ゴミを可視化してクリーン化

 前回、クリーンマットの選定についてを解説しました。今回は、ゴミの可視化です。クリーンルーム内では、当然ゴミは少ないはずです。と言うよりは、そう思い込んでいると思います。例えば、防塵衣を着ているからとか、エアシャワーを浴びているからという思い込みや習慣で日々過ごしていないでしょうか。その積み重ねから大丈夫なはずだと言う先入観が育ってしまいます。これはクリーンルームの管理ではなく、成り行き任せですね。

 本当はどうなのかをいつも考えなくてはいけません。又考える人がいなくてはいけません。クリーンルームやその付帯設備(エアシャワーなど)の中では、外の感覚を持ったまま入ってしまうとゴミにはあまり気付きません。でもクリーンルームにした理由は、より細かなゴミを管理の対象にしたいためですから、外の感覚をそのまま持ち込むのではなく意識も変えなくてはいけません。そこで、ゴミを可視化して、意識を高めたと言う事例を紹介します。

 ある会社に行きましたら、クリーンマットを30㎝角位に切って、エアシャワーの内壁に貼ってあるところがありました。その表面は、埃が付着し真っ白になっていました。現場を案内してくれた管理職の方は、エアシャワーの中は埃で汚れていることを、作業者に知らせたい為にこんなことをやって見たところ、女性たちがエアシャワーを浴びながら、「エアシャワーの中は埃だらけなんだね。こんなに汚れているところでエアシャワーを浴びていて効果があるのかしら」と言ったとのことです。この会社では、本当はどうなのかを考える人がいたというわけです。

 とかく「エアシャワーをきちんと浴びなさい。そしてその汚れをクリーンルームに持ち込まないようにして下さい」と口だけで指示することが多いものです。よく、促しは命令の第一歩と言います。しかし、促しで行動に移す人がどれだけいるでしょうか。そして、今の若いものは、“言われなければ動かない”だけでなく、“言われても動かない”とつい愚痴が出ていないでしょうか。こうなると、口うるさい上司だということになってしまいます。つまり人の評価に目が向いてしまいます。ともすると感情論に発展してしまいます。そして言われてやったという、一過性の改善に終わってしまいます。

 それをさきほどのように、ゴミ、埃を可視化してその凄さを訴える。人ではなくその現象や現実に着目してもらうことは、意識が変化することや行動に繋がると言う効果があります。それを誉めたり上手く活用すれば、継続することに繋がります。ここで言いたいのは、“人は、これではいけないと心に痛みを感じることで、行動を起こす”と言うことです。

 エアシャワーの中には、相当な量のゴミ、埃があります。例えば、防塵衣に付着したゴミや埃は、ジェットエアーである程度吹き飛ばします。ただ狭い空間ですので、その中に浮遊、あるいは内壁に付着しています。又床がグレーチング(床が格子状の金属)の場合は、靴と擦れることによりゴミが発生します。それが床下に溜まっています。実際に掃除してみると分かります。エアシャワー内の清浄度を測定すると、掃除直後は一旦多くなりますが、少しするとその値は落ち着いて来ます。時間経過によりまた増えて来ますので、定期的な清掃も必要になります。エアシャワー内に貼ったクリーンマットはそのバロメータとして活用出来ます。そろそろ清掃しなくてはいけないよね、ということになり、清掃周期も見えて来ます。

 ただし、床には貼らないことです。その理由は、エアシャワーを浴びると、防塵衣に若干静電気が起きるからです。ジェットエアーで防塵衣を擦る、つまりエアーと防塵衣の摩擦で静電気が発生するわけです。それが通常はクリーンシューズを経由して、床に逃げるようになっています。ところが、エアシャワー内の床にクリーンマットを...

貼ってしまうと、クリーンマットはビニールに粘着物が付着させてあるいわゆる絶縁物ですから、床に静電気が逃げません。従ってジェットが停止しても防塵衣に発生した静電気は直ぐには逃げません(減衰に時間がかかる)ので、浮遊している埃が付着してしまいす。そしてクリーンルームに持ち込まれてしまいます。

 元々、エアシャワーはクリーンルームへのゴミの持ち込みを減らすと言う関所、玄関ですが、その役目が果たせないことになります。クリーンルームの4原則の最初にある“持ち込まない”と言うところの着眼点ですね。

 こういうことは、理論、理屈を唱えるよりも、上記例のように可視化して訴えながら、段々意識を変えていけば良いのです。ここにも管理者の行動や部下の指導と育成のポイントが幾つかあります。

◆関連解説『環境マネジメント』

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