ライフサイクルアセスメント(LCA)を通して美しい地球を次世代へ!

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1.CSR~企業活動における“社会的責任”

 むかし、水と空気は無限でした。高い煙突からの黒い煙も海や川に捨てる廃棄物も、それらはある意味富と繁栄の証でした。しかし豊かさと共に人口も増え、更なる豊かさを求めて消費も産業も拡大し今や限界に近づいています。1972年に発表されたローマクラブの資源が枯渇するとの提言 (成長の限界)は衝撃的でした。確かに周りを見渡せば公害が人々の生活を圧迫するようになっていました。それ以降産業界政界共に環境問題の重要性が叫ばれ、いかに環境に配慮した活動をしているかが社会貢献(CSR:Corporate Social Responsibility)の一環として企業評価の指標となって来ました。

 2001年には循環型社会形成推進基本法が施行され、生産者が使用後の環境負荷の低減(適正なリサイクルや廃棄物処理)についても責任を負う事が明記されました。生産工程そのもののみならず、製品の原料調達から廃棄まで製品のライフサイクル全体で、環境に与えるマイナスの影響(環境負荷)を評価し、低減する動きが出てきています。

 本稿ではこのライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)とその手順について概説したいと思います。尚、LCAの手法についてはISO14040~43に規定されています。

2.LCAの概要と手法

 LCAとは「製品システムのライフサイクルの全体を通したインプット・アウトプット及び潜在的な環境影響のまとめ、並びに評価。」と定義されています(ISO14040:2006 3.2) 即ち、図1に示すように、ある製品(サービス)の例えば鉄鉱石や石炭・石油などの原材料の採掘から運搬や保管、生産や製品の使用、そして廃棄するまでの全生涯において生じたすべての環境負荷を、例えばすべてCO2に換算する事で定量的に評価する手法です。LCAの結果を機能の同じ他の製品と比較する事で環境負荷低減の為のデータを得る事が出来ます。

図1.製品のライフサイクル

 LCAの手順は図2に示すように、大きく4つのステップで構成されています。

(1) 目的及び調査範囲の設定:先ず、調査の用途や理由、結果の伝達先などを設定します。また調査範囲には事前に人為的な変化を加えずに環境から取り込まれた物やエネルギーが対象の製品システムを通して加工・消費され、人為的な変化を加えず環境へリリースする過程全体と、製造など個々の過程(プロセス)を含みます。

図2. LCAの枠組み

(2) インベントリ分析(LCI: Life Cycle Inventory) :(1) で設定した調査範囲の各段階において原材料や製品、廃棄物などの環境負荷を定量的に把握します。この分析において、製品のライフサイクルのどの段階で何がどれくらい消費され、環境負荷は幾らかが明確になり、改善点も見えてきます。例えば製鉄であれば原料としての鉄鉱石や石炭の量、使用する電力、発生する粉塵やCO2の量などを明確にします。これをライフサイクル全体にわたって実施し、インベントリデータを作成します。

(3) 影響評価:インベントリ分析を基に、環境に影響を及ぼす各項目がどの環境カテゴリに対してどのような影響を及ぼすのかを以下の手順で定量的に評価します。(図3.参照)

図3. 環境影響評価の手順  出典(社)産業環境組合「製品LCA実践手引書」

  1.  分類化:インベントリ分析結果の各項目がどの環境カテゴリに影響するのかを関連付けます。
  2.  特性化:各環境カテゴリに対して各々のインベントリ項目がどの程度影響を与えるのかを定量化します。影響の度合いは、地球温暖化計数(GWP)をもとに共通の単位(CO2換算重量など)に換算します。
  3. 正規化:特性化で得られた環境カテゴリごとの環境影響指標を同じカテゴリ内、例えば日本国内における温室効果ガス排出量などと比較します。これにより比較評価が可能となります。
  4. 統合化:種々の環境カテゴリにおける環境影響指標をまとめ統合評価を行います。ここでは異なる環境カテゴリに対して重み付けを行い、統合化指標を算出します。算出の方法には費用換算法やパネル法など様々な方法があります。

(4) 解釈:以下の手順で結論と提言を纏めます。  

  1. インベントリ分析や影響評価から、寄与度の高い重要なライフサイクルやプロセスの特定。
  2. これまでの評価結果や使用したデータの点検を行って結果の確実性...


