「キャリア形成」とは

キャリアには、大きく分けて3つの考え方があります。1つ目は、1つのテーマを長期的に一貫して追求する基礎研究、教師、職人などの専門職型キャリアです。2つ目は、予め自分でキャリアプランを練ってそれを一歩一歩クリアしていくというものです。 3つ目は、企業や社会環境に身を任せて、その場その場でよりベストなキャリアを選択するものです。今、この3つ目の考え方が脚光を浴びています。クルンボルツ博士の「計画された偶発理論(Planned Happenstance Theory)」というものです。

この重要な考え方であるPlanned Happenstance 理論は、次のように定義されています。「環境変化が激しい時代においては、想定外の出来事で計画を変更せざるを得ないことが多い。従来の固定的なキャリアデザインでは対応できない。この予期せぬ出来事や偶然の出来事が人のキャリアに大きな影響を及ぼすことに着目して、想定外の出来事を否定的に捉えず望ましいものであるとし、キャリア形成のチャンスと捉えること。」

そして、偶然の出来事をPlanned Happenstanceに変換するスキルは次のようなものとしています。

  • ①好奇心
  • ②持続性(失敗にめげず努力し続ける)
  • ③柔軟性(姿勢や状況を変える)
  • ④楽観性(新しい機会は必ずやってきて、自分のものにできる)
  • ⑤冒険心(結果がどうなるか見えない場合でも、行動を起こす)                

 

これら5つのスキルは、単に幸運な偶然を待つためのものではありません。「計画された」という言葉が示す通り、自らの行動や心のあり方を整えることで、偶然を意図的に引き寄せ、キャリアを豊かにするための能動的な力なのです。

 

まず「好奇心」はすべての始まりです。専門外の分野や多様な価値観にアンテナを張ることで、思いがけないチャンスを見つけられます。次に「持続性」です。挑戦に失敗はつきものですが、努力を止めないことで新たな偶然の扉が開きます。

 

そして、現代で特に重要なのが「柔軟性」です。かつて描いた目標に固執すると、目の前の新しい機会を見逃してしまいます。状況の変化に応じて目標をアップデートするしなやかさが不可欠です。さらに、変化を乗りこなす原動力となるのが「楽観性」です。「想定外の事態も、必ずプラスの経験になる」という前向きな姿勢が、不安を期待に変えます。最後に「冒険心」です。結果が保証されていなくても、居心地の良い場所から一歩踏み出しリスクを取ることで、人生を劇的に変える偶然に出会う確率が高まります。

 

この理論が示唆する重要なメッセージは、キャリアは「完全にはコントロールできない」一方で、「自らの行動で切り拓ける」ということです。最初から完璧な計画を描く必要はありません。むしろ、計画通りに進まないことを前提とし、その時々の出会いや出来事を面白がりながら、柔軟に自分の道を軌道修正していく姿勢が、結果として満足度の高いキャリアに繋がるのです。

 

現在、私たちは将来の予測が困難な時代を生きています。昨日までの正解が明日も通用するとは限らない社会において、「自分はこの道しかない」と視野を狭めるのはリスキーです。だからこそ、日常の中で意図的に多様な人と交流し、新しい学びに触れ、未知の経験に対して「とりあえずやってみよう」というオープンな姿勢を持ち続けることが求められます。

 

結論として、「キャリア形成」とは、一本の決められたレールを進む単純な作業ではありません。それは、時に回り道をしながら、数え切れない偶然の出来事を拾い集め、自分自身の経験として紡ぎ合わせていく創造的なプロセスです。予測不能な未来を恐れるのではなく、自らの好奇心と冒険心を羅針盤とし、偶然をチャンスに変えていく力を身につけること。それこそが、これからの時代を生き抜くための、最も豊かで強靭なキャリア形成のあり方なのです。

◆関連解説記事『リストラに負けない ! 研究/技術者のキャリアデザイン』

 


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