マトリックス図法とは、キーワードからわかりやすく解説
1. マトリックス図法とは
マトリックスとは縦横すなわち行と列からなる構造であり、マトリックス図法とは、ある事象を表現する二つの特性を縦横の表形式に配置することで問題点を多面的に把握し、その解決に役立てる方法です。 二つの項目の関連度合いを◎○△などと記入してゆく事で、問題の分布状況や全体像が理解しやすくなります。 項目の選び方が重要ですので、連関図や系統図などを利用して重要項目を選択します。 QFDの品質表も、顧客要求(VOC)と品質特性を2軸としたマトリクス図の一種と言えます。
2. マトリックス図法と検討範囲欠落防止機能
マトリックス図法の効用は、交点から「着想のポイント」を得て問題解決を効果的に進めることができることです。ただ、これだけだと「マトリックス図を描くと、だれにでも分かるようにはなるが、着想のポイントを得るだけだったら、何もマトリックスを描くまでもないのではないか」ということになりかねません。
しかし「その着眼点に漏れはないのか」ということになると、周囲の者はいうに及ばず、本人でさえも、自信をもって、ないとはいい切れないのではないでしょうか。その点、マトリックス図を描くと、本人はもちろん、周囲のものもはっきりと確認することができるわけで、この「検討範囲欠落防止機能」こそ、マトリックス図法の余法をもって代え難い効用といえます。
3. マトリックス図法の効果・効用
問題解決にマトリックス図法を適用し、定義にある基本機能を忠実に遂行してマトリックス図を完成させたときに痛感する効用は、マトリックス図の持つ「網羅性」と「一目瞭然性」による検討範囲(事項)の欠落防止と発想・着想の発展です。
しかも、ここでいう発想・着想の発展は、定義に謳われているマトリックス図の交点に関わるものだけでなく、問題解決のスケールとレベルに関わるものも含んでの話です。したがって、マトリックス図法を活用する際は、この2点、検討範囲(事項)の欠落防止と発想・着想の発展を強く意識することにより、より効果的な活用が期待できるのです。
4. マトリックス図法の活用ステップと多様な応用
マトリックス図法は、その有用性を最大限に引き出すために、いくつかの明確なステップを踏んで活用されることが一般的です。
【準備と軸の設定】
まず、解決したい問題の定義と、それが内包する要素や特性の洗い出しを行います。次に、この問題に関わる主要な二つの側面(要素群)を特定し、これらをマトリックスの行と列の軸に設定します。この軸の選び方こそが、分析の深さと有効性を決定づける最も重要な工程です。多くの場合、一方の軸に「原因」または「要求」といったインプット側の要素を置き、もう一方の軸に「結果」や「手段」といったアウトプット側・対応策側の要素を配置します。例えば、顧客の要望と製品の技術特性、あるいは潜在的なリスクとそれへの対策などが典型的な組み合わせです。
【関連性の評価と記入】
軸が設定されたら、行と列の要素が交わるすべてのセル(交点)について、その関連性の強さを評価し、図示します。関連性の評価には、◎(非常に強い)、○(強い)、△(弱い)、空欄(関連なし)といった記号や、数値を用いることが一般的です。この作業は、単に関連の有無を確認するだけでなく、なぜその関連があるのか、どのようなメカニズムで結びついているのかを深く思考するプロセスそのものです。網羅的にすべての交点を検討することで、「検討範囲欠落防止機能」が発揮され、見落とされがちな潜在的な関連性やトレードオフ関係が浮き彫りになります。
【分析と優先順位付け】
図が完成したら、そのパターンを分析します。例えば、特定の行または列に強い関連が集中している場合、その要素が全体に強い影響力を持っていることを示唆します。あるいは、行と列で関連性のバランスが取れていない場合、要求と手段の間に不足や過剰な対応がある可能性を示します。この視覚化された情報をもとに、影響度の高い交点や、空白が目立つ交点に焦点を当て、問題解決のための次のアクションの優先順位付けや、新たな着想の源泉とします。
【派生的な応用:T字型、X字型】
基本のL型(二軸)マトリックス図法から派生し、三つ以上の要素群の関連を分析する手法も存在します。例えば、T字型マトリックスでは、二つのマトリックスを一つの軸で連結し、三要素間の関係を二段階で評価します。さらに複雑なX字型(四面)マトリックスでは、四つの要素群の関連を一連の流れとして分析します。例として、「顧客要求品質」と「設計品質」の関係を評価したL型マトリックスに、「設計品質」と「工程能力(製造プロセス)」の関係を評価したL型マトリックスを連結することで、顧客の要望が最終的に製造現場で実現可能かどうか、一連の関連性を追跡できるようになります。これらの多面的なマトリックスは、特に複雑な製品開発(QFDなど)や大規模なシステム設計において、品質とリスクの連鎖的な影響を把握するために非常に有効です。
マトリックス図法は、単なる情報の整理ツールではなく、構造化された思考を強制することで、網羅性と論理性を担保し、参加者間での共通理解を深め、建設的な議論を促進する強力なコミュニケーションツールとしても機能するのです。その本質は、複雑な世界を単純な構造に落とし込み、関係性のパターンから未来の行動を導くための「知の羅針盤」と言えるでしょう。