生産財マーケティングにおける重点顧客戦略 (その3)情報と戦略

 

1. 生産財マーケティング:情報なくして戦略なし

 重点顧客戦略を推進する上でキーとなる「顧客の格付け」について、その2で「ランチェスター式ABC分析」を解説しました。ランチェスター式ABC分析を行うためには、導入状況調査(顧客の総需要、および競合他社からの購買状況の把握)が必要です。ターゲット顧客の対象件数が少なく、エリアも狭い場合はローラー調査という伝統的なやり方で、短期間に集中訪問して、導入状況の調査を行ってもいいでしょう。

 しかし、現在は事前にアポイントを取らずに訪問しても面談できませんので、ある程度時間をかけて対象顧客を全件訪問し、通常の営業活動の中で情報収集するやり方が通常です。

 筆者も事務機やIT機器の営業で、長年、導入状況調査を行ってきました。1年、2年、3年と継続して行っていると、精度がどんどん上がっていきます。導入状況調査は面倒な作業なので、営業はあまりやりたがりません。

 しかし、面倒な作業は競合他社にとっても面倒です。競合他社がやらないことに継続的に取り組むことで、情報力で差をつけることができます。「情報なくして戦略なし」と言いますが、導入状況調査がしっかりできていると、営業リソースの投資対効果を高めることが可能となり、競合に差をつけることができます。

2. 生産財マーケティング:アカウントプランとは

 アカウントプランとは、顧客別の営業方針を文書としてまとめたものです。重点顧客を攻略するためには、顧客の経営課題や業務課題を把握した上で、課題ごとに具体的なソリューションを提案しなければなりません。

 そのために定期的にアカウントプランを作成し、営業はプランに基づいて、追加で必要な情報を収集しながら、具体的な提案につなげていきます。生産財の中でも、顧客の課題解決に寄与する度合いが強い「提案型」「課題解決型」の製品を扱っている場合や、購買の意思決定に関わるキーマンが多い中堅・大手企業をターゲットとする場合は、アカウントプランは重要となります。

 営業によっては、何十社から何百社という数の顧客を担当していますので、当然、全ての顧客のアカウントプランを策定することはできません。よって、ランチェスター式ABC分析であればAa、Ba、Abは作成を義務付けるなど、顧客の格付けに応じて、組織としてアカウントプランの策定ルールを決める必要があります。

 アカウントプランに盛り込む内容は、4種類の情報項目(図E)と3種類の情報種別(図F)があります。情報項目としては「顧客基本情報」「組織とキーマン」「顧客の課題」「課題解決提案のシナリオ」、情報種別としては「フォーマル情報「インフォーマル情報」「社内蓄積情報」です。筆者の経験上、大型案件や戦略的な案件を受注できる営業ほど、様々な工夫をして情報を収集し、しっかりとしたアカウントプランを作っていました。

  図E.アカウントプランの「情報項目」

  図F.アカウウントプランの「情報種別」

 

3.アカウントプランを活用した重点顧客戦略の実践

 ホワイトカラーの中でも、営業の仕事は属人化しやすいと言えます。理由として、

 などが挙げられます。

 属人化してしまった営業組織には、...

以下のようなデメリットがあります。
  • 個人の優れたノウハウが社内で共有されない
  • 営業相互で活動を分析したり、課題の抽出や改善策の実行を行うことができない
  • ノウハウが共有されないため、ローパフォーマーが育たない

 重点顧客のアカウントプランを策定し、上司やスタッフとミーティングして攻略方針を合意し、営業活動を行った結果を検証して、次回のアクションにつなげていきます。このサイクルを回すことで、営業の属人化を防いで組織的な営業を展開することができます。 

 顧客の格付けに基づいて抽出した重点顧客に対して、優先的に営業リソースを割り当て、アカウントプランに基づいて戦略的な営業活動を展開します。このやり方で営業の属人性を排して、組織的で投資対効果の高い営業活動を展開して下さい。

◆関連解説『事業戦略とは』

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