「おもてなしの神髄」 CS経営(その57)

 
  
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

17. コミ袋からお客様の思い出の品を探し出す:株式会社 帝国ホテル

(1) お辞儀の角度は本質ではない

 今からおよそ125年前、帝国ホテルは日本の迎賓館として誕生しました。125年の間に、各国の貴族、女王、大統領、経営者、俳優、旅行者など、多くの人々が帝国ホテルを訪れたことにより、設備、システム、運営ノウハウ、エチケット、マナー分野における経験と対応力を蓄積することとなりました。
 
 もちろん、一言でエチケットーマナーといっても、内容は時と場合によって変化します。顧客から見える場所だけでなく、見えないところにおいても意識が行き渡っていなければ、宿泊者が感動する区切りのないシームレスなおもてなしは実現できないのです。
 
 顧客はサービス提供者の意識の隙間に不満を感じる。「なぜ気がつかないのだろう」「なぜ対応してくれないのだろう」というように。隙間が存在するとサービスは利用者は居心地の悪さを感じさせてしまうのです。その解決策としてすぐにマニュアルを作成するというのは効果的とはいえません。お辞儀の角度を数値化し、笑顔の練習に明け暮れ、表面的な挨拶を繰り返しても、ぎくしゃくし、まるで気持ちの伴わないロボット・機械人間となってしまうだけです。型にはまった対応、押しつけがましい接客はちっとも「おもてなし」にはならないのです。
 

(2) ドアマンたちの奮闘、接客係たちの心配り

 では、ここから帝国ホテルの「心配り」を紹介していきます。
 

・ドアマンの仕事

 お客様がホテルに抱く第一印象はドアマンの態度、姿勢で決まります。帝国ホテルのドアマンは、タクシーが到着するやいなや安全な駐車場所に誘導します。お客様が車を降りる際は、天井の角に頭をぶつけないように手をかざします。奥の席に座っているお客様に対しては、スペースを確認しながら臨機応変に反対側のドアを開けて降車を手伝います。ご高齢のお客様や着物をお召しの女性に対しては、降りやすいように手を貸します。お客様が1万円札を出したとき、もしタクシー運転手が釣り銭を切らしていれば、ドアマンは5000円札1枚と1000円札5枚を渡し、1万円札を受け取ります。
 
 運転手付きの乗用車が到着した時には、ドアマンは車の色、車種、ナンバーを記憶しています(お客様が車を替えたとしてもすぐにその情報をキャッチし、記憶し、他のドアマンと共有するためにデータ化します)。そればかりか後ろの席に座っているお客様の会社、役職、名前に加え、運転手の名前も知っているのです(離れた駐車場で待機しているときに連絡するためです)。そして、いつものようにフロントまで誘導します。ドアマンたちの連携のすごさを示す例です。
 

・フロントとベルマン

 フロントではお客様を温かくお迎えし、てきぱきとチェックインの手続きを行なうのです。これが結構難しい。スピーディになればなるほど、雑で無愛想、無機質、機械的、事務...
的な対応になってしまうからです。お客様にマイナスの印象を与えるばかりか、クレームにまで発展することすらあるから、注意が必要です。
 
 とくに帝国ホテルに対してはお客様の期待も大きく、厳しい評価が下されることになります。「帝国ホテルともあろうところが……」といった具合に。さて、荷物をフロントから客室に運ぶのはベルマンです。たとえばロビーで名前の記したT字形の看板を持ち、ベルを鳴らしながら告知したり、お客様が困ったときの「お助けマン」となるのがベルマンの務めです。
 
 次回に続きます。
 
【出典】武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
            筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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