カイゼンとイノベーション

 IPIはIntegrated Process Innovationインテグレイテッド・プロセス・イノベーションとして筆者が海外と国内で長年に亘ってものづくりの改善・革新を指導してきた経験から編み出した戦略的かつ実践的な商標登録済みの方法です。今回は、主題のイノベーションについて、改めて“要点を紹介し、成功させるための要件を考えてみたい”と思います。

1.今井正明氏のイノベーション(「KAIZEN, The Key to Japan's Competitive Successから)

 今井氏は、1986年にアメリカで出版したKAIZENの中でカイゼンとイノベーションを比較し、日本経済発展の秘密はコツコツと積み上げるカイゼンにあり、一気に高みを目指す欧米のイノベーションに勝るものであるとし、KAIZENは今や旧ソ連圏やアフリカの国々にまで広まっています。イノベーションについて今井氏は「技術ベースの大規模な投資でドラマティックな効果を目指すもの」としている。

 なお、筆者は1988年頃シンガポールで今井氏に会って“KAIZENの実践版”を書く承諾を得てPractical KAIZENを1993年にアジア生産性機構(APO)から出版し、アジアの国々を中心に指導しています。
  

2.ドラッカーのイノベーション(「まんがと図解でわかるドラッカー」別冊宝島1710*から)

 会社の目的は顧客を創造することであり、顧客創造に必要な2大要素はマーケティングとイノベーションとします。一般的に、イノベーションは技術の革新による新たな価値の創造ととらえられがちですが、イノベーションの本質は、意識的・組織的に変化を探し、良い変化を起して、新しい価値を生み出すことであり、既存商品の新しい用途を見つけて新たな満足を生み出すこともイノベーションです。

 ドラッカーによれば、カイゼンを積み上げて高度な多品種大量生産を可能にしたトヨタ生産方式は立派なイノベーションということになる。

 さらにドラッカーは、イノベーションを起す7つのチャンスとして、①市場に対する認識と実際のニーズのずれ、②需要と供給のギャップ、③プロセスの中の解決すべき問題、④産業構造の変化、⑤人口構造の変化、⑥物事に対する人々の考え方の変化、⑦新しい技術の活用、をあげています。

 ところで、トラッカーのマネジメントにはIndustrial Engineering(IE)は出てきますが、Toyota Production SystemもKAIZENも出てきません。これらが世に出る前の話だからです。

*ドラッカーの本はたくさん(例えば 「エッセンシャル版マネジメント」 「(通称)もしドラ」 「ドラッカーのマーケティング思考」 「ドラッカーの教え通り経営してきました」などなど)ありますが、別冊宝島が一番分りやすく、主要フレーズには原文も付いています。
  

3.伊丹敬之氏のイノベーション(「イノベーションを興す」日本経済新聞出版社から)

 イノベーションは単なる技術革新ではありません。技術開発の結果として生まれる新しい製品やサービスが市場で実際に大きな規模で需要され、それが人々の生活をかえるところまで結実してこそ、本当のイノベーションです。イノベーションを実現するには次の3段階のプロセスが必要になります。
1)筋のいい技術(市場ニーズにあった技術)を育てる
2)市場への出口を作る(育てた技術が新しい製品やサービスとして売れる)
3)社会を動かす(新しい製品やサービスが人々の生活スタイルを変えるほど大量に需要される)

 そして、これら3つのプロセスは、決してスムースに進むわけではなく、ジグザグを繰り返しながら何とかものになっていくものである。

 

 イノベーションについて3氏の考えを要約しましたが、これらの考え方・方法をどう活用して結果を出すか “頭と技法(道具)は使いよう” が重要です。イノベーションは、世の中をいい方向に変えていくものであり、結果として会社(組織)に利益をもたらすべきもので、そのためには世の中を広く高い次元から見てアンバランスや不都合に気付いて、世の中が必要としている(或いは近々必要とするであろう)「大きな課題」を選ぶことがカギになります。

 筆者はこれを「マクロの目」としました。事情の変化や競争相手の動向など定量的に分析する方法もありますが、まずはシンプルに考えて「タカのように空高く舞い上がって、顧客は何を必要としているか、競争相手は何をしようとしているか」、これらを的確に捉えるのが「マクロの目」です。相模屋とうふは、メインは‘木綿’と‘絹’で安定的な需要がある一方で供給能力はむしろ減少する方向にあり、「美味しい‘木綿’と‘絹’を安定的に供給する」ことが「大きな課題」だと読んだところがミソです。このように「マクロの目」でみて、「お客さんは何時でも美味しい‘木綿’と‘絹’を食べたいのだ」と睨んで、ドラッカーのいう「顧客を創造する」ことに成功したのです。

 他の業種ではこれほど単純ではありませんが、どんな業種でも「市場で勝てる指標」というものがあるので、これを見付けて(相模屋とうふの例では「美味しい‘木綿’と‘絹’を安定して供給する」)その指標を向上させることを目標にイノベーションに取り組めば、実のある(利...

益が上がり、社会に貢献する)イノベーションが出来るということです。

 さて「大きな課題」を決めた後は、とうふづくりの工程を追っていって “パック詰め”が品質でも生産能力でもボトルネックになっていること認識し、その自動化技術の開発(伊丹氏のいう筋のいい技術)に取り組んだのです。この技術開発については、事例に書いたようにアイデアの段階で関係者から「出来ない」「ムリ、ムリ」の大合唱だったのを鳥越社長がひとつひとつ対話を通じて解決していったのですが、これはまさに伊丹氏のいう「ジグザグを繰り返しながら何とかものにした」ものといえます。

 IPI(Integrated Process Innovation)は成功するイノベーション(利益が上がり、社会に貢献する)を目指しています。そこで重要なのは「市場で勝てる指標」です。これについては鈴木博毅氏が「「超」入門 失敗の本質」で詳しく書いていますので、次の<事例紹介>に要点を紹介します。

◆関連解説『QC7つ道具とは』

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