クリーン化活動を通じた人財育成(その2)

 前回のその1に続いて、クリーン化活動を通じた人財育成を解説します。
 

1.職場の問題点と人財育成

 
 ある工場では、クリーンルーム内の清掃はエリアを決め、オペレータが分担して実施していました。オペレータ自身が作業をするエリアです。クリーンルーム内の職制エリアには、レイアウト図が掲示され、そこに清掃担当のオペレータ名が記されています。
 
 オペレータは自分の担当エリアの清掃が終わると、あらかじめ用意された“済み”という磁石を自分の担当エリアに貼り付けます。管理監督者はそのレイアウト図を毎朝確認することで、清掃状況が確認できます。
 
 いつも清掃実施が遅い人、時々はその日一日やらない人などが出てきます。管理監督者は、その時が指導、育成のチャンスと捉えていました。むやみやたらに叱責しないのです。朝から職制に叱られては、その日一日中気分が良くないし、性格的に沈んだ気持ちを長く引きずるような人であれば、作業ミスなどしかねません。かといって管理監督者が見て見ぬふりをする。つまり何も行動しないと、ちょっとくらい手を抜いてもいいんだと思うようになり、段々やらなくなります。
 
 そういう雰囲気が出来上がってしまってから、号令をかけても上手くいきません。オペレータが清掃の手を抜いたり、きちんとやらないということには理由や言い訳があるのかもしれません。そのことを把握せずに叱ってしまっては、上司と部下の関係が悪くなりばす。
 
 そのことを管理監督者は良く考えていました。なぜやらないとか、やるのが遅いのか。あるいはやらないのではなく、やれない理由があるのかも知れません。そこのところをオペレータに良く聞いていました。それが例え言い訳であっても、まず良く聞いてみるということをしていました。こうすることで職場の問題点が見つかるのかもしれません。
 
 「そんなのは言い訳だ!」と言ってしまうとそこで会話は終わってしまいます。オペレータの本音や本当の問題を把握できません。また、どうせ頭ごなしに叱られるだろうという思いが強くなり、段々距離を置くようになってしまいます。そうなるともう情報は出てきません。相互の信頼関係も薄くなります。現場のアンテナを失うということです。
 
 いろいろな悩みがあれば、それを解決できなくても、良く話を聞くことで、オペレータは安心したり、気が楽になる場合もあります。段々情報を出すようになったり、会話が増えたりします。こんなことを地道に続けることで、人が育つだけでなく、職場運営の仕方にも工夫や改善、そのヒントが生まれてきます。職制も現場がまとまってきたとか育ってきたと実感できると言っていました。
 
 色々な企業を訪問すると、「昔から、促しは命令の第一歩と言うけど、最近の若い者は、促しどころではなく、言わなければやらない。言ってもやらない」などと言うぼやきを聞くことがあります。でも促しが効くのは、突然ではなく、このように常日頃からの上司と部下の良い関係が構築出来ていて、その中で、「こんな風にしたらどうだろうか」という促しがヒントになり行動を起こすようになります。
 
 つまり、“聞く耳を持つ”という状態になるということですね。しかも一方的でなく双方向の関係ができるということです。人財育成を意識し、実践することで、人は育ち、その人達が現場を改善し、やがて体質の強い企業の基盤を作り上げていくと思います。人財育成はその時点でも効果はあると思いますが、長い目で時間をかけて育成していくことで、その企業の将来の存続のために貢献してくれるでしょう。
 

2.人財育成の好機とは

 
 こんな風に日頃から意識していると、人財育成の機会は日常に沢山ある...
ということです。ただ、それに気が付くかどうか、そして気が付いてもそのチャンスを生かすかどうかです。後回しにすると、その機会は失われるか、あるいは効果が薄くなります。要するに人財育成はタイミングを逃さないということです。
 
 海外の企業の監査を受けても、教育履歴の提示を要求されるなど仕組みや標準化というところが多く強調されている気がします。そこには、会社対従業員という関係を強く感じます。それも必要なことかもしれませんが、上記のような日本的な心が通う人財育成は、海外にはないような気がします。ここに日本の企業の強さの秘訣があるように感じます。
 
 

◆関連解説『環境マネジメント』

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者