地域によって差がある作業者レベル 中国企業の壁(その13)

1. 地域によって差がある作業者レベル

 品質管理を支援していた厦門の中国企業には、天津に分工場がありました。本工場はアルミ製品、天津工場は鉄の加工品の生産と棲み分けをしています。本工場の改善が進んだタイミングで天津工場も品質に問題があるので、改善指導をお願いしたいとの依頼がありました。
 
 天津は、鉄鋼を加工する工場が多くあるので鋼材の販売業者も数多くあり(1000社以上とも言われている)、厦門に比べてそれらの調達環境もよいようです。また、工場は天津市内ではなく郊外にあるので、作業者の給料も厦門よりも安く抑えられるとのことでした。この2つのメリットから厦門ではなく天津に分工場を建てて生産することになったようです。
 
 この中国企業も今まで天津工場に対して何もしてなかった訳ではなく、厦門工場のスタッフが長期出張も含め指導に出向いていました。ところが思うように改善が進まなかったこともあり、わたしに依頼が来たと言う訳です。
 
 指導に出向いたスタッフは、天津工場の作業者は厦門工場の作業者に比べてレベルが低いと言います。簡単にはよくならないので、覚悟した方がよいとまで言われました。ここで言うレベルとは、仕事や品質に対する意識であり、工場としてやるべき当たり前のことに対する意識が違うと言うのです。
 
 作業者は年配の人が多く、元々は近辺の農民だった人たちです。この辺りの農民は開発に伴って土地の権利を手放すことでお金をもらっているので、それほど一生懸命働かなくてもよいと考えていると工場のトップが言っていました。
 
 実際に彼らの仕事ぶりを見ましたが、その通りだと感じました。シンセンや東莞にある工場を数多く見てきましたが、その地域で働いている作業者とは違ってどこかのほほんとしています。
 
 ただし、レベルが低いのは作業者だけではありませんでした。管理者のレベルも低いと言わざる得ない状況でした。工場管理のルールや仕組みも十分ではありませんでした。そのこともあり作業者は自分が守らないといけないルールや、やるべきことを知らないのです。管理者たちもどうしたらよいかがわかっていないようでした。
 
 その工場がある地域では、どのような人たちが作業者として集まるのか、それもとても重要な要素であることが改めてわかりました。また、管理者のレベルが工場のレベルに直結することも再認識できました。天津工場は、ISO9001取得に向けて動いているので、それに合わせて工場管理の基本から取組み、最終的には作業者の意識を向上させることを目標に進めていくことにしました。
 
 
 

2. 中国人作業者はまじめ、それともいい加減

 今回は、中国人作業者をどう捉えるかを考えてみることにします。
 
 これに関してメールで相談をいただいたのでアドバイスさせてもらいました。 これに対して、相談者のNさんからコメントいただきました。
 
 「小生、品質管理・品質保証に永らく携わっています。しかし、国外の品質指導は最近になってからの事であり戸惑う事が有りましたが、根本様のアドバイスをいただき基本的には小生の考え(ポリシー)にそれほどの誤りが無い事を確認いたしました。 本当に有難うございました。」
 
 Nさんの人為的なミスに関する基本的な考え方をご紹介します。
 
(1) 人は誰も失敗(ミス)しようとして失敗している訳ではない。 会社を困らせてやろうとして、意識的に不具合品を出しているのではない。 ・・・性善説を取ります。
(2) 人は皆チョンボ(失敗)をするもので有り、これを皆無にするのは難しい。 しかし、失敗を起こし難い環境を作って行くのは会社(管理者)の責務である。
(3) 起きたことは取り返せない。 これを次にどうして生かしていくかを考えるのが管理者の仕事。但し、責任 ばかりを追及すると、真の原因が見えてこない(隠される)場合がある。
 
 本質を捉えたしっかりしたポリシーだと思います。わたしの中国での経験を通して得た考えを紹介します。
 
 「中国人の作業者、特にライン作業者はみな一生懸命働いていると思います。その姿を見ると作業者を信用してこそ信頼関係が出来、品質がよくなると考えていた時期と、作業者もわざとじゃないけど手を抜いたり、決められたやり方を守らなかったりするものだと考えていた時期を交互に繰り返していました。」極端な言い方をすれば、性善説と性悪説を行ったり来たりしていたのです。
 
 今大事だと考えているのは、作業者への意識付けとポカよけや不良を確実に検出できる仕組みです。作業者への意識付けとは、自分が行っている作業がいかに重要な作業か、というのを理解してもらうことです。これがあるかないかが、ちょっとしたことで不良になるかならないかを分ける部分だと思っています。  
 
 自分の作業の重要性というの...
は、自分が作っている製品・部品が最終的にどのような製品になって世の中に出るかということです。それを具体的にイメージしてもらい、家族や親戚などが買った時に不良だったらどんな気持ちになるか、などを考えてもらうといいでしょう。
 
 身近な商品だとイメージが湧きやすくていいのですが。何でもないことのようですが、これってすごく重要です。何を作っているか、意味もわからずに作業をすることほどつらいことはありません。そのように作業させることは、あってはなりません。
 
 作業者は一生懸命作業しているが、ミスをゼロにすることは出来ない。また、ほとんどの作業者はきちんと作業しているが、極一部の作業者が決まりを守らないことはある。これらによって発生した不良を工程内で確実に検出して社内で留め、顧客に不良品を流出させないことです。
 
 そしてNさんも言っていますが、ミスを起こさないような工程設計、作業設定をするのは、管理者、会社の責任。この考え方は、ものづくりをする場合に必ず実施しなければならない基本中の基本です。最後に原因と対策を混同しないこと。 原因を究明して、初めて対策が取れるという基本姿勢を忘れないように心掛けています。
 

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