知的財産デューデリジェンス(買収対象企業の調査)での調査項目

1.出願の一覧・権利の一覧

 企業買収前に行う知的財産デューデリジェンス調査では、買収先の出願・権利の一覧を確認しておくことが非常に重要です。出願の有効性、権利の有効性は特許電子図書館(IPDL)などを使って調査しますが、疑わしいものについては包袋(特許出願、商標出願等の出願経過)を取り寄せて評価するなどの確認が必要になることもあります。有効性を確認した上で、パテントマップなどを作って分野別、年代別、発明者別の出願件数、登録件数を評価すれば、買収先の知財力が概ね理解できると言えます。

 例えば、横軸に年代、縦軸に発明分野を取ってマッピングしていけば、年代を追って研究開発の歴史を理解できます。横軸に発明者、縦軸に発明分野をマッピングしていけば、どんな研究者がどんな発明をしたかが理解できます。そして、中心となる研究者がいれば、その人の在籍を確認しておくことも重要です。 

 

2.事業と権利との関係整理・侵害状況の整理

 知的財産デューデリジェンスでは、買収先で実施している事業と特許権等の知財の関係を整理しておくことも重要です。知財の中には、次の事業のタネとして大切にされているものもあれば、一研究者のこだわりで権利は持続させているが、実施する見込みがないものもあるのです。実施していない知財が多数あるようであれば、買収後に整理する余地があります。そのため、実施しているか、実施の見込みがあるか、実施する見込みがないかの3つに分けて整理することを推奨します。 

 侵害状況を整理しておくのも重要です。偶発債務になりかねないからです。買収対象企業が他人の特許を侵害していると、事業ができなくなる恐れや、損害賠償の対象になる可能性もあります。そのため、侵害していないかを調査することは重要です。ただし、公開情報に基づいて侵害していないかを調査するのは困難です。そのため、知財部へのヒアリングが重要になります。係争になっているもの、警告状などの係争になりそうなものの有無を、知財部門で調査するのが確実で早い方法になります。

 

3.共同出願・特許権の共有の状況

 特許を共同で出願したり、特許権を共有したりすると、共有者の同意がなければ譲渡できず、専用実施権、通常実施権も付与できません(特許法73条)。そのため、買収後の事業の自由度に影響があります。

 また、共願者・共同権利者がいるということは、その共願者等の素性も知らなければなりません。共願者が競合企業であったり、関係会社であったりするのはよくあることです。

 

4.チェンジオブコントロール条項の付帯状況

 知財権のライセンスを受けている場合、買収後もライセンス契約が有効かどうかは契約の内容次第です。平成23年の特許法改正で、通常実施権の当然対抗制度(登録していなくても、ライセンシーが買収者に通常実施権を対抗要件として使える制度)が導入されたものの、改正前に契約されたものは、当然対抗はできません。登録することは稀でしたから、契約次第となるのです。 

 チェンジオブコントロール条項とは、買収などで一方の会社の支配権(コントロール)が変わった(チェンジ)場合に、相手方の会社が契約を破棄できるとする条項のことです。この条項によって、ライセンスの地位を承継できない場合は、事業の継続は難しくなります。そのために確認が必要なのです。 

 

5.特許権の有効性(M&Aの際に特許権が使用できなくなる抵当権や、無効理由) 

 特許権の有効性についても確認しておく必要があります。抵当権等が設定されて、特許権が使用できなくなる可能性もあるのです。ただ、特...

許権の有効性を確認すると言っても、契約書を洗い出すしか方法がありません。

 例えば事業を共同で実施している場合、商品を販売している場合、相手方との契約にこのような抵当権が含まれている可能性があります。関連するであろう契約書を一つ一つ丹念に調査する必要があります。

 無効理由については無効審判を請求されているか否かが一つの目安になります。特許権は、成立後でも無効になる場合があります。無効審判とは、審判請求された場合に、特許庁が再度特許性を判断する制度です。無効理由に該当すれば無効になる仕組みです。無効とは、初めからなかったものとみなされることです。競合他社が特許権の有効性を巡って無効審判を請求するケースは多々あるのです。

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