研磨・琢磨のトラブル、エッチング:金属材料基礎講座(その117)

【目次】

    1. 研磨・琢磨のトラブル

    研磨・琢磨作業におけるトラブルの多くはキズに関することだが、他にも試料端のダレ、研磨材のめり込み、コメットテイルなどがあります。研磨・琢磨における目的は、適切な研磨キズを試料全体につけていき、最終的に鏡面仕上げすることです。この時に特に大きく深いキズが観察される時は、汚れやゴミまたは前の研磨カスが残っていることが考えられます。これはバフ研磨で特に問題になりやすいです。

     

    大きなキズの対策としては、まず試料とバフ布を洗浄します。小さな汚れやゴミでも、研磨盤が回転する度に試料を傷つけてしまうからです。次に、バフ布の劣化を確認します。バフ布には様々な種類がありますが、いずれも消耗品です。使用すればするほど、バフ布の繊維などが乱れ、破れていきます。これが試料を大きく傷つける原因となります。

     

    試料端のダレとは試料の端が丸く研磨されることです。これは研磨時の方向と試料にかかる応力分布が不均一になると顕著になります。また、傾向としてバフ布が軟らかくなるほど、研磨時間が長くなるほど試料の端がダレやすくなります。ダレ防止には研磨の方向を考慮して研磨を行うこと、硬い樹脂を使用すること、試料断面に硬い材料を挟んで埋込むことなどが有効です。

     

    研磨材のめり込みはダイアモンド粒子などの硬い研磨材が試料表面にめり込むことです。研磨材のめり込みを試料に元々存在する不純物介在物と見間違うこともあります。しかし、研磨材がめり込む時はめり込んでいるものの数が多いので、それを意識すると気づきやすくなります。研磨材のめり込みが起きる時は荷重、回転速度、研磨材、バフ布の相性などの研磨条件が適切ではないことが多いです。

     

    コメットテイルは一方向に研磨することによって試料中の硬い相や粒子が尾を引いたように見える状態です。硬さの異なる相や粒子が一方向に研磨され、その段差が一方向に伸びることによって生じます。コメットテイルは一方向で長時間研磨するのではなく、研磨の方向を随時変えて研磨することで防ぐことができます。

     

    2. エッチング

    エッチングとは鏡面仕上げに研磨した試料を特定の溶液(エッチング液)に浸すことで、表面の結晶粒界や特定の相などを優先的に腐食させ、適度な凹凸をつけることです。組織中の結晶粒界や特定の相はエッチングにおいて溶解速度が異なります。母相がほとんど溶解されず光沢を保ち、結晶粒界だけが腐食されるほど鮮明な金属組織になります。試料を鏡面仕上げして、エッチングせずに光学顕微鏡観察すると、平坦で単一な状態しか観察されません。この時確認できるのは主に不純物介在物や欠陥などです。エッチングにより表面に凹凸ができると、光学顕微鏡観察では陰影ができ、それが金属組織として観察できます。

     

    エッチング液は材料ごとに様々に存在します。その濃度や浸漬時間などの条件は試行錯誤して決めていくことが求められます。また、焼入れした鋼ではマルテンサイト組織を観察する時と、旧オーステナイト粒界を観察する時では異なるエッチング液が使用されます。そのため、同じ材料でも観察する目的によってエッチングを使い分けます。エッチング液の多くは経験的に作り出されたものが多いです。実際にエッチングしてより鮮明な金属組織が得たい時などは、配合、時間、温度などを変え、別のエッチング液を試すことを行います。

     

    エッチング液の例として鉄鋼材料では硝酸とエタノールの通称ナイタル溶液(フェライト、パーライト、マルテンサイトなど)、ピクリン酸を使用したAGS...

    溶液(ピクリン酸水溶液+界面活性剤、旧オーステナイト粒界など)があります。アルミニウム合金はフッ酸、水酸化ナトリウムなどを使用します。銅合金は塩化第二鉄と塩酸のグラード試薬などを使用します。マグネシウムは硝酸、リン酸、ピクリン酸、エタノールなどを組み合わせて使用します。

     

    次回に続きます。

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