Painのリスト化 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その86)

 

 今回も前回に続き、エドワード・デシが内発的動機付けに必要と主張している2つの要素である「自律性」と「有能感」の内、後者の実現手段として、前回に引き続き、解説します。

◆関連解説記事『技術マネジメントとは』

1、「新事業創出チームメンバー社内公募に手を挙げるかどうか」の判断を想定して考える

 今ここで一つの想定として、あなたの会社で新規事業創出チームメンバーの公募がされている状況を仮定しましょう。

 

 あなたは今、企業の研究所に籍を置いていますが、担当分野の研究に関心を持ってはいるものの、新規事業創出にも関心があります。しかし新規事業創出の経験が全くないため、応募するかどうか躊躇(ちゅうちょ)しています。

 そのため、以下のプロセスにしたがって「新事業創出チームに手を挙げるかどうか」の判断をすることとしました。

 前回は(1)GainとPainを網羅的にリスト化するの(Gain)について解説しましたので、今回は【Pain】から解説します。

 

(1) GainとPainを網羅的にリスト化する

【Pain】

 PainもGainと同様に、分けて考える視点に大きく2つあります。その新たな体験そのもののコストと、その新たなことをすることによる機会損失です。

 前者は、新規事業であれば当然失敗の可能性もあり、失敗すれば社内で人事的に悪い評価を受けるかもしれません。失敗に起因する心理的なダメージもあるでしょう。

 また、今の仕事に比べ、様々なことをしなければなりませんので、忙しくなるでしょう。家庭を多少犠牲にしなければならないかもしれません。ここでは、場面ごとで考えてみるのが良いかもしれません。健康、信条・思い、仕事・会社、家庭・家族、人間関係、社会との関係などがあるかと思います。

 後者の機会損失に関しては、新事業創出チームメンバーに加わることになれば、今の仕事を続けてさえいられれば得られるであろう成果が得られません。

 私の経験からも「継続は力なり」の効果には大きなものがありますので、機会損失は見逃せません。また、自分自身の現在の仕事の将来を考える上でまたとない機会ですので、ぜひじっくり機会損失について考えてみてください。

 ここでもGainと同様にPainもできるだけ広く網羅的に考えることが重要です。

 Painを広く考えることで悲観的になりすぎるということを心配するかもしれませんが、ここはあくまでも思考実験ですので、心配は不要です。実際にはそのインパクトとそのようになる可能性は、後の「 Painのインパクトや起こる可能性を低減する方法を考える」で対処しますので、妄想してできる限り広くPainを考えましょう。

 

(2)Gainの姿を明確に描き、得られるGainの大きさと得られる可能性を想定する

 次の項目に進みたいと思います。

 前回の(1)でリスト化したGainの一つ一つについてじっくり考え、それらを明確に頭の中にありありとイメージとして描いてみましょう。

 マーケティングの能力獲得がGainとして上がっているとしたら、頭の中で顧客に対してプレゼンテーシ...

ョンをしていたり、顧客との間で熱意溢れるディスカッションを行っている姿を思い浮かべてみましょう。面白いことに、自分がそれまでそのような経験をしていなくても、頭は映像やその場の雰囲気のイメージを合成してくれるものです。

 このように頭の中でそのイメージを持つことで、そのGainの大きさを相当実感することができます。

 

 例えば、顧客との間で熱意溢れるディスカッションをしている姿を思い浮かべてみると、わくわくするかもしれません。また、そのようになる可能性も、実際にイメージしてみることで「がんばれはできそうだな」などと想定することができます。

 その際、その場のイメージをズームイン、ズームアウトすることで、その場をできる限り、広くかつ高い解像度で想定してみることが重要です。

 

 次回に続きます。

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