現代社会は多様性に富んでおり、さまざまな背景や能力を持つ人々が共存しています。このような社会において、製品のデザイン※は単なる機能性や美しさを超え、すべて(できるだけ多く)の人が平等かつ円滑に利用できる「アクセシビリティ」が求められています。そこで近年注目されているのが「インクルーシブデザイン」という考え方です。インクルーシブデザインは、すべての人々がアクセスできる製品やサービスを創出するためのアプローチのひとつです。同じような目的を持つ考え方にユニバーサルデザインがありますが、インクルーシブデザインはそれとはアプローチや対象が異なります。
今回は、インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違いを明確にし、それぞれの特徴や実践方法、さらには今後に向けた展開について詳しく解説します。これにより読者が両者の理解を深め、実生活やビジネスにおいてどのように活用できるかを考える手助けとなることを目指します。
※ 本稿では製品の「デザイン」という言葉を、一般的な日本語で用いられる外観や色彩などの「意匠」の意味だけではなく、製品の機能に関わる「設計」や、それらの製品の使用環境まで包括した概念と捉えて解説します。
1. アクセシビリティとは
アクセシビリティとは、高齢者や障がい者を含む誰もが平等に製品、サービス、情報などを利用しやすい状態、もしくはその度合のことです。近づきやすさや利用しやすさを意味する英語の「Accessibility」に由来します。身体状態や能力差によって特定の誰かが利用しにくい場合は、アクセシビリティが実現していないことになります。
アクセシビリティに近い概念として「ユーザビリティ」という言葉があります。ユーザビリティが特定の状況や特定のユーザーにおける利用しやすさを指すのに対して、アクセシビリティはより幅広い状況や多様なユーザーにおける利用しやすさを指す概念です。
近年、高齢者や障がい者をはじめ、多様な立場や特性を持つ人々が平等に社会に参加し活躍できる「共生社会」の実現に向けた動きが加速しています。アクセシビリティは、共生社会の達成度合を示すひとつの指標であると言えます。
2. インクルーシブデザインとは
インクルーシブデザインとはアクセシビリティを達成するための考え方および方法のひとつで、多様な人々、特にこれまでデザインのプロセスから排除されてきた(excluded)人々の経験や視点に着目して積極的に取り込み、その人々と共に創る(共創する)ことで、結果としてより多くの人々にとって価値があり、使いやすい製品やサービスを目指すデザインアプローチです。年齢、性別、能力、文化的背景などの多様性を前提とし、特定の人々のニーズから学ぶことを重視します。基本的な考え方は「多様性から学び、デザインに活かすこと」と言えるでしょう。
この概念は、1990年代に始まりました。特に、障害者の権利が強調される中で、デザインの重要性...




