RoHS指令:新環境経営(その10)

 新環境経営への取組みについての話題を提供するに当たり、前回から有害物質管理について解説しています。今回はRoHS指令について、解説します。
 

1. RoHS指令への対応

 RoHS指令で使用が制限される物質は、Pb(鉛)、Cd(カドミウム)、Cr6(6価クロム)、Hg(水銀)、PBB(ポリブロモビフェニル)、PBDE(ポリブロムジフェニルエーテル)の6物質です。これらの物質は、それぞれに優れた特性を有し、工業製品にも便利に使われてきたものですが、一方で人体には有害で、廃棄物として地球上に拡散すると公害を引き起こすことが解っています。
 
 この様な規制が始まると、生真面目な国民性の日本は、一斉に先を競って走り始めました。まず大手企業は、設計段階で制限物質が入り込まない様に、部品メーカーに非含有を要求し、非含有証明書の提出を求めました。又、組み立てられて納品される物に対し、6物質が含有していないことの分析検査を求めました。大企業自らも非破壊を行い、非含有を担保する仕組みを作りました。現在も、この取組みは世界中で多大な労力を要して続けられています。
 

2. RoHS指令で鉛の使用が制限されたことにより発生した問題

 RoHS指令が発効されて、世界的なレベルで問題となったのが「はんだメッキ」のウィスカ(猫のヒゲ)問題です。「はんだメッキ」は電子機器の微細回路の接続に必須のものですが、スズの単結晶であるウィスカの発生によって、隣り合う回路が短絡状態になり、誤動作を起こすものです。
 
 RoHS指令の流れが起こる以前は、「はんだメッキ」はスズと鉛の合金で、鉛の柔らかい特性をうまく使うことで、ウィスカの発生を抑え込んできましたが、鉛が使えなくなることで、スズの単結晶がいたずらを始めたのです。特にコネクター等の接続部で接触圧等の応力がかかるところで問題が発生しました。
 
 1980年代に電話交換機の筐体内で、スズの単結晶による短絡事故が発生しました。以来、鉛を適切に利用することで問題の発生を抑えこんできましたが、鉛の使用制限により、再び課題として浮かび上がってきたのです。ウィスカを完全に抑え込む技術は見つかっておらず、引き続き、代替物質の探索、使い方の工夫が続けられています。
 
 尚、鉛の使用を制限することに対し、「有害物質として管理すればよい。逆に鉛が使えないことで、新たに使用される物質は本当に安全なのか」との懸念も出されています。例えば鉛の代替物質として使われるインジウムなどについては有害性の評価は十分でなく、鉛より有害との報告もあります。又、RoHS指令自体が、環境政策に名を借りた非関税貿易障壁との考えもあります。
 

3. RoHS指令の動向

 RoHS指令は、これまでは、CAT1:大型家庭用電気製品、CAT2:小型家庭用電気製品、CAT3:IT及び通信機器、CAT4:民生機器、CAT5:照明装置、CAT6:電気電子工具、CAT7:玩具、レジャー・スポーツ用品、CAT10:自動販売機、が対象でしたが、2014年7月から、CAT8:医療機器、CAT9:監視及び制御機器にも適用が広がりました。
 
 RoHS指令への対応をめぐるフォーラムで、会場より以下の様な質問がありました。「RoHS指令では鉛の含有量をPPM単位で抑え込んで、EUに鉛が入り込むことを制限しているが、一方、ヨーロッパの屋根は鉛で溢れている。又...
、日本でもまだ鉛管がたくさん残っている。その様な状況で、今のRoHS指令に意味があるのか」でした。これに対し、RoHS指令等の基準作りに関わり、5年間ブラッセルに駐在されていたエキスパートの方の応答は、「国際会議で基準を決めるにあたり、質問の様な議論はたくさんあった。それでも規制を進めなくていいことにはならない。又、EUは物を作っていないので、結局、EUに物を売りたい側に規制が押し付けられている。」この質問は、多くの日本人が抱く、疑問、不満ですが、結局、輸出で稼がざるを得ない立場の日本としては、粛々と対応するしかないこととなっています。
 
 次回は、REACH(Registration,Evaluation,Authorization and Restriction of Chemicals)について紹介します。
 

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