様なエネルギー源を効率的に捕捉し、電子機器が利用できる電力へと変換・蓄積・供給することで、電池交換不要の自律的なシステムを実現する画期的な技術であり、今後の社会においてその重要性はますます高まっていくでしょう
2. 多彩な「未利用エネルギー」を電力に変える技術群
私たちの身の回りには、日常生活では見過ごされがちな、しかし活用すれば貴重な電力源となりうる微小な自然エネルギーが満ち溢れています。こうしたエネルギーを収集し、電力に変換する技術を「エネルギーハーベスティング(環境発電)」と呼びます。IoTデバイスの普及やウェアラブルデバイスの進化に伴い、電池交換の手間を省き、持続可能な電力供給を実現する技術として、その重要性はますます高まっています。太陽光、風力、振動、熱、電波など、様々な種類の自然エネルギーを利用するエネルギーハーベスティング技術について解説します。
(1)太陽光エネルギーの利用
近年では、従来のシリコン系太陽電池に加え、軽量・フレキシブルな有機薄膜太陽電池(OPV)、色素増感太陽電池(DSSC)、ペロブスカイト太陽電池といった次世代太陽電池の開発が活発です。これらは、塗布プロセスによる製造や半透明化・意匠性の向上が可能で、窓ガラスやカーテンウォールへの組み込み(BIPV: 建材一体型太陽電池)、屋内光環境でのIoTデバイス電源、フレキシブルセンサーへの応用など、設置場所の制約を大幅に低減し、デザイン性と両立するエネルギーハーベスティングを実現します。
(2)風力エネルギーの利用
風力エネルギーは、風の運動エネルギーを回転運動に変換し、発電機を回すことで電力に変換する技術です。大規模な風力発電所が有名ですが、エネルギーハーベスティングの分野では、微風でも発電可能な小型の風力発電機や、風の揺らぎを利用して発電するデバイスが研究されています。例えば、建物の通気口や人の動きによって生じる空気の流れ、あるいは自動車の走行によって発生する風圧などを利用して、センサーや小型電子機器を駆動させる応用が期待されています。
(3)振動エネルギーの利用
私たちの日常生活には、絶えず微細な振動が存在します。歩行、機械の稼働、交通振動、音波など、これらの振動エネルギーを電力に変換する技術が振動エネルギーハーベスティングです。主に、圧電効果を利用する方式と、電磁誘導を利用する方式があります。圧電効果とは、特定の物質(圧電素子)に圧力を加えると電荷が発生する現象であり、逆に電圧を加えると変形する現象も利用されます。圧電素子を床や道路に埋め込むことで、人や車の通行による振動から発電したり、機械の振動を利用して自己給電型センサーを開発するといった応用が考えられます。電磁誘導方式は、磁石とコイルの相対運動によって電流を発生させる原理を利用し、微細な揺れから効率的に発電する技術です。
(4)さらなる可能性を秘めたエネルギー源
上記以外にも、様々な自然エネルギーがエネルギーハーベスティングの対象となります。
- 【熱エネルギー】
人体の体温、排熱、地熱など、温度差や熱流を利用して発電する熱電変換素子(ゼーベック効果)が研究されています。ウェアラブルデバイスや工場排熱からの電力回収などに応用が期待されます。
- 【電波エネルギー】
空中に飛び交う電波(Wi-Fi、携帯電話の電波など)を捕捉し、電力に変換する技術も注目されています。微弱な電力しか得られませんが、低消費電力のIoTデバイスへの給電など、特定のニッチな用途での活用が期待されています。
- 【環境中の化学エネルギー】
微生物の代謝活動を利用して発電する微生物燃料電池や、水の流れや蒸発など、環境中の化学ポテンシャル差を利用して発電する技術も研究段階にあります。
3. 実用化が進むエネルギーハーベスティング、市場トレンドと注目事例
エネルギーハーベスティング、IoTデバイスの普及に伴い、バッテリー交換の手間やコストを削減できる技術として、その重要性が高まっています。
(1)エネルギーハーベスティングの市場動向
