部下を持つ人のための指導者のためのコーチングとは

1. コーチングとの出会い

 日本の草分けの鈴木義幸氏から、筆者が3日間のロールプレイ中心のコーチング研修を受講したとき、リーダーにとってのコミュニケーション技法の必要性を実感しました。通常、研修で3日間集中すれば、疲れ果てます。しかしこの時のコーチング体験は身も心もスッキリし、明日への活力が湧いてきたのです。それ以来、人財開発の研修として強く薦めてきました。筆者がキャリアカウンセラーとなったのも、コーチング体験がきっかけでした。カウンセリングの傾聴力は共通する技法だったからです。チームリーダー、管理職、技術サポートの専門職、コンサルタントなどに非常に有益です。

 

2. コーチングとは

 コーチングは、次のように定義されています。「部下やパートナーや上司などを勇気づけ、質問により気付きを引き出し、自ら考え、学び、行動することで、対象者が本来もっている力や可能性を最大限に発揮させるようサポートするためのコミュニュケーションツール」。その特徴は、未来志向の考え方です。演繹法が、問題解決の手法であるのに対して、コーチングは自分が最も力を発揮できる状態で、あるべき姿を描いて、そこに近づくための方法を考える帰納法的考え方です。対象者との信頼や思いやりが、うまく機能するための前提となります。相手に自分の考えを説明したい場合には「プレゼンテーション」、議論の是非を問いたい場合には「ディベート」、人の気持ちを解き放つには「カウンセリング」となり、これらはコーチングと意味合いが違うものです。

 

3. コーチングのフレームワーク

 コーチングにはいくつかの具体的な技法があります。ここでは、図1のフレームワークについて紹介します。コーチングを実際に体験するには、“承認する”、“聞く”、“質問する”、“提案する”の4つのスキルを学ぶことが必要とされます。コーチングを簡単に言うと、「相手の才能を認めて、いかに引き出すか、そして応援してあげること」です。

 まず、「がんばっているね」のように声をかけ相手に安心感を与えることを“承認する”といいます。次に、「何か気になることはありますか?」と“聞く”。これは相手の言葉の塊(チャンク)をほぐすスキルで“チャンクダウン”と呼ばれています。詰問は厳禁で、何を言っても大丈夫という雰囲気をつくります。“聞く”時に、相手の言葉の語尾を同じにするとか、うなずくとかの安心感を与えるスキルを“ペーシング”といいます。質問には、YesまたはNoで答える“クローズド質問”とWhat、Why、Howのような“オープン質問”があり、コーチングでは本人ですら気付いていない答えを引き出すためのスキルとなります。4つ目のスキルである“提案する”については、「ちょっと提案があるのですけど、聞いていただけますか?」とお願いすることから始まります。提案は押し付けではなく、あくまでも選択権は相手に委ねます。以上がコーチングのスキルの基本です。4つの中で、承認スキルと提案スキルのルールをもう少し詳しく図2にまとめてみました。

 

                                          

 

 

 

   

  

    図1 コーチングのフレームワーク            図2 コーチングのルール 

 

3. コーチングの4つのタイプ

 いくら自分がいいものに気がついても、上司やパートナーやクライアントを納得させられなければ絵に描いた餅です。説得するには、相手のタイプに応じてコミュニケーション方法を変えた方が良いでしょう。そのための4つのタイプとそれに応じた具体的ポイントを図3にまとめてみました。

 具体的に頑固な上司を説得する流れを説明しましょう。「ちょっと提案したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」よろしいでしょうかと問われて嫌だという人はほとんどいないと思います。これは、どのタイプにも使える前置きです。次に提案となります。ここで重要なことは、提案の最終的決定権は相手にゆだねることです。相手のタイプに合わせて、より建設的なコミュニケーションを図ることが有効となります。

 例えば、コントローラータイプの上司ならこうなります。「部長、開発中のテーマAですが、投資効果ROI=250%で、他社と差別化できます。ぜひ続けさせてください。」コントローラータイプは、結果や成果を重視し、まわりくどいのを嫌います。単刀直入がよいのです。ニヤと微笑んで、「もう少し詳細を聞かせてくれ」...

ということになります。また、プロモータータイプの上司なら、「部長なら、もっとよいアイデアが湧くと思います。手伝っていただけますか?」サポータータイプなら、困っていることを前面に出してお願いする。アナライザータイプなら、理由を前面に出して具体的に提案するといった風になります。                     図3 タイプ分けによるコーチングスキル

        

参考文献

1. 鈴木義幸:上司になるためのコーチング、日経BP社

2. 粕谷茂:プロエンジニア(コンピテンシー構築の極意)、株式会社テクノ

◆関連解説『人的資源マネジメントとは』

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