現代社会は多様性に富んでおり、さまざまな背景や能力を持つ人々が共存しています。このような社会において、製品のデザイン※は単なる機能性や美しさを超え、すべて(できるだけ多く)の人が平等かつ円滑に利用できる「アクセシビリティ」が求められています。そこで近年注目されているのが「インクルーシブデザイン」という考え方です。インクルーシブデザインは、すべての人々がアクセスできる製品やサービスを創出するためのアプローチです。一方で、ユニバーサルデザインも同様の目的を持っていますが、アプローチや対象が異なります。今回は、インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違いを明確にし、それぞれの特徴や実践方法について詳しく解説します。これにより読者が両者の理解を深め、実生活やビジネスにおいてどのように活用できるかを考える手助けとなることを目指します。
※ 本稿では製品の「デザイン」という言葉を、一般的な日本語で用いられる外観や色彩などの「意匠」の意味だけではなく、製品の機能に関わる「設計」や、それらの製品の使用環境まで包括した概念と捉えて解説します。
1. インクルーシブデザインとは
インクルーシブデザインとは、多様な人々、特にこれまでデザインのプロセスから排除されてきた(excluded)人々の経験や視点を積極的に取り込み、共に創る(共創する)ことで、結果としてより多くの人々にとって価値があり、使いやすい製品やサービスを目指すデザインアプローチです。年齢、性別、能力、文化的背景などの多様性を前提とし、特定の人々のニーズから学ぶことを重視します。基本的な考え方は「多様性から学び、デザインに活かすこと」と言えるでしょう。
この概念は、1990年代に始まりました。特に、障害者の権利が強調される中で、デザインの重要性が認識されるようになりました。例えばAppleのVoiceOver機能は、視覚障害者がiPhoneを利用できるようにするためのインクルーシブデザインの一例です。この機能により音声で画面の内容を読み上げることができ、視覚に障害のある人々もスマートフォンを使いやすくなっています。また神奈川県鎌倉市の公園に設けられた「インクルーシブ広場」の例では、利用者や住民の声をもとに、車いすやベビーカーに乗ったまま利用できる砂場や視覚障害者がさわって楽しむ遊具を設けるなどの工夫がなされています。
2. ユニバーサルデザインとは
ユニバーサルデザインは、年齢や能力、状況に関わらず、できるだけ多くの人々が利用できる製品や環境をデザインするという考え方です。高齢者や障害者をは...