現状と成長予測 エネルギーハーベスティング市場は、IoTデバイスの爆発的普及とサステナビリティへの関心の高まりを背景に、力強い成長を続けています。
産業用IoT(IIoT)およびインフラ監視
センサーネットワーク、予知保全、構造ヘルスモニタリングなど。
スマートビルディング・スマートホーム
ワイヤレススイッチ、環境センサー、セキュリティシステムなど。
ヘルスケア・医療
ウェアラブルバイタルセンサー、体内埋め込み型デバイス、遠隔患者モニタリングなど。
コンシューマーエレクトロニクス
スマートウォッチ、活動量計、ワイヤレスイヤホン、電子ペーパータグなど。
自動車・輸送
TPMS、車室内センサー、EV向け補助電源、自律走行関連センサーなど。
農業・環境モニタリング
スマート農業センサー、気象観測ブイ、野生動物追跡タグなど。
(2)国内外の注目すべき導入事例と実用化の最前線
エネルギーハーベスティング技術は、すでに様々な分野で実用化され、導入事例が増加しています。
【産業分野】
- ワイヤレスセンサーネットワーク
工場やプラントにおいて、振動や熱を電力に変換し、設備の状態監視を行うワイヤレスセンサーに活用されています。これにより、配線コストの削減や設置場所の自由度向上に貢献しています。例えば、製造ライン上のモーターやポンプの異常検知、設備の稼働状況モニタリングなどに利用されています。
- 構造ヘルスモニタリング
橋梁やトンネルなどのインフラ構造物において、微細な振動を電力に変換し、ひび割れや劣化の進行を検知するセンサーの電源として利用されています。これにより、定期的な点検作業の効率化と安全性の向上に寄与しています。
【スマートホーム・ビルディング】
- ワイヤレススイッチ
人の動きによる振動や光を電力に変換し、配線不要のワイヤレススイッチに活用されています。照明のオンオフやブラインドの開閉などを手軽に操作できるため、リフォーム時やレイアウト変更時の配線工事が不要になります。
- 自己給電型センサー
窓やドアの開閉、室内の温度や湿度を感知するセンサーに、太陽光や室内の光、温度差などを利用したエネルギーハーベスティングが導入されています。バッテリー交換の手間が不要となり、メンテナンスフリーなIoT環境を実現しています。
【ウェアラブルデバイス】
- 活動量計
人の歩行や動きによる振動を電力に変換し、活動量計やスマートウォッチのバッテリーを補助する役割を果たしています。これにより、充電頻度を減らし、利便性を向上させています。
- 医療用センサー
体温や心拍などの生体情報から得られる熱や振動を電力に変換し、パッチ型センサーや埋め込み型医療機器の電源として研究・開発が進められています。将来的には、バッテリー交換が困難な体内デバイスへの応用も期待されています。
【自動車分野】
- タイヤ空気圧監視システム (TPMS)
タイヤの回転による振動や熱を電力に変換し、センサーの電源として利用されています。これにより、バッテリーレス化や長寿命化を実現し、廃棄物削減にも貢献しています。
- 車載センサー
エンジンルームの熱や車体の振動を利用して、各種センサーの電源を供給する研究が進められています。これにより、配線削減や軽量化、燃費向上に寄与することが期待されています。
これらの導入事例は、エネルギーハーベスティング技術が、単なる研究段階から実用段階へと移行し、様々な分野で具体的な価値を生み出していることを示しています。今後も、技術のさらなる発展と低コスト化により、より広範な分野での導入が加速していくと予想されます。
4. 地球と共に生きる技術、環境調和と持続可能性への貢献
(1)エネルギーハーベスティングの環境への影響
エネルギーハーベスティングが環境に与える影響は、主にその導入と普及によって生じるメリットと、製造・廃棄の過程における課題の両面から考える必要があります。
【メリット】
- バッテリーの削減と廃棄物問題の軽減
