アトリビュートマトリクスとは? 作成から活用まで、わかりやすく解説
1. アトリビュートマトリクスとは
アトリビュートマトリクスとは、コロンビア大学のマグレイス教授とペンシルバニア大学のマクミラン教授によって提唱された、商品やサービスが顧客を満足させる特徴を持っているかをチェックする方法です。 その手順は、自社の商品・サービスを顧客視点で見た時に、基本的特性、優勢的特性、決定的特性に対してそれぞれ肯定的立場・否定的立場・中間的立場で自己評価して、8つのセル(決定的×中間はない)に記述することで特徴を分類します。 同じ商品・サービスであっても、対象となるセグメントや、時間経緯で評価が大きく変化する可能性がある点は注意が必要です。
2. アトリビュートマトリクスの作成
アトリビュート・マトリックスの作成は、自社の商品やサービスを顧客の視点で見た時に、基本的な特性、優勢的な特性、決定的な特性に対して、それぞれ、肯定的立場、否定的な立場、中間的立場で、評価を行って、8つのマトリックスに記述します。
3. アトリビュートマトリクスの活用
アトリビュート・マトリックスの活用ポイントは次の2点です。
(1)分析結果を活かし、商品サービスの特性を変更する
優勢的特性、決定的特性のうち、否定的立場(顧客が嫌う特性)と交差する領域に当たる場合は、機能不足なら強化、機能欠落なら追加の対策をしなくてはなりません。
(2)分析結果を逆手にとったマーケティング戦略を立てる
決定的特性との否定的立場(顧客が嫌う特性)の交差領域に自社商品やサービスの特性に関して劣っている機能が発見された場合、これから開発を始める場合は特性変更が可能であるが、すでに開発を終えて市場投入がなされている場合には変更が困難です。
4. アトリビュートマトリクス活用のための具体的なステップ
アトリビュートマトリクスを単なる分析ツールで終わらせず、具体的なマーケティング戦略へと昇華させるためには、いくつかのステップを丁寧に進めることが重要です。分析結果をチーム全体で共有し、議論を深めることで、より効果的なアクションプランが生まれます。
【顧客ペルソナの詳細化】
アトリビュートマトリクスを作成する前に、対象となる顧客を深く理解する必要があります。年齢、性別といった基本的なデモグラフィック情報だけでなく、価値観、ライフスタイル、購買動機、さらには商品やサービスに対する潜在的な不満や期待といったサイコグラフィック情報まで掘り下げた顧客ペルソナを具体的に描きます。同じ商品でも、ペルソナが変われば評価は大きく変わるため、このステップは分析の精度を決定づけると言っても過言ではありません。
【データ収集と客観的評価】
分析を始める際は、直感や主観に頼るのではなく、客観的なデータに基づいて評価を行うことが不可欠です。市場調査、顧客インタビュー、アンケート、ソーシャルメディアの分析など、多様なチャネルから情報を収集します。例えば、アンケートで「この商品の機能についてどう思いますか?」と尋ねるだけでなく、「この商品のどんな点が不満ですか?」といった否定的な視点からの質問も盛り込むことで、顧客が嫌う特性を浮き彫りにできます。これにより、決定的特性の否定的な領域を正確に特定し、改善の優先順位をつけられます。
【マトリクス上での可視化と優先順位付け】
収集したデータを基に、アトリビュートマトリクスを完成させます。各セルに記述する際は、定性的な情報だけでなく、定量的なデータも併記すると議論が深まります。例えば、「操作性が悪い」という定性的な評価に加え、「アンケートで80%のユーザーが操作性の改善を求めている」という定量的なデータを記載することで、問題の深刻さをチーム全体で共有できます。次に、マトリクス上の各特性について、改善の緊急度と重要度を検討します。特に、顧客が嫌う特性(否定的立場)のうち、商品やサービスの根幹に関わる決定的特性に該当するものは最優先で対処すべき課題となります。
5. アトリビュートマトリクスを活かしたマーケティング戦略
分析結果に基づいて、具体的なマーケティング戦略を立案します。ここでは、単に改善するだけでなく、その結果をいかに市場に訴求するかに焦点を当てます。
【 弱点を強みへと転換するコミュニケーション戦略】
分析の結果、競合他社に比べて自社の弱点だと考えられていた特性が、実は特定の顧客層にとってはメリットになりうることがあります。例えば、高機能で複雑な操作性を持つ競合に対し、あえて機能を絞り込んだシンプルで使いやすい製品は、テクノロジーに不慣れな層にとっては大きな魅力となります。このようなケースでは、「シンプルさ」「使いやすさ」という価値を前面に押し出したプロモーションを展開します。弱点を隠すのではなく、特定の顧客層に向けた強みとして再定義し、コミュニケーションの軸とすることで、新たな市場を切り開くことができます。
【顧客の潜在ニーズを掘り起こす商品開発】
アトリビュートマトリクスは、顧客自身も気づいていない潜在的なニーズを発見するヒントを与えてくれます。基本的な特性の肯定的立場にあるものの、決定的特性にはまだ至っていない特性に注目してみましょう。これは、顧客が当たり前だと思っている機能ですが、もしその機能が欠落したら大きな不満につながる可能性を秘めています。例えば、スマートフォンのバッテリー寿命が長く、充電回数が少なくて済むことは、多くのユーザーが当たり前だと感じています。しかし、もしこのバッテリー寿命が著しく短くなったら、それは決定的特性の否定的な側面へと一気に転落します。
この潜在的なニーズを先回りして満たすことで、競合との差別化を図ることができます。例えば、競合製品が提供していない、より進化したバッテリー技術を搭載したり、充電の手間をゼロにするような新しいソリューションを提供したりする「一歩先の価値」を創造するのです。
【 多様性を活かしたチーム体制の構築】
アトリビュートマトリクスの真価は、多様な視点を持つメンバーが議論を交わすことで発揮されます。開発者、マーケター、営業担当者、カスタマーサポートなど、様々な部署のメンバーが参加することで、異なる視点から商品やサービスを評価できます。開発者は技術的な観点から、営業担当者は現場での顧客の生の声から、カスタマーサポートは顧客からのクレームや問い合わせの内容から、それぞれが独自の評価を持ち寄ることで、より立体的な分析が可能になります。この多様な視点のぶつかり合いこそが、革新的なアイデアを生み出す土壌となるのです。
6. まとめ
アトリビュートマトリクスは、日本での導入はあまり進んでいるとはいえませんが、開発者とマーケターなど、多様性のあるメンバーでチームをつくり、顧客の視点で評価を行うことによって、商品やサービスの付加価値を上げることが可能となります。アトリビュートマトリクスの本質は、自社の商品やサービスのどこにフォーカスして新しい特性を見つけたり、新しい解釈を考えたりすべきかを明確にできる点にあります。