‐販路開拓に関する問題事例‐ 製品・技術開発力強化策の事例(その19)

 前回の事例その18に続いて解説します。多額の資金と労力を費やして開発した知的財産をどのように活用して販路開拓に結びつけるのか、大変重要な問題ですが、販売方法に関する経験が乏しく泣き寝入りに陥っている例が多いので、販路開拓に関する問題の事例を紹介します。
 

1.市場占有率の高さに油断した例

 精密測定機で世界の市場をドイツの企業と二分して独占に近い状態で事業を行っていた関西の中小企業が存在していました。競争相手が存在しないことから、その企業は明らかに割高と見られるような価格で販売していました。つまり、市場を支配していることから油断してコストダウンを怠っていたのです。この状況に着目した異業種の中堅企業が半値に近い価格で類似の製品を開発して市場に送り出してきました。その結果価格競争に敗北したこの企業はその後2年間で廃業に追い込まれました。
 
 如何に優れた技術の特許製品であっても、コストダウンの努力を怠っていると、その隙を狙って競合品が必ず出現します。同様に品質面の改革も怠ると後発に追い上げられる羽目に陥ることもあります。特許を取得していても、特許に抵触しないように巧みに構造面での工夫をして攻めてくる企業もあります。特許で防衛するだけでなく、コスト、品質、納期に渡って改革を怠ると痛い目に遭うことになります。この事例の企業は該当の製品以外に生産品目がなく、次の製品開発を怠ったことも大きな問題点です。
 

2.共同開発の約束がほごになり経営持続不能に

 中堅企業で工業資材を生産しているメ-カ-と研究開発主体で事業を行っているA企業の間に発生した問題です。某中堅企業は新分野に参入する事が年度方針になっていました。工業資材に特殊な計測器を組み合わせて販売すると、ユ-ザ-の生産性向上に寄与することから、その計測器を開発してくれる企業を探していました。その新製品開発に関して独特の着想で開発する構想を持っているA企業の存在を知ったのが、中堅企業の営業部長です。
 
 関心を抱いた営業部長はA企業を何回も訪問し、A社長に企業連携の協力を要請しました。最初は半信半疑であったA社長は、やがて信用するようになって本気で企業連携に取り組む方向で検討を始めました。暫くして営業部長から、「当社で役員会を兼ねて製品開発の検討会が行われるから、その場で開発に関する構想の技術的な可能性を説明をして欲しい。いくつかの開発案件が候補に上がっていて、A企業の計測器が有力候補に上がっているが、最後の詰が必要である」と申し出がありました。A社長は快く引き受け、役員会で開発の構想、技術的な可能性とそれに要する資金と期間、などの説明をしました。その後、数日して営業部長がA企業を訪問し「早速開発に着手し、6ヵ月後には製品を市場に送り出せるようにして欲しい。販売の予想量は最初の月は○○台であり、6ヶ月後には○○台になる計画をしている。生産体制もそのつもりで準備して欲しい。開発と生産に必要な費用の負担はA企業で担う事。約束した数量については責任を持って引き取る」など、支払条件も有利な条件が話されました。
 
 A社長は、そのような申し出を快諾し、早速取り組む事にしました。生産面は、A企業での対応は無理なので親しくしていたB企業に生産面の分担を依頼し、A企業では開発に全力を投入する事にしました。その後、何回か営業部長がA企業を訪問し、進捗状況を確認する事が続きました。開発品がほぼ完成したころになって、営業部長の訪問が途絶え、確認の電話を入れても不在となり、不安が一気に増幅しました。その後の情報で判ったことは、新製品を扱う方針が急遽変更になり、輸入品が採用され、A企...
業の開発品を扱う事は中止になりました。又、営業部長は、転勤になりました。
 
 A企業に対しては迷惑をかけたとの理由で手切れ金が支払われましたが、開発に投入した費用の1/3程度であったため、資金繰りに行き詰り、A企業は生き残る方法はないかと検討を行いました。その時、問題になった事は、開発依頼が行われるに至った経緯を記述した文書の存在です。そのような正式な文書が存在せず、営業部長を信じて行動した事が大きな問題でした。裁判にかける事を検討して、弁護士にも相談しましが、証拠になる正式な文書がなければ主張を正当化できません。A企業は、このことが原因で、廃業してしまいました。議事録等の正式な文書は、出席者の氏名とサインが行われている事で、証拠資料になります。技術的なノウハウを利用されることなく、共同開発を軌道にのせるには、いくつもの課題を慎重に解決することが重要です。
 

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