1. トランス脂肪酸とは
私たちが日頃から食する食用油脂は、基本的に3つの脂肪酸とグリセリン骨格からなる化学構造を有しています。その脂肪酸には、図1のように飽和脂肪酸と呼ばれる二重結合を有しないものと、不飽和脂肪酸と呼ばれる二重結合を有するものに大別されます。
飽和脂肪酸の代表的な脂肪酸としてステアリン酸(炭素数18個と二重結合なし)やパルミチン酸(炭素数16個と二重結合なし)があげられ、不飽和脂肪酸の代表的な脂肪酸としてオレイン酸(炭素数18個と二重結合1つ)、リノール酸(炭素数18個と二重結合2つ)やα-リノレン酸(炭素数18個と二重結合3つ)があげられます。
トランス脂肪酸の対象となるのが「不飽和脂肪酸」で、天然由来の油脂では立体構造がシス型であるのに対し、トランス型である脂肪酸を「トランス脂肪酸」と呼びます。例えば、二重結合部がシス型をとるオレイン酸に対して、その異性体であるトランス脂肪酸はエライジン酸と呼ばれています。
2. なぜトランス脂肪酸はできるのか
トランス脂肪酸はそのほとんどが食用油脂の「部分水素添加」加工により生成します。部分水素添加とは、油脂と水素を反応させ不飽和脂肪酸の持つ二重結合を単結合へと飽和化する加工技術です。常温で液体の植物油や魚油からこの加工技術によって、半固体または固体の油脂へと物性が変化します。この水素添加された油脂はマーガリン、ファットスプレッドやショートニングを製造するのに好適な物性と独特の臭気(水素添加臭)を有するためパン類、菓子類等に多く利用されてきました。
図1. 脂肪酸の種類とそのシス型・トランス型脂肪酸
【出典】農林水産省Websサイト「トランス脂肪酸」(http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_kihon/trans_fat.html)ダウンロード日2019.8.7
3. トランス脂肪酸の健康リスクと摂取量の実態
トランス脂肪酸の過剰摂取により心筋梗塞などの心血管疾患のリスクが高まることが指摘され、世界保健機関(WHO)は2003年、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるという勧告(目標)基準を示しました。
日本人のトランス脂肪酸の摂取量は内閣府食品安全委員会の平成24年3月に公表された食品健康影響評価によりますと平均値で、総エネルギー摂取量の0.3%でした。参考までにアメリカにおけるそれは2.2%であり、日本人の摂取量は比較して少ないことがわかります。これらをも踏まえ、日本人の通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられています。また、トランス脂肪酸の摂取が多い方から上位5%の人についても、0.70%(男性)、0.75%(女性)で、WHOの勧告(目標)基準を下回っています。[1][2]
4. トランス脂肪酸:食品事業者の取り組み
水素添加された油脂は、特にパン類や菓子類の風味や品質に欠かせない原材料でした。それらの特性を維持するとともに、代替の原材料であるパーム系油脂などの活用による、取り過ぎると健康に悪影響を与えるかもしれない別の成分、例えば飽和脂肪酸、コレステロールなどが増えないようにしつつ、トランス脂肪酸を減らす取り組みがされています。[3]
また最近では、マーガリン、ファットスプレッドを中心に「部分水素添加油脂不使用」「トランス脂肪酸の低減」などの表示や、ホームページ上で取り組みを説明している食品事業者や業界団体が見られるようになりました。
5. トランス脂肪酸フリー化
現在でも関心の高いトランス脂肪酸ですが、食品事業者などの研究開発よって、食品中にトランス脂肪酸はほとんど含まれなくなってきたといっても過言ではないと思います。単純にトランス脂肪酸をフリー...