キャリアパスの複線化とは (その2)

 副業を超えた「複業」は、従業員だけでなく企業にもメリットがあり、そして少子高齢化が進む日本の社会全体にも貢献するトリプルウィンです。近江商人のモットーである「売り手よし、買い手よし、世間よし」の“三方よし”を実現する施策と言えるでしょう。本稿では、複業の効用と実現の課題を多角的に論じます。前回のその1に続いて解説します。
 

3. 複業を推進する上で解決すべき課題

 キャリアパスの複線化とは (その1)では複業のメリットを挙げましたが、複業を推進することで企業に生じる課題もあり、これを解決できなければ複業は絵に描いた餅になってしまいます。課題は大きく、労働の量と質、風評、利益相反の4つがあり、その原因と対策を図3にまとめました。
 
図3.複業を推進することで企業に生じる課題
 
 「労働の量」に関する課題には、・超過勤務を命じられない・打ち合わせをしにくいという二つの原因がありますが、前者は超過勤務で納期に間に合わせるという考えがあります。その対策は「超過勤務は悪である」という考え方を企業文化とすることです。
 
 経営の視点から見ても、超過勤務に対しては賃金をは賃金を割り増しする必要があることから、残業や休日出勤を極力減らす努力をすべきです。従業員としても、メリハリのある仕事をすることで、時間的な余裕もでき、業務の質がよくなることが期待できます。超過勤務を厭わない従業員を厚遇する傾向が見られますが、賃金の割り増しで報いますので、人事考課でさらに上積みするのは考えものです。同一の業務であれば、短時間で終えた従業員に対してより報いるべきです。とはいえ、超過勤務をなくすことは、一朝一夕には出来ません。
 
 残業ゼロに取り組んだ事例としては、未来工業株式会社、トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社、株式会社ランクアップなどがあります。いずれにしてもトップが確固たる意志を持ち、超過勤務をなくすことに精力を傾ける必要があります。打ち合わせは、通勤時間が非常に長い都市部で特に問題となります。顔を合わせての仕事を前提とすると、複業が非常に困難になります。そこで、在宅やサテライトオフィスでの勤務を認め、IT(情報技術)を活用してオンラインで打ち合わせすることが肝要となります。
 
 インターネットの発達により、オンラインミーティングは高性能で安価になりました。使いやすく、しかも無料のサービスもあります。移動と通信のコストを大きく削減しながら、複業の効果を高めることができます。「労働の質」については、複業で疲労してしまうことが原因です。事後対応的ではありますが、有効な対策は日常の労務管理です。従業員は労働の対価と...
して賃金を得ている訳ですから、複業の有無とは関係なく、業務の遂行に支障があるようならば帰宅させるという対処が必要です。
 
 複業により労働の質が常に低くなるようであれば、複業許可の取り消しも含めて検討します。しかし、複業許可を取り消した場合は士気が大きく下がる恐れがありますので、許可する前に複業に要する工数や肉体的・精神的な疲労の見込みなどをよく確認しておく必要があります。「風評」と「利益相反」については、複業の申請時点でチェックできます。申請書に、複業によって自社に風評被害をもたらさないことと、複業先は自社と競業しないことの誓約を盛り込むといいでしょう。
 

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