「コトのデザイン」と意匠法

 
 
 
 前回の「モノのデザイン」と「コトのデザイン」の末尾に次のように記述しました。
 
 なぜ「コトのデザイン」が強調され、デザインの対象が「モノ」から「コト」に移行していると言われるのでしょうか。おそらく、デザインの成果物が「有形」の「物」ではなく「無形」であることが増加していること、他方、意匠法の保護対象が旧態依然の「物品」であることに起因しているのであろう。
 

1.  昭和34年(1959年)当時のデザイン事情

 
 現行意匠法が成立したのは昭和34年。意匠は「物品の形態」であると定義し(意匠法2条1項)、大正10年法における「物品に関し」という定義よりも一層、意匠が物品の成立要素であることが明確にされました。すなわち、「デザイン」は物品に付加価値を付けるものではなく、物品の価値それ自体の要素であることが明確にされたといえるでしょう。
 
 さて、法改正が行われたのは、松下幸之助が「これからはデザインの時代」だと語ったとされる1951年から数年を経た時ですが、その当時の産業界は、模倣品の輸出が横行している一方で、デザイン開発を促進して「物」(商品)の製造を活発化することの必要性に迫られていました。
 
 このような事情を背景に、グッドデザイン(Gマーク)が1957年に始まり、それを追うように意匠法が改正されました。この当時意識されたのは、「工業的に量産される物」のデザインです。量産される物のデザインを保護すれば、工業・流通が活性化されるという時代であった。
 
 しかし、当時のデザインが「モノのデザイン」であって「コトのデザイン」ではなかったか、といえば、「コトのデザイン」でもあったと思います。有名な東芝の「電気釜」は、家事を楽にするという「コト」を提供したものでしょう。
https://www.toshiba.co.jp/design/pr/award/gmark/_index_19xx/1958_rc6k_10k.jpg
  

2. 平成18年改正(画像意匠)

 
 制定以来約60年を経過した意匠法。実質的な保護対象の拡大は「画像意匠」のみです。
 
 画像意匠は、電子計算機その他の機器のモニターに表示される画像であり、機器の操作の利便性を高めるためにデザインされるものです。使いやすいという「コト」があり、そのための「画像」です。「画像」は「無体」であって、「物」ではありません。そのために、意匠法では「画像」それ自体を保護するのではなく、「物品に表示された画像」を保護するという扱いです。意匠法はここで逃げました。
 
 思うに、この改正時に「無体のデザイン」の保護について深い議論がされるべきでした。峯は、「物品」という縛りがあるとしても、「プログラム」を「物品」に含めて解釈できると考えています。特許法では、「プログラム」を「物」に含めるという判断が集積し、法改正に至ってます。また、実用新案法では「物品」に不動産も含まれています。(DESIGNPROTECT 99号「意匠と物品の関係」)
 
 従来、「光」は意匠の構成要素ではない、例えば「ネオンサイン」は「光」によって表現されるので意匠登録の対象にはならない、とされていました。「画像」も「光」です。2条2項ではいわゆる「操作画像」だけを対象にしているのですが、「光」で表現されるものが登録の対象になる以上、「ネオンサイン」も対象になると思いますが、いかがでしょうか。
 

3. 「コトのデザイン」と意匠法

 
 前回を含め、このよう見ていくと、昔から「デザイン」は「コトのデザイン」であった。昔は、「コトのデザイン」は「物(物品)」のデザインに表現されていた。
 
 しかし、今・そしてこれからは、何となく言いくるめた「画像意匠」を筆頭に、「物」に表現されないデザインが増えていくだろう。それを「意匠法」としてどう考えるの...
か、ということになります。
 
 考える基本は以下と考えています。
 
  •  デザイナーの視点:「コト」の発見 →「コト」の解決手段の発明 →「モノ」の創作 
  •  需要者の視点:「モノ」との出会い →「モノ」から「コトの解決」を理解 →「コトの解決」
 
 意匠法における「物品」の解釈でどこまで行けるのか。解釈を拡張させたとして、それでデザイン保護の要請を満たせるのか。「コトのデザイン」にどう対応するか、という視点ではなく、デザイン活動の実態を把握して、議論する必要があると思います。
 
 
◆関連解説『技術マネジメントとは』

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