「CASEツール」とは、キーワードからわかりやすく解説
1. 「CASEツール」とは
CASEとは、Computer Aided Software Engineeringの略です。コンピューター支援ソフトウェア工学の意味で、「ケース」と呼びます。設計開発などの工程で、システム開発支援のためソフトウェアを利用することです。CASEツールを使って、作業の一部分を自動化し、ドキュメントやソースをできるだけ再利用することを狙っています。ただ、CASEツールは、主に1980〜1990年代に使われたツールで、最近はほぼ使われていません。
2. 「CASEツール」の現実
現在、CASEツールという言葉自体、使わなくなりました。その原因は、実際には自動生成できるドキュメントは、設計書のほんの一部分で、自動生成できるプログラムや自動テストできるプログラムも一部分であり、必ずしも生産性の向上につながらなかったことが原因です。もうひとつは、開発するシステムが複雑化し、開発言語、ツールも多様化したことに対して、CASEツールが対応できなくなった、という経緯があります。
3. CASEツールの構成要素
「上流」と「下流」 かつてCASEツールが全盛期を迎えた際、その機能は大きく二つに分類されていました。要件定義や外部設計といったシステム開発の初期段階を支援する「上流CASE(Upper CASE)」と、詳細設計以降のプログラミングやテスト工程を支援する「下流CASE(Lower CASE)」です。 上流CASEは、業務フロー図やE-R図(データの関連図)などを画面上で描画し、それらの整合性をチェックする機能を担っていました。一方、下流CASEは、設計情報からプログラムコードの枠組みを自動生成したり、コンパイルやデバッグ作業を効率化したりする役割を持っていました。さらに、これらを一気通貫で管理する「統合CASE(I-CASE)」という構想もありましたが、当時のハードウェア性能や技術的制約から、実用レベルで完全に統合された環境を実現することは極めて困難でした。
4. 理想と現実のギャップ
なぜ定着しなかったのか 前述の通り、CASEツールが衰退した背景には、開発プロセスの変化に対応しきれなかったという事情があります。しかし、より本質的な問題は「ラウンドトリップ・エンジニアリング(往復工学)」の難しさにありました。 これは、設計書(図)を修正すればプログラムが自動で直り、逆にプログラムを修正すれば設計書が自動で更新される、という同期機能のことです。当時の技術ではこの同期が不完全であり、結果として「設計書とソースコードの乖離」が発生しました。エンジニアは「CASEツール上のきれいな図」を維持するためだけに膨大な時間を費やすことになり、本末転倒な状況に陥ったのです。また、CASEツールは高額な導入コストがかかる上に、そのツール特有の操作や記法を習得するための教育コストも甚大であり、費用対効果が見合わないという経営判断が下されることが多くなりました。
形を変えて生き続けるCASEの概念 「CASEツール」という言葉は死語に近い状態となりましたが、その「ソフトウェア開発をコンピュータで支援する」という思想自体が消えたわけではありません。むしろ、形を変えて現代の開発現場に深く浸透しています。 例えば、現在プログラマーが当たり前に使用しているEclipseやVisual Studioなどの「統合開発環境(IDE)」は、かつての下流CASEが目指した機能の進化形と言えます。コード補完、リファクタリング(プログラム構造の整理)、自動ビルドといった機能は、まさにCASEの概念そのものです。 また、上流工程においては、UML(統一モデリング言語)を描画するモデリングツールがその役割を引き継ぎました。さらに近年注目されている「ローコード(Low-Code)/ノーコード(No-Code)開発プラットフォーム」は、画面操作だけでアプリケーションを構築できるという点で、かつてのCASEツールが夢見た「プログラミングレスな開発」を、現代のWeb技術とクラウド環境で再実現したものと捉えることができます。
5. 結論
言葉は消えても思想は残る CASEツールは、1990年代特有の「重厚長大」なウォーターフォール型開発を前提としたツールとしては役割を終えました。しかし、人間が行う作業のミスを減らし、自動化によって生産性を高めるという目的は、現代のDevOps(開発と運用の連携)やCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)といった自動化技術に脈々と受け継がれています。 かつて「魔法の杖」として期待され、そして失望されたCASEツール。しかし、その試行錯誤の歴史があったからこそ、私たちは現在、より高度で柔軟な開発支援ツールを享受できているのです。「CASE」という名称は過去のものとなりましたが、そのDNAは現代のソフトウェア工学の根幹を支え続けています。