開発工数メトリクス2 プロジェクト管理の仕組み (その22)

 今回は、進捗管理に直接関係する分析例を見てみましょう。
 
図56. アクティビティ重心推移
 
 図56は「アクティビティ重心」の推移を示しています。アクティビティ重心とは観測時点におけるアクティビティ(開発工程)ごとの工数の加重平均をとったもので、プロジェクト(任意のブロックでもかまいません)のその時点において開発工程上のどこに多くの工数がかかっているのか(重心)を示しています。その時間推移をあらわしている図56を使うと、プロジェクトにおける作業の重心が時間とともに開発工程上をどのように推移しているのかを知ることができます。構想からはじまって、設計や試作製造、評価などの作業を経て、18ヶ月目で製造移管(工場への移管)が行われたことがわかります。
 
 アクティビティ重心推移グラフは、直感的に進捗の履歴(軌跡)を把握できるところが優れています。図56の実績値(赤線)を見ると、途中、設計工程への手戻りを3回程度繰り返したことがわかります。開発期間短縮のためには手戻りをなくすことは必須ですから、このプロジェクトは改善の余地が大きいと考えることができます。そして、進捗管理の良し悪しは、この設計手戻りをいかに浅くして元の軌道に戻すことができるのかを問われることになります。
 
 さらに、図56ではアクティビティ重心の計画値と実績値とを比較していることに注意してください。計画値と実績値とを比較できるようになっていることが進捗管理の基本の仕組みです。先ほどは、3回も設計手戻りを生じているので改善の余地が大きいと言いましたが、計画値と実績値の比較結果からすれば、それはあまりに単純な分析であることがわかります。それでは図56に示すプロジェクトの場合はどう分析できるでしょうか。
 
 図56のアクティビティ重心の計画値(青線)をみると、もともと5ヶ月目、8ヶ月目、12ヶ月目に3回の設計への手戻りが計画されていたことがわかります。実は、設計試作、製造試作、量産試作という3回の試作を計画していたのです。もちろん、試作回数を減らすようにというトップからの要求はあるのですが、少なくともこのプロジェクトは計画段階で3回の試作を行うと宣言したのですから、実績で3回の設計への手戻りがあることは問題ではないことがわかります。
 
 さらに計画値と実績値を比較すると、試作の設計タイミングが遅れていることがわかります。実績値では設計への手戻りは、9ヶ月目、13ヶ月目、16ヶ月目となっていますが、計画では5ヶ月目、8ヶ月目、12ヶ月目です。したがって、3回の試作に取りかかるタイミングがそれぞれ4~5ヶ月遅れているということです。進捗管理の観点からは、最初の試作が4ヶ月も遅れることになる前に手を打っておくべきだったということでしょう。実際このプ...
ロジェクトの場合、量産試作の設計が十分でなかったため製造移管後に様々な製造上のトラブルを発生させてしまいました。
 
 今回紹介したのは比較的単純な例ですが、開発工数メトリクスによって、プロジェクトメンバーがどのような作業をやっているのか、そして、メンバーの振る舞いの集合体であるプロジェクトがどのような状況にあるのかを把握できることがわかっていただけたのではないかと思います。
 
 次回は、開発工数メトリクスのもう少し複雑な例を解説します。
 
 
◆関連解説『技術マネジメントとは』

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