コンフィギュレーション・マネジメントの概要と実践(その2)

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 前回は、コンフィギュレーション・マネジメントの概要やプロジェクトマネジメントの中での位置づけについてお話しましたが、今回はその実践などについて解説致します。

 

3.コンフィギュレーション・マネジメントの実践

   3.1 コンフィギュレーション・コントロールと変更管理

 プロジェクト活動には目標そのものを実現していくプロセス(成果物創出)と、目標に向けてどう進めていくかをコントロールしていくプロセス(マネジメント)がありますが、コンフィギュレーション・マネジメント(構成管理)は、いずれのプロセスにおいても適用され、その成果物と仕様(構成、特性、実現手順、仕組み、ルールなど)の管理に主眼がおかれるコンフィギュレーション・コントロールと、プロジェクト活動の中で出てくる各種変更要求に直接対応する管理行動である変更管理を実行することになります。

 コンフィギュレーション・コントロールは、まずは管理する項目を特定し、その項目について現状把握(ステータスの記録と報告)してベースラインを確定し、各項目が確定した通りになっていることを適宜検証し監査します。変更管理はプロジェクトの文書と成果物、または管理項目のベースラインの変更を特定し、それを文書化し、評価・承認することに主眼がおかれます。つまり、変更したこと、されたことをきちんと管理していくことで、後日客観的にその変更を追跡できるようにしておくことが要求されます。変更管理のツールを活用するのであれば、このような活動がサポートされる必要があります。

 コンフィギュレーション・マネジメントの活動は、そもそも日常管理の一つとして、組織としての必須の管理活動でもあります。そこでは、変更管理を含めてコンフィギュレーション・コントロールと捉えているところもあり、この二つははっきりと分けられるものではありません。

 

   3.2 コンフィギュレーション・マネジメント計画書

 この計画書は、一言でいうとプロジェクトの中で作成した様々な文書・資料を変更する際のバージョン管理の方法をまとめた文書のことで、統合変更管理のプロセスで使用されるものです。プロジェクト活動の流れの中では計画の立案のところで、プロジェクトマネジメント計画書の一部として策定されます。

 統合変更管理とは、プロジェクトの中で生じた変更要求に対し、それが適切かどうかを判断し、実施の可否を判断し、変更した場合はその内容を共有するプロセスですが、この中で、判断の基準となるのがこのコンフィギュレーション・マネジメント計画書です。構成管理の対象となる仕様や成果物についての記述、担当するスタッフ、管理手順やツールなどを記載しておく必要があります。また、外注先やベンダーなど利害関係にある調達先に対して要求するコンフィギュレーション・マネジメントの要件も盛り込むことが肝要で、その対象と正式な変更管理を必要とする項目、変更を管理するためのプロセスの指定、納入者側での実施を要求するコンフィギュレーション・マネジメントの形式等を記述しておく必要があります。変更マネジメント計画書を別に作成する場合は、どこまでどのように変更を管理していくかという方向性と変更管理委員会(CCB)の役割と責任をここで定義することになります。

 

 3.3 コンフィギュレーション・マネジメント・システム

 コンフィギュレーション・コントロールと変更管理を適切に行うために変更管理ツールを利用するのは効果的です。コンフィギュレーション・マネジメント・システムは変更管理機能を備え、変更管理プロセスを内蔵しているので、承認済みの管理項目のベースラインを管理するための仕組みが提供されます。これを適用することで、個別の変更の影響を検討し、プロジェクト全体への整合性確認と改善を継続的に実施する機会が提供されます。コンフィギュレーション・マネジメントは、物づくりの世界では日常の管理活動の仕組みとして組織として整備されていることも多いので、そのようなシステムをプロジェクトでも活用することが有効です。プロジェクトの規模、内容にもよりますが、このような枠組みが周りに存在しない場合は、専用の組織や配置、ルールなどをつくり、システム化することも考える必要があります。

 

