リスクマネジメントにおけるリスクファイナンス(その1)

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1.プロジェクトマネジメントにおけるリスクファイナンス

 プロジェクトマネジメントでは、リスクとは、プロジェクトの目的に影響を与える不確実な事象と定義され、予定している結果と実際の結果において利益や損失をもたらす潜在的差異のことを指します。大きな損失をもたらすリスクを抱えたまま、プロジェクトを遂行することは、プロジェクト失敗の主要な原因になるので、プロジェクトマネジメントのリスクマネジメントでは、損失をもたらすリスクを受容可能な目標リスク制御水準以下に制御することを検討します。そのリスク事象に対応策を取るかどうかは、事前に目標リスク制御水準(どの程度の影響度を持つリスクに対応するか)を設定しておく必要があります。算定したリスクの大きさが水準より低いために対応しないこととしたリスク(残余リスク)については、そのリスクの大きさが変化していないかを定期的に監視し、もし目標リスク水準に達した場合には、その時点でリスク対応策を講じる必要があります。このようなプロジェクト・リスクマネジメントの中で、「リスク対応策の策定」における損失をもたらすリスクに対するリスク処理の一つがリスクファイナンスです。 

 「リスク対応策の策定」では、プロジェクトマネジメントの「計画の立案」過程でのプロセスの一つですが「リスクの定量化」のプロセスの中で対応策が必要であると決定されたリスク事象に対して、利益の期待値を最大に、損失の可能性を最小にするための対応策を策定します。損失をもたらすリスクについては、対応すべきと識別された脅威(損失を招くリスクの原因となるもの)への対応策を策定し、リスクマネジメント計画書、コンティンジェンシ計画書などを作成します。 

 損失リスクの検討では、脅威の大きさ以外に、脅威を増幅する誘因となる対象事象の管理の状態、環境、体制など、プロジェクトの弱点を意味する脆弱(ぜいじゃく)性も識別する必要があります。この損失リスクの大きさに影響を与えている脅威や脆弱性の性質に着目し、それに応じて対応策を策定します。対応策は、損失の低減や回避を目指すリスクコントロールと、損害などに対して資金的に備えるリスクファイナンスに大別されますが、一般的な目安としては、現実化する発生頻度が高いリスクへの対応策としてはリスク予防策を策定し、影響度(一度現実化したときの損失)が甚大なリスクに対しては、リスク回避やリスク移転などの対応策を検討します。また、発生頻度も影響度も高い場合は、リスクコントロールとリスクファイナンスの両方を検討し、目標水準まで損失リスクを抑制する必要があります。

2.リスクファイナンスの処理内容

 リスクファイナンスは「万が一リスクが現実化してしまったときの損失や、リスクコントロールで対処できないリスクの損失に備える資金的対策」のことです。処理の方法として、リスク移転とリスク保有があります。 

 ①リスク移転

 保険会社などの第三者へ費用を支払うことで、特定のリスクの財政的損失負担を移転することをいいます。特にリスクの発生頻度が極めて低く、予防策を講じるには費用がかかり過ぎる場合、保険によるリスク対策が有効となります。ただ、リスクファイナンスで対応できるのはあくまで資金面だけであり、社会的に信用を失い、長期にわたって営業損失を被(こうむ)るというような間接的損失リスクは残...

 

1.プロジェクトマネジメントにおけるリスクファイナンス

 プロジェクトマネジメントでは、リスクとは、プロジェクトの目的に影響を与える不確実な事象と定義され、予定している結果と実際の結果において利益や損失をもたらす潜在的差異のことを指します。大きな損失をもたらすリスクを抱えたまま、プロジェクトを遂行することは、プロジェクト失敗の主要な原因になるので、プロジェクトマネジメントのリスクマネジメントでは、損失をもたらすリスクを受容可能な目標リスク制御水準以下に制御することを検討します。そのリスク事象に対応策を取るかどうかは、事前に目標リスク制御水準(どの程度の影響度を持つリスクに対応するか)を設定しておく必要があります。算定したリスクの大きさが水準より低いために対応しないこととしたリスク(残余リスク)については、そのリスクの大きさが変化していないかを定期的に監視し、もし目標リスク水準に達した場合には、その時点でリスク対応策を講じる必要があります。このようなプロジェクト・リスクマネジメントの中で、「リスク対応策の策定」における損失をもたらすリスクに対するリスク処理の一つがリスクファイナンスです。 

 「リスク対応策の策定」では、プロジェクトマネジメントの「計画の立案」過程でのプロセスの一つですが「リスクの定量化」のプロセスの中で対応策が必要であると決定されたリスク事象に対して、利益の期待値を最大に、損失の可能性を最小にするための対応策を策定します。損失をもたらすリスクについては、対応すべきと識別された脅威(損失を招くリスクの原因となるもの)への対応策を策定し、リスクマネジメント計画書、コンティンジェンシ計画書などを作成します。 

 損失リスクの検討では、脅威の大きさ以外に、脅威を増幅する誘因となる対象事象の管理の状態、環境、体制など、プロジェクトの弱点を意味する脆弱(ぜいじゃく)性も識別する必要があります。この損失リスクの大きさに影響を与えている脅威や脆弱性の性質に着目し、それに応じて対応策を策定します。対応策は、損失の低減や回避を目指すリスクコントロールと、損害などに対して資金的に備えるリスクファイナンスに大別されますが、一般的な目安としては、現実化する発生頻度が高いリスクへの対応策としてはリスク予防策を策定し、影響度(一度現実化したときの損失)が甚大なリスクに対しては、リスク回避やリスク移転などの対応策を検討します。また、発生頻度も影響度も高い場合は、リスクコントロールとリスクファイナンスの両方を検討し、目標水準まで損失リスクを抑制する必要があります。

2.リスクファイナンスの処理内容

 リスクファイナンスは「万が一リスクが現実化してしまったときの損失や、リスクコントロールで対処できないリスクの損失に備える資金的対策」のことです。処理の方法として、リスク移転とリスク保有があります。 

 ①リスク移転

 保険会社などの第三者へ費用を支払うことで、特定のリスクの財政的損失負担を移転することをいいます。特にリスクの発生頻度が極めて低く、予防策を講じるには費用がかかり過ぎる場合、保険によるリスク対策が有効となります。ただ、リスクファイナンスで対応できるのはあくまで資金面だけであり、社会的に信用を失い、長期にわたって営業損失を被(こうむ)るというような間接的損失リスクは残ることを認識しておく必要があります。

 保険の事例としては、法人向けの保険として、企業財産の保険、賠償責任の保険(生産物賠償責任、サイバーリスク等々)、工事・運送の保険、天候デリバティブなど色々なリスクへの対応商品があります。

 ②リスク保有

 自らの財務力に応じて損失リスクを財務上自己負担する資金的対応方法のことをいい、リスクを認識したうえで保有することになります。一般に、目標とするリスク受容水準より小さいリスクや、リスク移転により第三者に転嫁しきれないリスクは保有することになります。各種見積の中にリスクを見越した予備費を確保しておくことや、自家保険として対応資金を積み立てておくことなどがこれにあたります。

 

 次回は「企業におけるリスクファイナンス」について解説致します。

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この記事の著者

小石 尚文

新規事業企画、新商品企画、生産性向上活動、業務改善活動等プロジェクト活動のお手伝いをさせて下さい。目的に向かって進んでいくように、一緒になって進めていきます。

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