外部の刺激を利用する 現場改善:発想の転換(その8)

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として、現場改善:発想の転換をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第8回目となります。

 

◆ ちょっとしたきっかけ、異業種交流の勧め

1. 見えているが見えないのは刺激がないから

 正面を見ている時に、自分の鼻先はまったく気づきません。でも意識して目を寄り目のようにして見て、ご自分の鼻を意識してみてください。ボーっとして鼻先が見えるようになりますね。

 不要なものは脳が意識に乗せないようにしているから、見えないようになっているそうです。実はメガネのふちも視界には入っていますが、ものを見るときにはまったく気にならないのと同じことです。

 今朝の奥様の服装はどうでしたか?そしてご自分の職場はどこに何がどれくらい置いてあり、表示はどうなっていますか?あなたは答えることができますか?身近なものほど見えなくなるものです。それは安心してしまうからだと思います。慣れとは本当に恐ろしいことです。

 毎日仕事をしている職場は、そんなに環境が変化するものではありません。仕掛けや在庫は多くなったり少なくなったりすることはありますがが、線引きを変えたり、レイアウトを変えてみたり、新しい設備を導入したりすることは普段あまりありません。そうなってくると脳も変化を感じなくなってくるようです。これが「見えているのに、見えなくなる現象」になっていきます。

 また毎日見ているものも、意識が薄れることで見えなくなります。逆に不安定な状態にすれば、意識が呼び起こされ「なんとかしなくっちゃ!」と考えたくなりますね。

 木を揺すってみて葉っぱが落ちてくるのは、不安定だった葉っぱが耐え切れなくなったためです。残った葉っぱはシャキッとするはずです。自分の職場が見えなくなるのは人の常です。その職場で何年も同じ仕事をしていると、自分に必要なものしか見えなくなり、問題も問題として認識しなくなります。麻痺(まひ)状態といえば語弊がありますが、刺激がなくなるというのはそんなものです。

 それが見えるようになるには刺激が必要です。現状に対して良い事例があればその差が見えてきます。さらにあるべき姿があれば、現状の職場と比較することでもっと見えてくるものです。他社との比較ができれば写真よりもっと実感が湧いてきます。

 このように定性的なことに加えて、どれくらいの頻度か、どれくらいの回数かなど定量的なことも意識していけば、さらに脳に刻み込みやすくなります。気になったことや自分で気づいたことは忘れにくい記憶になります。具体的にさらに言語化したり、表にしたりすることでさらに刺激が得られます。

 

2. 外部を利用して刺激を得る

 その刺激を求める方法として異業種交流があります。同業社では相手の工場のノウハウを盗むといった罪悪感があり、なかなか実現しにくいものです。でも異業種であれば、まったく違う製品を作っているため、その心配は少ないので交流がわりと簡単にできるものです。

 筆者がコンサルティングしている企業のほとんどが、この考えに同調してくれています。毎回といっていいほど、どこかの企業から数人が参加してくれます。それぞれの改善チームに入ってワークショップという形で実際に現場観察、問題点の発見と共有化、そして改善案の立案、そして改善実施と評価まで行ないます。

 その間にべったりと現場に張り付いて、喧々諤々(けんけんがくかく)のやり取りをしていきます。内部の人と違って、知らないことを堂々と尋ねることができます。それが大きなヒントになり、多くの気づきをもらうことができます。企業によって風土が違うように、ものの見方の違う人たちがチームに入ることで、一気に雰囲気が変わってきますので本当に面白い現象です。その効果はきちんと結果に出てきますが、昔あった剣道の他流試合のようなものです。

 参加したメンバーの意識が変わると、今まで改善できていなかったものがすぐに改善できてしまうのです。これは小さな刺激ですが、その効果は実は大きいものです。

 

 薬も一緒で、一錠の中に含まれる成分は本当にわずかなものですが、ちょっとのことで効くのです。女性の体から一生かけて分泌される女性ホルモン(実は男性も女性ホルモンが分泌されています)の量は、なんとたったのスプーン一杯ほどだそうです。若い頃に女性DJが書いた「スプーン一杯の幸せ」という本があったことを思い出します。これだけの量で人間の一生が決まってしまうほど、わずかですが重要なものなのです。

 この異業種交流のきっかけは波紋のように広がります。刺激が刺激を与えるようなもので、一度そのヒントに気づくと改善はすぐに実施展開されますので、職場が一目で変わっていきます。定期的に相互に訪問し合い、またメンバーも換えることでさらに活性化してきます。

 この活動をクラスター活動と呼んでいます。これをきっかけにご自分の企業内でも異部門の交流をお勧めします。社内でも話を交わすことのない人たちが多くいるはずです。同じ方向に向かい合うきっかけを作って欲しいものです。

 逆にまったく知らないから参加してもらい、素直な質問を出せる雰囲気を作ってあげれば、異業種交流と同じことができるようになります。氷が生成されるのは水の中に不純物があればできやすいものです。凍りかけた水の入ったコップをコツンとたたくと一瞬に凍る現象もちょっとしたきっかけです。これは手品のネタですね。

 

3. 手は第二の脳であり、もっと使って意識を高める

 気づきから得た改善案は、できるだけ早く実行して形にしましょう。

 アイデアだけではいつま...

でも経ってもアイデアのままの状態が多くなり、今までのように元の木阿弥(もくあみ)になってしまうのです。ここが踏ん張りどころです。小さな改善案を確実に実行して、形にしてみると目の前が一気に広がってきます。小さな改善には費用も掛かりませんし、労力もそれほど掛かりませんので素早く実施できるのです。

 

 ブレーキになっているのは、やりたくない、やってもムダといった心のサイドブレーキです。

 このブレーキは意外にも簡単に外すことができます。そのきっかけとして、できるものはすぐにやってしまうことなのです。1人でできなければ周囲の人を巻き込んだり、チームでやったりしていきます。

 このチームを組むことが非常に大切です。色々な人がいるので「さあやってみるか!」と声を掛ける人がいることで改善の手が伸びていきます。これでしめたものです。改善の手は案外恥ずかしがり屋だったのです。でも一度改善の手を付けてみると、次から次に手は動き始めます。手が動き始めると、脳は活性化して意識を高めて次の問題に関心を持つようになり、改善のサイクルを回し始めます。

 次回は、現場改善:「発想の転換(その9)営業がつくり、製造が売る 」から解説を続けます。

◆関連解説『生産マネジメントとは』

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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