4.物づくりの世界(航空機産業など)におけるコンフィギュレーション・マネジメント

 もともと、コンフィキュレーション・マネジメント(構成管理)は、物質的な材料についての技術的管理技法として第二次世界大戦時に米空軍の航空機の製造・運用で開発され、その後、中長期にわたって使用される民生用機器の分野でも運用が広がり、一般の工業規格を取り込んでANSI-EIA-649 "National Consensus Standard for Configuration Management"として国際標準になったものです。日本でも1982年に防衛庁(当時)が米軍のMIL規格を母体に、品質管理関係の共通仕様書DSP Z 9000シリーズを制定し、その中で、コンフィギュレーション・マネジメントは形態管理として要求されています。これはその後国際的動向も踏まえ、ISO 9000シリーズの翻訳規格であるJIS Q 9001への移行に伴い、防衛装備品に関してJIS Q 9100「品質マネジメントシステム−航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」の採用に至り、その中で形態管理として要求されています。

 JIS Q 9100:2016では、製品実現のための組織的活動の要求事項の一つとして「形態管理(コンフィギュレーションマネジメント)」が要求されています。これは、製品の構成を文書化するもので、製品ライフサイクルの全段階で、考慮対象の個別認識および履歴の追跡,その物理的及び機能的要求事項の達成状況並びに正確な情報へのアクセスをもたらすための要求事項であり、その程度は、組織の規模並びに、製品の複雑さ及び性質に基づいて実施されます。これらは、この分野では開発期間が長く、...

 前回は、コンフィギュレーション・マネジメントの概要やプロジェクトマネジメントの中での位置づけについてお話しましたが、今回はその実践などについて解説致します。

 

3.コンフィギュレーション・マネジメントの実践

   3.1 コンフィギュレーション・コントロールと変更管理

 プロジェクト活動には目標そのものを実現していくプロセス(成果物創出)と、目標に向けてどう進めていくかをコントロールしていくプロセス(マネジメント)がありますが、コンフィギュレーション・マネジメント(構成管理)は、いずれのプロセスにおいても適用され、その成果物と仕様(構成、特性、実現手順、仕組み、ルールなど)の管理に主眼がおかれるコンフィギュレーション・コントロールと、プロジェクト活動の中で出てくる各種変更要求に直接対応する管理行動である変更管理を実行することになります。

 コンフィギュレーション・コントロールは、まずは管理する項目を特定し、その項目について現状把握(ステータスの記録と報告)してベースラインを確定し、各項目が確定した通りになっていることを適宜検証し監査します。変更管理はプロジェクトの文書と成果物、または管理項目のベースラインの変更を特定し、それを文書化し、評価・承認することに主眼がおかれます。つまり、変更したこと、されたことをきちんと管理していくことで、後日客観的にその変更を追跡できるようにしておくことが要求されます。変更管理のツールを活用するのであれば、このような活動がサポートされる必要があります。

 コンフィギュレーション・マネジメントの活動は、そもそも日常管理の一つとして、組織としての必須の管理活動でもあります。そこでは、変更管理を含めてコンフィギュレーション・コントロールと捉えているところもあり、この二つははっきりと分けられるものではありません。

 

   3.2 コンフィギュレーション・マネジメント計画書

 この計画書は、一言でいうとプロジェクトの中で作成した様々な文書・資料を変更する際のバージョン管理の方法をまとめた文書のことで、統合変更管理のプロセスで使用されるものです。プロジェクト活動の流れの中では計画の立案のところで、プロジェクトマネジメント計画書の一部として策定されます。

 統合変更管理とは、プロジェクトの中で生じた変更要求に対し、それが適切かどうかを判断し、実施の可否を判断し、変更した場合はその内容を共有するプロセスですが、この中で、判断の基準となるのがこのコンフィギュレーション・マネジメント計画書です。構成管理の対象となる仕様や成果物についての記述、担当するスタッフ、管理手順やツールなどを記載しておく必要があります。また、外注先やベンダーなど利害関係にある調達先に対して要求するコンフィギュレーション・マネジメントの要件も盛り込むことが肝要で、その対象と正式な変更管理を必要とする項目、変更を管理するためのプロセスの指定、納入者側での実施を要求するコンフィギュレーション・マネジメントの形式等を記述しておく必要があります。変更マネジメント計画書を別に作成する場合は、どこまでどのように変更を管理していくかという方向性と変更管理委員会(CCB)の役割と責任をここで定義することになります。