従来の電子機器の多くはバッテリーに依存していますが、バッテリーの製造には希少資源が用いられ、使用後の廃棄は環境負荷となります。エネルギーハーベスティングは、外部電源やバッテリー交換なしにデバイスを動作させることができるため、バッテリーの使用量を大幅に削減し、これに伴う環境負荷を軽減します。特に、数多くのIoTデバイスが普及する将来においては、このバッテリー削減効果は非常に大きくなると考えられます。
- ケーブルの削減
電源ケーブルや充電ケーブルが不要になることで、ケーブルの製造・廃棄に伴う環境負荷が低減されます。また、配線工事が不要になるため、設置コストや手間も削減され、建物の美観向上にも寄与します。
- 再生可能エネルギーの活用
光(太陽光)、熱(地熱、排熱)、振動(機械の振動、人間の動き)など、自然界や日常生活の中に存在するエネルギーを利用するため、化石燃料に依存しないクリーンな電力供給が可能になります。これは、温室効果ガス排出量の削減に繋がり、気候変動対策に貢献します。
- 未利用エネルギーの有効活用
これまで利用されてこなかった微小なエネルギーを電力として活用することで、エネルギー利用効率全体の向上が期待できます。これは、エネルギー資源の有効活用という点で、持続可能性に貢献します。
(2)エネルギーハーベスティングの課題と今後の展望
【課題1】
エネルギー変換効率と出力密度の向上
現状のエネルギーハーベスティング技術の多くは、変換効率や単位面積・体積あたりの出力(出力密度)がまだ低く、駆動できるデバイスが低消費電力なものに限られる傾向があります。
解決の方向性
新規材料(例:高効率熱電材料、高性能圧電セラミックス、広帯域RF応答材料)の開発、素子構造の最適化、複数のエネルギー源を組み合わせるハイブリッド型ハーベスタ、AIを活用した最適電力マネジメント技術などが鍵となります。
【課題2】
コストと耐久性・信頼性:実用化には、デバイス本体の製造コスト低減と、様々な環境下(温度、湿度、振動、化学物質など)での長期的な安定動作を保証する耐久性・信頼性の確保が不可欠です。
解決の方向性
製造プロセスの簡素化・量産化技術、安価で高性能な材料の探索、堅牢なパッケージング技術、自己修復機能を持つ材料の開発などが進められています。
【課題3】
標準化とシステム統合の複雑性
多様なエネルギー源、変換方式、出力特性が存在するため、標準化が進まず、システムインテグレーターにとっては最適なデバイス選定やシステム設計が複雑になる場合があります。
解決の方向性
インターフェースの標準化、モジュール化、シミュレーションツールの高度化、エネルギーハーベスティングに特化したPMICの高性能化などが求められます。
【課題4】
ライフサイクル全体での環境影響評価(LCA)
デバイスの製造から廃棄・リサイクルに至る全過程での環境負荷を評価し、真にサステナブルな技術とするための取り組みも重要です。リサイクルしやすい材料設計(Design for Recycling)や、有害物質フリー化などが求められます。
(3)エネルギーハーベスティングの持続可能なエネルギー源としての可能性
エネルギーハーベスティングは、その特性から見て、持続可能なエネルギー源として非常に大きな可能性を秘めています。
- 自立型デバイスの実現
電源が不要な自立型デバイスは、遠隔地や過酷な環境下でのセンサーネットワーク、インフラ監視、医療機器など、様々な分野での応用が期待されます。これにより、社会インフラの効率化や、人々の生活の質の向上に貢献します。
- 環境モニタリング
環境センサーにエネルギーハーベスティング技術を組み合わせることで、森林火災の早期発見、水質汚染の監視、大気汚染のモニタリングなど、環境保全に役立つシステムの構築が可能になります。これにより、持続可能な社会の実現に不可欠な環境情報のリアルタイムな取得と分析が可能になります。
- インフラ監視・保守の効率化
橋梁や道路、鉄道などの社会インフラに設置されたセンサーが自律的に稼働することで、老朽化の早期発見や異常検知が可能になり、インフラの長寿命化と保守コストの削減に貢献します。
- 分散型エネルギーシステムの構築
