「3次元スキャナ」とは、キーワードからわかりやすく解説
1. 「3次元スキャナ」とは
3次元スキャナとは、対象物の立体形状を3Dデータとして取り込む装置で、対象物にセンサーを直接あてながら座標を測定していく接触式と、レーザー光の反射などを使う非接触式があり、いずれも3次元座標をデータとして取り込んで「ポリゴンデータ」という立体のデータに変換します。 接触式のスキャンは精度が高いというメリットがある一方で、その分測定に時間を要します。 対象物に非接触でレーザー光をあてるタイプでは、対象物から反射するレーザー光を三角法で解析して対象物までの距離を計測し、縞模様のライン光を照射するタイプは、ラインのパターンを解析して、スキャナから対象物までの距離を計測し、高速で処理します。
2. 「3次元スキャナ」の特長と活用
(1)特長
接触・非接触式の自由度が高い測定が可能。多関節アームで、あらゆる方向からのレーザースキャニングが可能。
(2)活用事例
- 補修部品を三次元データ化(複製製作データ取得)
- 人体等の形状を三次元データ化
- 良品と不良品の形状を三次元データ化(形状比較検証)
- 部品等の三次元データ化
- 三次元プリンタ等で成形する(リバースエンジニアリング)
3. 3Dスキャナーの種類と価格
(1)ハンディタイプ
ハンディタイプの3Dスキャナーは、手に持って操作する比較的小型で軽量の機種です。持ち運びが容易なので、屋外や製造現場などでも場所を選ばずスキャンすることができます。初心者やパーソナルユースに向いたエントリーモデルから、高精度のスキャンや大型の対象物のスキャンが可能なモデルまで、価格帯としては10万円から500万円までの幅広い製品があります。
(2)デスクトップタイプ
デスクトップタイプの3Dスキャナーは、一定の場所に設置して使用する据置き型の機種です。ハンディタイプよりスキャン範囲が限られるため、小型から中型の対象物に適しています。こちらも価格帯は10万円以下から300万円程度までと幅広く供給され、中小企業や研究機関などでよく使用されています。
(3)工業用のハイエンド機種
工業用のハイエンド3Dスキャナーは、自動車、航空宇宙をはじめ高い精度・性能が求められる産業で、リバースエンジニアリングや品質検査・管理などの用途に多く使われています。このような用途の要求を満たす機種は、300万円から1000万円以上の価格帯となります。他のタイプの3Dスキャナーと比べて極めて高い性能を持ち、大型や複雑な形状の対象物も高精度でスキャンできます。またスキャン速度が速いため、作業効率の面でも優れています。
4. 3次元スキャナの動作原理と主な技術
3次元スキャナは、その方式によっていくつかの主要な動作原理に分類されます。前半で触れた接触式と非接触式のそれぞれについて、より詳細な技術を見ていきましょう。
(1)非接触式:光学技術を利用したスキャニング
非接触式は、光やレーザーを利用して対象物の形状を計測するため、対象物を傷つけることなく、また高速でデータを取得できるのが最大の特長です。
レーザー三角測量方式 (Laser Triangulation)
この方式は、点または線状のレーザー光を対象物に照射し、その反射光をカメラセンサーで捉えます。レーザー光源、反射点、カメラセンサーの位置関係は既知であり、カメラが捉えた反射光の位置の変化(ずれ)を三角関数を用いて解析することで、スキャナから対象物表面までの距離を算出します。この距離情報が3次元座標となります。一般的に、レーザーラインを面状に照射し、それを高速で移動させることで、広範囲を一気にスキャンします。精度と速度のバランスに優れており、多くのハンディタイプやデスクトップタイプで採用されています。
構造化光方式 (Structured Light)
プロジェクターを用いて、縞模様やグリッドといった特定のパターン(構造化光)を対象物に照射し、そのパターンが対象物の凹凸によって歪んだ様子をカメラで捉えます。この歪みのパターンを解析することで、対象物の表面形状を計測します。この方式は、一瞬で広範囲のデータを取得できるため、人体のスキャンや動いている物体の計測に適しています。レーザー方式と比較して、一般的に色情報(テクスチャ)も同時に取得しやすいというメリットもあります。
タイム・オブ・フライト方式 (Time-of-Flight, ToF)
レーザーパルスを対象物に向けて発射し、そのパルスが対象物に当たって反射し、スキャナに戻ってくるまでの時間(Time of Flight)を測定します。光の速度(c)は既知ですから、測定した時間(t)から対象物までの距離(D)を D = (c \cdot t) / 2 の式で非常に正確に計算できます。この方式は、長距離の計測に強く、建設現場や大規模な工場、地理情報の取得(LiDAR)など、大型の対象物や広範囲のスキャンに多く用いられます。
(2)接触式:物理的な接触による高精度測定
接触式スキャナは、対象物にプローブ(接触子)を物理的に接触させ、そのプローブの位置を高精度に読み取ることで3次元座標を取得します。
CMM (Coordinate Measuring Machine) の利用
プローブの先端を対象物の表面に接触させ、プローブが取り付けられたアームの関節の角度や、X, Y, Z軸上の移動距離をエンコーダーで正確に計測します。非接触式に比べてスキャン速度は劣りますが、数マイクロメートル(μm)レベルの極めて高い精度で計測できるため、自動車や航空宇宙部品などの品質検査・管理といった工業用のハイエンドな用途で不可欠な技術となっています。
5. 3次元スキャナの課題と今後の展望
現在、3次元スキャナは目覚ましい発展を遂げていますが、依然としていくつかの課題が存在します。
課題
- 透明・光沢面への対応: ガラスのような透明な対象物や、鏡面のような光沢が強い表面は、光やレーザーが正しく反射しないため、正確なスキャンが難しいという問題があります。これらの対象物をスキャンする際は、対象物に専用のマットスプレーなどを塗布する前処理が必要になることがあります。
- データ処理能力: 高精度なスキャンデータ(点群データ)は非常にデータ容量が大きく、その後の処理や編集、保存に高性能なコンピューターと時間が必要です。
- ノイズとアーティファクト: 環境光の影響やセンサーの限界により、不必要な点(ノイズ)や測定エラー(アーティファクト)がデータに混入することがあり、これを除去する作業が必要になります。
今後の展望
- AI・機械学習との統合: 今後、取得した膨大な点群データをAIが自動で認識し、ノイズ除去、欠損部の自動補完、必要な形状への自動変換(例:CADモデルへの変換)を行う技術が発展すると期待されています。これにより、後処理の工数が大幅に削減され、作業効率が向上するでしょう。
- 高速・高解像度化: センサー技術の進化により、さらに高速かつ高解像度でのスキャンが可能になり、リアルタイムでの動的計測や、微細な部品の検査がより容易になります。
- 低コスト化と普及: 現在ハイエンド機種で採用されている高性能技術が、時間の経過とともに低コスト化し、より安価なコンシューマー向け製品に組み込まれることで、教育、ホビー、一般家庭での利用がさらに加速すると予測されます。特にスマートフォンやタブレットに搭載されるLiDARセンサーの性能向上は、その普及を後押ししています。
3次元スキャナは、デジタルツインの構築や、現実世界の情報をデジタル化するデジタルトランスフォーメーション (DX)の推進において、欠かせないキーテクノロジーとしての役割を一層強めていくでしょう。