 

 3.3 コンフィギュレーション・マネジメント・システム

 コンフィギュレーション・コントロールと変更管理を適切に行うために変更管理ツールを利用するのは効果的です。コンフィギュレーション・マネジメント・システムは変更管理機能を備え、変更管理プロセスを内蔵しているので、承認済みの管理項目のベースラインを管理するための仕組みが提供されます。これを適用することで、個別の変更の影響を検討し、プロジェクト全体への整合性確認と改善を継続的に実施する機会が提供されます。コンフィギュレーション・マネジメントは、物づくりの世界では日常の管理活動の仕組みとして組織として整備されていることも多いので、そのようなシステムをプロジェクトでも活用することが有効です。プロジェクトの規模、内容にもよりますが、このような枠組みが周りに存在しない場合は、専用の組織や配置、ルールなどをつくり、システム化することも考える必要があります。

 

4.物づくりの世界(航空機産業など)におけるコンフィギュレーション・マネジメント

 もともと、コンフィキュレーション・マネジメント(構成管理)は、物質的な材料についての技術的管理技法として第二次世界大戦時に米空軍の航空機の製造・運用で開発され、その後、中長期にわたって使用される民生用機器の分野でも運用が広がり、一般の工業規格を取り込んでANSI-EIA-649 "National Consensus Standard for Configuration Management"として国際標準になったものです。日本でも1982年に防衛庁(当時)が米軍のMIL規格を母体に、品質管理関係の共通仕様書DSP Z 9000シリーズを制定し、その中で、コンフィギュレーション・マネジメントは形態管理として要求されています。これはその後国際的動向も踏まえ、ISO 9000シリーズの翻訳規格であるJIS Q 9001への移行に伴い、防衛装備品に関してJIS Q 9100「品質マネジメントシステム−航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」の採用に至り、その中で形態管理として要求されています。

 JIS Q 9100:2016では、製品実現のための組織的活動の要求事項の一つとして「形態管理(コンフィギュレーションマネジメント)」が要求されています。これは、製品の構成を文書化するもので、製品ライフサイクルの全段階で、考慮対象の個別認識および履歴の追跡,その物理的及び機能的要求事項の達成状況並びに正確な情報へのアクセスをもたらすための要求事項であり、その程度は、組織の規模並びに、製品の複雑さ及び性質に基づいて実施されます。これらは、この分野では開発期間が長く、その間の製品形態の管理が重要で、量産になってからも小さい部品まで製品の変更管理を厳しく行うことが求められているからです。さらに、長期間の使用(製品寿命20~30年以上)と、その保守・整備性も強く求められることからくる要求です。当然ながら、考慮の対象となる製品およびサービスに対して、変更の実施を含む個別認識、要求事項の実現過程が追跡できる管理、および文書化した情報が実際の属性に整合していることを担保することを含んでいます。なお、コンフィキュレーション・マネジメントと関連の深いISO標準にISO 10007「品質マネジメントシステム-構成管理の指針」がありますが、JIS 9000シリーズにはこの内容が取り込まれていると考えて良いでしょう。

 以上、コンフィギュレーション・マネジメントについて、その意味、位置づけ、発生の経緯について整理してきました。皆様のご理解の一助となれば幸いです。

 

参考文献

・鈴木安而:「図解入門よくわかる最新PMBOK第6版の基本」、秀和システム、2018年
・榎本徹:「ISO 21500 から読み解くプロジェクトマネジメント」、オーム社、2018年
・プロマペディア:「コンフィギュレーション・マネジメント計画書の作り方と効果的な使い方」
・防衛省仕様書 DSP Z 9008B「品質管理等共通仕様書」改正 平成29.7.11

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この記事の著者

小石 尚文

新規事業企画、新商品企画、生産性向上活動、業務改善活動等プロジェクト活動のお手伝いをさせて下さい。目的に向かって進んでいくように、一緒になって進めていきます。

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