マーケティングにおけるQFD QFDを考える(その3)

【QFD(品質機能展開)の考察 連載目次】

1.「ニーズ」「シーズ」とQFD

 ドラッカーは、「イノベーションの母としてのニーズは、限定されたニーズである」と述べて、それは次の3つに分類されています。(「イノベーションと起業家精神」)

  1番目は、医療やサービスなどのプロセス上のニーズ
  2番目は、労働上に関するニーズ
  3番目は、開発研究の目的である知識上のニーズ

 特に3番目のニーズは、重要な意味を持っていると書かれています。

 この3番目の知識上のニーズ分析は、QFD(品質機能展開)の一連の作業と共通しています。QFDが使われ始めた1960年代は、“悪かろう”製品をマーケットの要求を具現化した“魅力的な”製品に変えていくために、数多くの技術的改善が必要とされました。加えてそれらに関する品質保証も同時に行わなければなりませんでした。したがって品質表の縦欄も横欄も膨大な数になり、出来上がる表もたいへん大きなものでした。中には30畳くらいの大きさの表を作った企業があると噂されたくらいです。その甲斐あってか、1980年代後半から90年代にかけて、日本は数多くの工業製品において世界でも類を見ない高品質なモノを作り上げました。「追い付け、追い越せ」の時代には、このやり方が非常に効果を発揮したのです。しかし日本がトップランナーに立ってからは、この最善だと思われていた方法をそのまま適用するだけでは立ち行かなくなってきました。

 21世紀に入って、マーケットは細分化しなければ分析が難しく、しかもニーズは多様化しています。それに加えて変化のスピードが格段に上がっています。かつてのような方法で製品開発を行っていたのでは、競争に勝つことはできません。したがって、QFDの思想を踏襲しながらも、各企業は独自の方法を考え出していきました。また従来のように大きな表は作成に時間がかかるため、現在では小さい表を1週間程度で何枚か作る方法が主流となっています。

 ひとくちに、「マーケットのニーズを的確にとらえる」といっても、そこには非常に大きな困難が伴います。iPadやiPodを例にとっても、マーケットからのニーズではこのように斬新的な商品はできなかったと言われています。さらに、マーケット自身も認識していない「ウォンツをつかむ」などとなると、困難を極めるることでしょう。マーケットは開発者の思い通りにはなかなか反応してくれないものです。

 例えばメガネ拭きの「トレシー」(東レ)はマーケットの口コミで洗顔用クロスとして大ヒットし、「バイアグラ」(ファイザー)は心臓病の薬として作られたものが、その副作用にマーケットの注目が集まってのヒットでした。これらの成功要因はさまざまな文献で紹介されていますが、ヒットを出した企業の特徴はQFDの観点から次の2点に集約できます。

 第一に、マーケットと常に対話していた。
 第二に、自社の技術を正確に把握していた。

 まさにQFDの手順通りに情報を整理し、商品化に向けてすぐに着手できる体制にあったわけです。現在では、自社の技術を正確に把握するためにシーズ分析を行い、そこを出発点としてマーケットが言葉にすることのできないウォンツ候補を探る方法も考え出されています。このように目的に応じた表を組むことで、かつてのQFDの幅は格段に広がりを見せました。

2.「満足」「納得」とQFD

 マーケットのニーズを分析することがきわめて難しいことはおわかりいただけたと思います...

が、さらに製品を販売した後の評価にも困難が伴う時代になってきました。

 近年では「顧客満足(度):Customer Satisfaction」を、指標のひとつにすることが当然のように考えられています。しかし、顧客は本当に「満足」して製品を購入しているのでしょうか。「満足」とは、製品を一定期間使用した後に発生する感情です。我々がモノを購入する場合には、「納得」または「期待」して買っている、と考える方が普通です。

 QFDでは「顧客期待」「顧客納得」「顧客満足」を定義し分類することから始まり、“自社の技術”との二元表を組むことによって、製品のどの部分をアピールし、どの部分で納得させるかを、共通の表で論じることができるのです。

 

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