プラント運転の技術伝承と自動化   作業分解事例 (その1)

1.熟練者により異なる作業手順

 
 大手化学メーカーのA社は、従業員1万人の大企業です。過去作業中に死亡事故を起こしたこともあり、その一因が作業手順やノウハウが正確に作業者に伝承されていないことによると考えられていました。またあるプラントの運転でも、最終の到達目標は一緒でも、温度や圧力の上昇・下降などの作業手順が熟練者により違いがあり、若手へ指導する際に熟練者により教えられた内容が異なるなど、職場内で人材育成に混乱をきたしていました。
 
 そこで、『技術伝承の支援』を我々に依頼したいと相談にこられ、作業分解に基づく技術伝承支援を行うことになりました。また単なる技術・技能伝承だけでなく、効率化や自動化などを伝承活動に含め進めないと大きな伝承成果は得られないと提案し、プラント作業の効率化の一環として技術・技能伝承の支援を開始しました。
 

2.作業分解による異なる熟練作業の抽出・標準化  

 
 作業分解による技術・技能伝承は、若手(継承者)と熟練者(伝承者)があわせて10名参加して頂きました。そこでなるべく多くの熟練者の異なる作業内容を抽出するため熟練者と若手を二つのグループに分け、二つのグループで議論してもらい、それぞれ二つの作業分解結果を整理してもらいました。その上で、二つのグループの作業分解結果を参加した全熟練者で議論し、一つの作業分析結果にまとめていきました。まとめる中で作業工程や要素作業を可能な限り標準化し、個々の要素作業での圧力や温度・時間などを具体的な数値で定量化していきました。
 
 作業分解で抽出した作業は同時並行でおこなう作業も複数存在しており、また数分後の温度や圧力の上昇や下降を予想しながら作業をおこなうため、マトリックス形式の作業分解では全体像が分かりづらい状況でした。そこで、整理した作業分解結果を作業フローチャートで表現し、人間の判断が必要な作業と判断が必要でない作業に識別を行うと共に、作業の前後関係やトラブル時の対応などを取り決めていき、作業プロセスの標準化を実現しました。
 

3.再現性の確保と自動化検討  

 
 標準化した作業プロセスでも、プラント運転で再現性がないと標準化とはいえません。そこで整備した作業フローに従い実際にプラントを運転し、不具合点などがあればそれを見直すことを再現性が確保できるまで繰り返しました。この再現性検証の段階でトラブル発生し、プラントが緊急停止しました。しかし、停止したプラントを経験が浅い若手が作業フローチャートをみながら自力で立ち上げることができ、作業分解による技術・技能伝承の有効性が証明された結果となりました。
 
 プラント運転の再現性が担保された段階で、作業プロセスの一部に関して自動化検討を開始しました。まず運転による温度変化を熱交換式で表し、プラント運転による熱交換式の信頼性を高めたうえで、温度調整のシーケンスを作成し実際のプラント運転に適用することで、二人作業を一人作業に削減することができました。
 
 作業分解による技術・技能伝承は、最初の標準化までは約4時間で終了することができまし...
たが、その後の再現性や信頼性確保を1〜2ヶ月毎のプラント運転に合わせて行った結果、全て完了するまでに約1年の期間を要しました。しかしその間、職場内で熟練者と若手のコミュニケーションの機会がとれ「従業員が共に教えあう職場環境」を作ることができ、技術・技能伝承を円滑かつ効率的に進めることができました。
 
  次回は、作業分解事例 (その2) メンテナンス作業へのパート社員活用です。

【作業分解に基づく技術伝承支援 連載目次】

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