サプライチェーンの加速 -熟練の適用・設備余剰利用・過去にとらわれない再定義-

1.熟練は同期化を進化させる

 工程の速度を熟練によって調整できれば、サプライチェーンの同期化すなわちキャッシュを生むスピードは、より安定的に促進されます。精神論を重んじるから、科学的ではないからという点から、熟練を軽視するべきではありません。 

 全世界の企業が自社の属するサプライチェーンにモノとカネが流れるように、限られた需要(餌)を求めて戦っています。顧客満足度を基準とした、淘汰選別の進化を促すビジネスモデルです。ビジネスは、殺戮のない戦争でありゲームです。戦略とともに熟練は、戦争にもゲームにも重要です。

 筆者は日経のビジネススクールでサプライチェーンマネジメントを何回か担当しています。具体的にはダーツを使ったビジネスゲームによるもので、熟練による同期化の進化を体験するコースです。初めてのゲームでも1回目と2回目では20〜30%のキャッシュフロー改善効果が現れます。

 

2.人や設備の余剰は在庫を減らす

 エアコンや飲料は夏場に需要のピークを迎えます。そして需要は月次単位の供給能力を超えてしまいます。そのため、前倒しによりあらかじめ生産しておき、在庫を貯めておきます。年間の平均在庫が生産設備資産をはるかに超えている場合があります。コスト至上主義の発想によると、夏場に合わせた生産能力では冬場に設備や人が遊んでしまうと考えます。ところが、在庫も同じ遊んでいる資産なのです。 

 拠点政策をうまく反映させた50億円の設備投資によって、年間平均在庫を70億円削減できるとします。すると20億円のキャッシュが浮くだけでなく、在庫削減によるリードタイム短縮・鮮度向上が期待できるので市場競争力は倍増し、売上強化につながるに違いありません。 

 設備投資は、購入金額が各会計期間毎の減価償却費というコストへ配分・変換されます。しかし在庫は市場価値への評価替えが難しいためコストになりにくいのです。キャッシュフローから見ると在庫も設備もバランスシートの資産です。設備はコストになるので、稼動率を上げないと無駄になると考えがちです。しかし在庫には意外と無神経になっていることがあります。

 

3.成功体験の持続は変革への抵抗となる

 大型タンカーが大きく高速安定航行しているときに、障害物などにより急ブレーキや急ハンドルの操作をしてもすぐには思い通り操作できないのは、物理学の慣性の法則によります。 

 経済環境が激変している現在、過去に成功した自社のコア・コンピタンス(中核となる企業の能力)であっても市場での競争に役に立たなくなっているかもしれません。全国津々浦々に張り巡らした家電の販売網に向けたサプライチェーンが、広域のロードサイドでの量販店経由にシフトしたことで、従来のコア・コ...

ンピタンスが逆に重荷になっている場合もあります。従来のパパママストアのきめこまかいサービスや、販売網ではなく拡大する量販店の流通力が、顧客の利便性を上げつつあります。量販店のサプライチェーンの太いパイプが出来つつあるとき、従来通りの人口比に基づく営業力の配分では流通上にボトルネックを作ってしまいます。 

 自社のコア・コンピタンスの再定義とは、自社の強みであったものでも時代とともに捨てる覚悟をすることです。  

図1.慣性の法則 

◆関連解説『サプライチェーンマネジメントとは』

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