大規模な発電所に依存せず、各デバイスが自ら発電する分散型エネルギーシステムの構築に貢献します。これにより、電力供給の安定性が向上し、災害時などのレジリエンス強化にも繋がります。
5. エネルギーハーベスティングの社会的意義
私たちの日常生活において、エネルギーハーベスティングは利便性と持続可能性を大きく向上させます。例えば、電池交換不要なIoTデバイスの普及が挙げられます。スマートホームセンサー、ウェアラブルデバイス、医療用インプラントなどが、室内の光、体温、あるいは微細な振動から電力を得ることで、頻繁な電池交換の手間を省き、廃棄物となる電池の量を削減します。これにより、ユーザーエクスペリエンスが向上するだけでなく、環境負荷の低減にも繋がります。また、電源の確保が困難な場所でのセンサーネットワーク構築も容易になります。山間部や災害地域など、送電線が届かない場所でも環境モニタリングや早期警戒システムを設置できるようになり、防災・減災に貢献します。
産業分野における貢献も計り知れません。工場やインフラ設備のモニタリングにおいて、エネルギーハーベスティングを活用したワイヤレスセンサーは、配線工事のコストと手間を大幅に削減します。機械の振動や熱から電力を得ることで、設備の異常検知や予知保全をリアルタイムで行うことが可能になり、生産性の向上とダウンタイムの削減に繋がります。特に、老朽化したインフラの監視において、橋梁や道路のひび割れ、トンネルの変形などを常時監視するセンサーにエネルギーハーベスティング技術を組み込むことで、点検コストを抑えつつ、事故を未然に防ぐことができます。これは、社会全体の安全保障に直結する重要な側面です。
医療分野では、体内に埋め込む医療機器の小型化と長寿命化に貢献します。ペースメーカーや血糖値モニターなど、体温や心臓の拍動、血液の流れなどから電力を得ることで、電池交換のための再手術のリスクを低減し、患者の負担を軽減します。これにより、患者のQOL(生活の質)が向上し、より安心安全な医療サービスの提供が可能になります。
環境問題への貢献も非常に大きいです。再生可能エネルギーの利用促進に加えて、これまで無駄に捨てられていたエネルギー源を有効活用することで、化石燃料への依存を減らし、二酸化炭素排出量の削減に貢献します。これは、地球温暖化対策において極めて重要な役割を果たすものであり、持続可能な社会の実現に向けた大きな一歩となります。
開発途上国における電力アクセスの課題解決にも寄与します。電力が十分に供給されていない地域では、エネルギーハーベスティング技術を活用した小型の独立電源が、照明、通信、医療機器などの利用を可能にし、人々の生活水準の向上に貢献します。これは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献する、グローバルな視点での意義を持つものです。
6. まとめ
エネルギーハーベスティングは、IoTデバイスの爆発的な普及を背景に、電池交換の制約から解放された真の自律型・メンテナンスフリーシステムの実現を加速させる鍵となる技術です。太陽光、熱、振動、電波といった、これまで見過ごされてきたエネルギーを賢く利用することで、私たちの生活をより便利で快適にし、産業活動を効率化するだけでなく、地球環境への負荷低減にも大きく貢献します。
しかし、そのポテンシャルを最大限に引き出すためには、変換効率の向上、低コスト化、耐久性の確保といった技術的課題の克服に加え、ライフサイクル全体での環境影響評価や標準化といった社会システム側の整備も不可欠です。これらの課題解決に向けた産学官連携による研究開発や実証実験が、国内外で活発に進められています。 エネルギーハーベスティングは、単なる発電技術の一つではなく、私たちのエネルギーに対する考え方そのものを変革し、より分散型で、環境と調和した、レジリエントなエネルギー社会を構築するための重要なピースと言えるでしょう。この「小さなエネルギー革命」が、私たちの未来をどのように豊かにしていくのか、引き続き注目していく必要があります。