金属切削加工業界への新規参入 伸びる金型メーカーの秘訣 (その19)

 前回に引き続き、Y工業における、金属切削加工業界への新規参入の取り組みを紹介します。最近の金属加工業界は、エンドユーザーからの要求品質の高まり国内外含めた過度な価格競争総じて技術水準が上がり、難易度の高い加工品が増加するなどにより、従来と比べ益々厳しくなっています。これが全てではないですが、いわゆる生産管理用語でいうところの、QCDが強まっているということです。まさに新規参入を図る同社にとっては、いきなり高いハードルが立ちはだかっているのです。
 

1. 販路開拓

 
 同社にとって大きな課題であったことは、①販路開拓のきっかけがない、②具体的な引き合い案件がなく技術者教育における実践の場が得られないことでした。特に、技術者育成については、「知識」の習得と、「技能」のトレーニングの2つが必要となりますが、基礎知識の習得は筆者からの教育により進めることができても、技能のトレーニングについては、今後受注していく加工案件を想定したものが、本来は望ましいのです。しかし、同社には、まだ具体的な加工案件も無かったため、何を実践し技能の訓練を積めばよいかわからなかったのです。
 
  
 

2. 企業連携

 
 そこで、筆者のネットワークを活用し、①技術者教育、②販路開拓、それぞれについて対応していくことにしました。技術者習得については、以前本連載に登場したU精機と連携し、同社の担当者がプレス金型の設計から加工までについて学びました。また、販路開拓については、これも以前登場した株式会社Pとの連携により、同社が導入した5軸加工を活かせる仕事の受注獲得を図りました。これについては、それぞれの会社にメリットがなければいけないので、その点も含め、具体的な取り組み内容について次に述べます。
 

3. 短期間で金属加工を事業化

 
 以前紹介した通りU精機は、プレス金型の製作だけでなく、試作板金から単品部品加工なども請け負う幅広い対応を行う金型メーカーです。これは今後、5軸マシニング(以下、5軸MC)を活かし、幅広く金属加工を受注していこうとする同社にとって、まさに良いお手本となるのです。そこで、これまでプリント基板の穴あけ加工をメインに行なってきた同社であるが、今後短期間で金属加工を事業化させるため、担当者を1年間U精機に出向させることにしました。
 
 またその出向と共に、同社が導入した5軸MCは、同じく1年間、U精機の工場に設置することとし、出向者と共にお世話になることになったのです。U精機(株)にとって課題となっていたことは、金型製作における設計担当者を計画的に育成することでした。今回、同社が3次元CAD/CAMを活用した5軸加工を進めていくにあたり、出向者の教育計画が必要になりました。そこで、3次元CAD/CAMの操作の習得をはじめ、U精機の工場で仕事をするための金型設計ノウハウの習得などについて、一連の教育内容を体系化し、今後U精機の社内でも使える教育資料としてまとめることにしたのです。
 
 これにより、今後U精機としては、3次元設計ができる担当者を計画的に育成していく教育カリキュラムを作ることができました。また、同社としても、今後開拓する受注案件として、受け取った図面の加工だけでなく、金型及びその構成部品の加工について、設計から着手することで、請け負う仕事に付加価値を与えることができるのです。
 
 金型製作の業務は、ルーチンワークではなく応用力が問われるため、作業の標準化も必要だが、KYT(危険予知訓練)に近いトレーニングが必要となります。例えば、金型設計やその機械加工などにおいて、その腕の良し悪しは、どれだけ加工後に発生する諸問題を予測できるか、またその対処の引き出しをどれだけ持っているかで決まってきます。
 
 例えば、マシニング加工におけるワークの段取り作業については、正しい手順、よくある失敗例までを指導します。さらにその失敗した段取りから金型におけるどのような不具合影響が起こるかを、出向者出向者が考えるのです。そしてその事象の裏づけとなる知識まで指導を受け、それをまとました。出来上がった要領書は、U精機にとっても財産となり、このWin-Winの関係こそが今回の連携の最大の目的でした。
 

5. 大学との連携

 
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今後は筆者のネットワークを通じて、さらに連携する企業の数を拡大していく計画です。そこに必要とされるのは、個々の企業に不足しているリソースの相互補完であり、そこにWin-Winの関係が生まれるのです。逆に頼るだけの依存性の高い関係を求める企業が参加することは、その関係崩壊になりかねないのです。そうした意味で、まず単工程としてより高い技術的付加価値を得ていくため、同社は大学との連携により、同業他社よりも一歩さらに進んだ切削加工技術にチャレンジしています。こうした様々な連携活動により、成熟の進んだ金属加工業界での早期の成功を目指す同社に、筆者は大きな期待をしています。
 
 この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「型技術」掲載』の記事を筆者により改変したものです。 
  
◆関連解説『生産マネジメントとは』

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