技術ロードマップとは、その役割、作り方を解説

 

1. 「技術ロードマップ」とは

ロードマップを作るに際して、技術ベースで考えるか(フォーキャスト型)、市場要求からの逆算型(バックキャスト型)で考えるかのアプローチがあります。結論から言えば、一つのアプローチで考えるとロードマップに理想的な役割を全うさせることはできません。

2. ロードマップの役割とは

会社(研究所)としてのロードマップの役割は、評価者が納得できるようにすることだと考えます。作成の主体は研究者ですが、評価の主体は評価者=経営者であり、経営者が納得のできる形にまで技術開発や研究の正当性を高めていくことが必要になります。研究テーマがGO/KILLなのか、足りない研究テーマがないか等の評価結果を得るためのものです。

一方研究者から見たロードマップの役割は、かなり極端な言い方ですが、自らのやりたいことをやるため、他人を説得するためのものです。自分のやりたい研究や開発にどのような意味があるのかを示すためのロードマップになります。

3. ロードマップの作り方

研究者が既存技術の高度化テーマを手掛けたい場合のロードマップの作り方です。
  

(1)ステップ1 ニーズ

既存技術の高度化をテーマとする場合、フォーキャスト型で考えるのが最初になるでしょう。フォーキャスト型では、「この技術を進化させれば、これこれの事ができるようになる」というアプローチをとります。

(2)ステップ2 マクロトレンド

マクロトレンド予測と、マクロトレンドの変化を受けて顧客が変化しそうなことの予兆に関する情報が必要になるため、これを入手してロードマップを作っていきます。

(3)ステップ3 フォーキャストとバックキャストの統合

フォーキャスト型の考え方「この技術を進化させれば、これこれの事ができるようになる」と、バックキャスト型の考え方「将来こうなるから、こういう技術が必要だ」の2つのアプローチでした。ステップ3は、両者が一致するかどうかを確かめて研究テーマを洗練させるフェーズです。

(4)ステップ4 市場要求の具体化と技術のギャップ分析

ステップ3で、技術進化の方向性(フォーキャスト)と市場が求める将来像(バックキャスト)の整合性を確認した後、研究テーマをさらに具体化します。このフェーズでは、「将来こうなるから、こういう技術が必要だ」というバックキャスト的な要求を、具体的な市場要求や顧客価値に落とし込みます。例えば、「環境負荷の低減」という抽象的な要求を、「製品の消費電力を20%削減する」といった定量的な目標に変換します。

この具体的目標に対して、現在の技術レベルがどこまで達成できているのかを正確に把握します。この「現状」と「目標」との間にある隔たりこそが、埋めるべき技術的なギャップであり、研究開発の対象となります。このギャップ分析を通じて、研究テーマを「何を、いつまでに、どこまで」達成するのか、という実行可能な計画に落とし込むことができるようになります。

(5)ステップ5 実現可能性とリソースの検討

ギャップが明確になったら、その研究テーマを限られた時間とリソースの中で本当に実現できるのかを検討します。

具体的には、

  • 実現の難易度:技術的なブレークスルーが必要か、既存技術の組み合わせで十分か。
  • 必要なリソース:人、予算、設備、時間など、どれだけ必要か。
  • リスク評価:技術的な失敗、市場の変化、競合の出現など、プロジェクトの遂行を妨げる可能性のあるリスクは何か。

これらの要素を詳細に洗い出し、研究テーマの優先順位付けを行います。すべてのテーマを同時に進めることは非現実的なため、会社(研究所)の戦略的目標との合致度、投資対効果、そして成功確率を総合的に判断し、「GO」とするテーマと「KILL」とするテーマを峻別します。このプロセスによって、研究者の「やりたいこと」が、会社の戦略に合致した「やるべきこと」へと昇華されます。

(6)ステップ6 ロードマップの構造化と可視化

分析と検討を終えた研究テーマは、経営者が評価しやすい形、つまりロードマップとして構造化し、可視化します。ロードマップの構造には、主に以下の3つの時間軸を設定するのが有効です。

  • ショートターム(短期:1~3年):既存製品の改良、既存技術の着実な高度化、顧客の差し迫った課題解決に直結するテーマ。
  • ミディアムターム(中期:3~5年):市場の変化を捉えた新製品やサービスを生み出すための核となる技術開発。
  • ロングターム(長期:5~10年):将来の市場を創造する可能性のある基礎研究や、ブレークスルーを伴う難易度の高いテーマ。

この時間軸に沿って、各技術テーマが「いつ、どのマイルストーンを達成し、その結果としてどのような市場価値(製品やサービス)を生み出すのか」を明確に記述します。視覚的には、時間軸と技術層(コンポーネント技術、システム技術、製品)をマトリクス状に配置し、それぞれの関連性や依存関係を線で結びつけることで、経営者に技術開発の全体像と道筋の正当性を直感的に理解させることができます。

4. 技術ロードマップを成功に導く対話と継続性

ロードマップは、一度作って終わりではありません。それは生き物のように、技術の進捗、市場の動向、競合の動きに合わせて絶えず更新されるべきものです。この継続的な更新プロセスにおいて、最も重要な要素は、研究者と経営者間の質の高い「対話」です。

研究者は、技術的な可能性と困難性を具体的に説明する責任があり、経営者は、市場や経営戦略の視点からフィードマップを返し、リソース配分の判断を下す役割を担います。

ロードマップの役割は、単なる計画表ではなく、この対話の「共通言語」となることです。研究者が「〇〇技術は世界初です」と熱弁しても、経営者が「それは市場の何を解決するのか」という視点を欠けば、その熱意は評価につながりません。逆に、経営者が短期的な利益に固執しすぎると、研究者が描くべき未来への布石(ロングタームテーマ)が消滅してしまうリスクを招きます。

技術ロードマップは、研究者の夢と、会社(研究所)の生存戦略、そして顧客への価値提供という、異なる視点を論理的に統合し、未来への投資の正当性を示す最重要ツールです。このツールを有効に活用し、継続的な対話を通じて洗練させることで、会社全体の技術開発力は向上し、真のイノベーションが生まれる土壌が育まれるのです。


 


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