革新的アイデアに市場ニーズ評価は不要か?

 先日とある勉強会でステージゲート法の話をする機会をいただき、その中で「革新的アイデアには市場ニーズや提供価値評価は不適切である」という意見が出され、喧々諤々の大変興味深い議論がありました。この点について私の考えをお話したいと思います。

1.「革新的アイデアには市場ニーズや提供価値評価は不適切である」という主張

  具体的に言うと、そもそも革新的なアイデアは、「本質的に」現状では市場があるかどうかがわからないものであり、市場のニーズや提供価値を特定すること自体が革新的なアイデアを創出するという目的と矛盾する、また研究開発テーマの場合、事業化までは何十年も掛かり、初期のテーマ選定の段階では、市場ニーズ・提供価値の想定は難しい、という意見です。

 例えば、炭素繊維は最初から航空機の機体や翼に利用されることを想定して開発されたものではない。その証拠に、最初は釣竿やテニスのラケットにしか使われなかったという意見です。

 

2.革新的アイデアの市場ニーズは想定できないのか?

  確かに、数十年先の市場ニーズを特定することは困難です。特に生産財の市場は、新しい消費財の市場が生まれ、その為にその生産財の市場が生まれる場合が多く、その市場自体の影も形も無いということがあります。

 しかし炭素繊維の場合で言えば、既存の素材より遥かに軽量で強度があり、腐食にも強いという機能を持つことが期待されるのであれば、既存の素材を代替する市場があるということは容易に想像できますし、東レ等の企業は当然それを目的としていたはずです。また40年前でも、旅客機、高速列車、ロケットや大陸間弾道弾、高速道路を走行する自動車は既に存在していた訳で、想像力をたくましくすれば、市場ニーズはもとより、大まかな市場規模も算定することが可能であったと考えられます。ここで具体的な数値の正確性より、大きな市場か小さな市場かを感覚的に捉えることが重要でしょう。

 もっとも炭素繊維は、市場ニーズが想定しやすい例かもしれません。例えば、クレハは活性炭を自社のコア技術として、様々な用途に展開するという戦略をとっています。現在では、医薬やリチウムイオン電池の負極材としても、活性炭技術を事業展開していますが、活性炭をコア技術と決めた時に、リチウムイオン電池の負極材という用途を想定していたかというと疑問です。しかし、炭素という単一素材から作られますが、活性炭は体積あたりで膨大な表面積を持つという特徴を持ち、様々な機能をもつ大量の素材を吸着したり、放出したりする優れた機能を持ちます。そうであれば様々な化学反応において有用であるという点までは想定できます。

 

3.結論:初期の段階では「市場ニーズ・提供価値」は「市場における有用性」

  実際には、活性炭の例のように、研究開発当初では具体的な市場ニーズを想定することは困難である場合もあります。従ってこの段階では、その技術や製品が生み出す「市場」における「有用性」を評価の対象とするのが良いでしょう。その場合有用性の表現のレベルも、具体的なものからかなり抽象的なものまで、かなりの幅があると思います。例えば、炭素繊維の場合であれば、軽量高強度が一つの有用性ですが、対象分野を「重量当りの強度が○○以上の素材の代替」などとある程度は具体的になります。一方で、活性炭の場合は、上であげた機能以上での有用性の表現は難しいかもしれません。

 

4.問題なのは市場ニーズ・提供価値探索の...

思考・活動停止

  以上のように、評価の項目もその段階で、市場ニーズ・提供価値に関する具体的な評価内容も変えていくことが重要です。

 重要なことは、「革新的なアイデアは、「本質的に」現状では市場があるかどうかがわからないもの」と決め付け、そこで思考停止もしくは活動停止をしないことです。どのような段階のアイデアでも、対応する市場ニーズで出来る限り具体的に想像し、提供する価値を明らかにしようとする部分に、思考、エネルギー、活動を投入することが極めて重要なのです。それをしないと、研究開発中盤になって大きな問題を引き起こします。従って、初期であってもやはり評価項目には入れるべきなのです。

◆関連解説『ステージゲート法とは』

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