「おもてなしの神髄」 CS経営(その44)

 
  
 

なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

10. 被災地へ走れ・がむしゃらに突き進む最強集団:株式会社熊谷組

(1) 箸よく盤水を回す

 日本の箸は先が尖っています。小さくてつまみにくい形をした食材でもつかめるようにするためです。たとえ小さな胡麻粒一つであってもです。食物は神から授かった命をつなぐ大切な宝物であり、粗末にできないと考えるからです。
 
 その「先が尖っている箸でたらいの中の水を回しても、初めは箸だけが回るのみです。しかしその行為を根気よく続けているうちに小さな水の渦ができ、やがてたらいの水全部が大きな渦になって回り始める。小さな力でもそれをあきらめずに継続していれば、大きなものを動かす力になる」というたとえです。
 
 「盤」は、たらいや桶のような平たい器を指しますが、もともとは盆栽で使用する器のことで、主として雑木を盆栽にするためのものでした。ここでいう雑木とは、たとえば、もみじ、くぬぎ、こなら、姫しゃらなど四季折々、紅葉し、花を咲かせ、実をつけるもののことです。雑木は往々にして落葉樹でもあり、落ちた葉は腐葉土として雑木林の栄養になります。また、実は熊、イノシシ、鳥たちの餌になり、生態系の維持に大きく貢献しています。近年、熊、イノシシが人の住むところに出没する傾向にありますが、人々が雑木を蔑ろにして、高く売れる樹木だけ育てるため、餌が不足するようになったというのも原因の一つでしょう。
 
 雑木がもたらす恩恵はまだまだあります。落葉は、保水性のある土壌を生み出す基礎となり、貴重な飲み水となります。肥沃な土壌を通して生まれるプランクトンが川に流れ海に達するときに、魚介類を育てる重要な命の糧となります。さらには台風などの災害に対する防災効果という機能も挙げられます。
 
 熊谷組では環境保全活動に取り組んでいて、二酸化炭素削減活動や、生物多様性保全活動と連動した取り組みを行なっています。公益財団法人日本生態系協会のサポートを受け、蛍の生息しやすい環境開発に取り組んでいます。蛍の幼虫が好む生息環境の条件を把握し、蛍を中心としたビオトープの整備手法を確立し、おもてなしの心を形にしています。合わせてさまざまな雑木と、蛍と融合したビオトープのコンビネーションにより、緑地づくりを身近なビルの屋上に生み出しています。
 
 蓄えたノウハウを「おもてなし」の心に映し、環境と心の豊かさとして提供し活動の輪を広げています。この「箸よく盤水を回す」が、熊谷組のCS活動を繰り広げる鍵になる言葉、キーワードであり、熊谷組はCS活動において、...
次のような行動指針を掲げています。
 
  • 「お客様の言葉」に耳を傾けることが、私たちの仕事の始まりです。
  • 「お客様の目線」で考えることが、私たちの仕事の基本です。
  • 「お客様の期待」に応えることが、私たちの仕事の責任です。
  • 「お客様の感動」が得られたときが、私たちの仕事の喜びです。
  • 「お客様の評価」こそが、私たちの仕事のものさしです。
 
 次回は、(2) 100点満点に挑むパトロール隊から解説を続けます。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
     筆者のご承諾により、抜粋を連載

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