1.CSR~企業活動における“社会的責任”

 むかし、水と空気は無限でした。高い煙突からの黒い煙も海や川に捨てる廃棄物も、それらはある意味富と繁栄の証でした。しかし豊かさと共に人口も増え、更なる豊かさを求めて消費も産業も拡大し今や限界に近づいています。1972年に発表されたローマクラブの資源が枯渇するとの提言 (成長の限界)は衝撃的でした。確かに周りを見渡せば公害が人々の生活を圧迫するようになっていました。それ以降産業界政界共に環境問題の重要性が叫ばれ、いかに環境に配慮した活動をしているかが社会貢献(CSR:Corporate Social Responsibility)の一環として企業評価の指標となって来ました。

 2001年には循環型社会形成推進基本法が施行され、生産者が使用後の環境負荷の低減(適正なリサイクルや廃棄物処理)についても責任を負う事が明記されました。生産工程そのもののみならず、製品の原料調達から廃棄まで製品のライフサイクル全体で、環境に与えるマイナスの影響(環境負荷)を評価し、低減する動きが出てきています。

 本稿ではこのライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)とその手順について概説したいと思います。尚、LCAの手法についてはISO14040~43に規定されています。

2.LCAの概要と手法

 LCAとは「製品システムのライフサイクルの全体を通したインプット・アウトプット及び潜在的な環境影響のまとめ、並びに評価。」と定義されています(ISO14040:2006 3.2) 即ち、図1に示すように、ある製品(サービス)の例えば鉄鉱石や石炭・石油などの原材料の採掘から運搬や保管、生産や製品の使用、そして廃棄するまでの全生涯において生じたすべての環境負荷を、例えばすべてCO2に換算する事で定量的に評価する手法です。LCAの結果を機能の同じ他の製品と比較する事で環境負荷低減の為のデータを得る事が出来ます。

図1.製品のライフサイクル

 LCAの手順は図2に示すように、大きく4つのステップで構成されています。

(1) 目的及び調査範囲の設定:先ず、調査の用途や理由、結果の伝達先などを設定します。また調査範囲には事前に人為的な変化を加えずに環境から取り込まれた物やエネルギーが対象の製品システムを通して加工・消費され、人為的な変化を加えず環境へリリースする過程全体と、製造など個々の過程(プロセス)を含みます。

図2. LCAの枠組み

(2) インベントリ分析(LCI: Life Cycle Inventory) :(1) で設定した調査範囲の各段階において原材料や製品、廃棄物などの環境負荷を定量的に把握します。この分析において、製品のライフサイクルのどの段階で何がどれくらい消費され、環境負荷は幾らかが明確になり、改善点も見えてきます。例えば製鉄であれば原料としての鉄鉱石や石炭の量、使用する電力、発生する粉塵やCO2の量などを明確にします。これをライフサイクル全体にわたって実施し、インベントリデータを作成します。

(3) 影響評価:インベントリ分析を基に、環境に影響を及ぼす各項目がどの環境カテゴリに対してどのような影響を及ぼすのかを以下の手順で定量的に評価します。(図3.参照)

図3. 環境影響評価の手順  出典(社)産業環境組合「製品LCA実践手引書」

  1.  分類化:インベントリ分析結果の各項目がどの環境カテゴリに影響するのかを関連付けます。
  2.  特性化:各環境カテゴリに対して各々のインベントリ項目がどの程度影響を与えるのかを定量化します。影響の度合いは、地球温暖化計数(GWP)をもとに共通の単位(CO2換算重量など)に換算します。
  3. 正規化:特性化で得られた環境カテゴリごとの環境影響指標を同じカテゴリ内、例えば日本国内における温室効果ガス排出量などと比較します。これにより比較評価が可能となります。
  4. 統合化:種々の環境カテゴリにおける環境影響指標をまとめ統合評価を行います。ここでは異なる環境カテゴリに対して重み付けを行い、統合化指標を算出します。算出の方法には費用換算法やパネル法など様々な方法があります。

(4) 解釈:以下の手順で結論と提言を纏めます。  

  1. インベントリ分析や影響評価から、寄与度の高い重要なライフサイクルやプロセスの特定。
  2. これまでの評価結果や使用したデータの点検を行って結果の確実性と信頼性を評価。
  3. 結論をLCAの依頼者へ報告し、提言を行う。

3.まとめ

 LCAを実施する事により、製品の全生涯における環境負荷を例えばカーボンフットプリントの様にCO2換算重量などで見える化する事で、環境への取り組みを比較、評価することが出来るようになります。LCAの手順は複雑で処理も煩雑ですが、これに対しては膨大なデータベースを持つ専用のソフトウエアもあります。これ等を活用し、環境に優しいモノづくりを推進して“美しい地球を次世代へ”伝えていきたいものです。

参考文献

[1]  JIS Q 14040:2010 環境マネジメント-ライフサイクルアセスメント 日本規格協会
[2] 「ライフサイクルアセスメント(LCA)」 国立環境研究所 環境展望台
        http://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=57

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この記事の著者

熊田 成人

QCDの全てをバランスさせる信念で、千葉県を中心に中小製造業のモノづくり革新をお手伝いしています

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